自分の退職金はいくらぐらいになるのか、気になっている人も多いでしょう。退職金の制度や計算方法は企業によって異なるので、正確な金額を算出するのは困難です。しかし、企業規模や勤続年数などを基に、おおよその額を弾き出すことはできます。
本記事では、退職金制度や退職金の相場、計算方法などについて、くわしくご紹介します。退職金にかかる税金や確定申告についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
退職金とは
退職金とは、勤務していた企業から退職時に支払われる賃金です。定年退職のときにもらうというイメージもありますが、早期退職でも勤務年数に応じた退職金が支払われることもあります。
ただし、企業に退職金制度を設ける義務はありません。厚生労働省が発表した「平成30年就労条件総合調査」によると、退職金制度を導入している企業の割合は80.5%となっています。
退職金の相場や計算方法をチェックする前に、自分が勤めている企業や転職を検討している企業の退職金制度を確認してみるといいでしょう。
退職金の主な制度は4種類
退職金の支給方法には「現金一括支給」と「年金形式の分割支給」の2種類があります。企業によって採用している支給方法や退職金制度は異なりますが、主な制度は下記の4種類となります。
退職金の支給方法 | 退職金制度 |
---|---|
退職一時金(現金一括支給) | 退職一時金制度 |
中小企業退職金共済制度 | |
退職年金(分割支給) | 確定給付企業年金制度 |
企業型確定拠出年金制度 |
各制度の特徴を、くわしく見ていきましょう。
退職一時金制度
退職一時金制度とは、退職時に一括で退職金が支給される制度です。支給される退職金は、各企業が独自の内部留保で積み立てています。
中小企業退職金共済制度
中小企業退職金共済制度とは、企業が共済と契約を結び、毎月の掛金を支払いながら退職金を積み立てて支給する制度です。退職金の額は掛金と勤務年数によって決まります。
確定給付企業年金
確定給付企業年金とは、 生命保険会社などの外部組織に掛金を拠出して管理運用を行なう制度です。退職金は年金として分割支給されます。掛金を損金扱いにできるのが、企業側のメリットです。ただし、運用の失敗などが原因で資金を準備できなくなった場合は、企業が不足分を補填しなければいけません。
企業型確定拠出年金制度
企業型確定拠出年金(企業型DC)制度とは、 企業が毎月積み立てた掛金を従業員が自ら運用する制度です。掛金や運用方法はすべて従業員に任されるため、企業側には支払責任を負わなくて済むというメリットがあります。運用の失敗などによって積み立てた退職金が減少しても、企業に補填する義務はありません。
退職金の相場
ここからは、さまざまなデータに基づいた退職金の相場をご紹介していきます。
- 大企業
- 中小企業
- 業種別
- 勤務年数別
それぞれの退職金相場をくわしく見ていきましょう。
大企業の平均退職金額
厚生労働省(中央労働委員会)が発表した「賃金事情等総合調査(令和元年)」には、「企業規模別の平均退職金額」が記載されています。同調査による大企業の定義は「資本金5億円以上かつ労働者1,000人以上」です。
大学卒は22歳、高校卒は18歳で入社して定年退職まで勤務した場合の平均退職金は、下記となっています。
大学卒 | 2,289万5,000円 |
高校卒 | 1,858万9,000円 |
中小企業の平均退職金額
中小企業の退職金相場は、東京都産業労働局が「中小企業の賃金・退職金事情」で公表しています。同調査が中小企業と定義しているのは「従業員数が10人から299人の企業」です。
下記の金額は、卒業後すぐに入社して定年退職まで同一企業で勤務した場合の「モデル退職金」です。
大学卒 | 1,118万9,000円 |
高校卒 | 1,031万4,000円 |
退職金の業種別平均相場
厚生労働省(中央労働委員会)が発表した「賃金事情等総合調査(令和元年)」では、業種別の退職金データも公表されています。主な業種の退職金相場をチェックしてみましょう。
大学卒 | 高校卒 | |
---|---|---|
食品・たばこ | 1,764万1,000円 | 1,661万5,000円 |
繊維 | 1,998万0,000円 | - |
パルプ・製紙 | 1,673万7,000円 | 1,450万7,000円 |
化学 | 2,445万5,000円 | 2,088万6,000円 |
機械 | 2,225万0,000円 | 1,667万8,000円 |
電気機器 | 2,532万7,000円 | 1,902万6,000円 |
車輌・自動車 | 2,938万4,000円 | 1,623万0,000円 |
建設 | 1,931万2,000円 | 2,136万2,000円 |
銀行・保険 | 1,820万2,000円 | 822万9,000円 |
私鉄・バス | - | 1,954万6,000円 |
海運・倉庫 | 2,220万0,000円 | - |
百貨店・スーパー | 2,329万7,000円 | 1,978万4,000円 |
新聞・放送 | 3,959万6,000円 | 2,169万2,000円 |
退職金がもっとも高い業種は「新聞・放送」、低い業種は「パルプ・製紙」となっています。業種によって大学卒と高校卒の退職金額差が異なるのは興味深いところです。
退職金の勤続年数別平均相場
勤続年数に応じた退職金の違いもチェックしてみましょう。りそな年金研究所が発表した「企業年金ノート(2021年4月)」には、大学卒業後に入社した場合の「勤続年数別モデル退職金」が掲載されています。
3年 (25歳) |
5年 (27歳) |
10年 (32歳) |
20年 (42歳) |
30年 (52歳) |
定年 | ||
中央労働委員会 (大企業・2019) |
会社都合 | 68万7,000円 | 123万8,000円 | 312万8,000円 | 965万9,000円 | 2,012万9,000円 | 2,183万6,000円 |
自己都合 | 32万8,000円 | 63万4,000円 | 186万1,000円 | 801万8,000円 | 1,898万3,000円 | 2,183万6,000円 | |
東京都 (中小企業・2018) |
会社都合 | 34万6,000円 | 60万3,000円 | 148万3,000円 | 425万0,000円 | 785万6,000円 | 2,183万6,000円 |
自己都合 | 23万1,000円 | 42万3,000円 | 113万5,000円 | 353万4,000円 | 705万9,000円 | 2,183万6,000円 |
勤続年数が長いほど退職金も高くなることがわかります。「自己都合退職」は「会社都合退職」より退職金額が少なくなっている点にも注目です。
なお、「自己都合退職」とは、転職や結婚などの個人的な理由で退職することを指します。経営破綻や業績不振による退職は「会社都合退職」です。
退職金の計算方法
退職金を計算する方法には、主に下記の4種類があります。
- 定額制
- 基本給連動型
- 別テーブル制
- ポイント制
企業によって採用している計算方法が異なるので、就業規則などで確認してみましょう。
定額制
定額制とは、勤続年数に連動して退職金の支給金額が決まる方式です。基本給や貢献度には影響されません。勤続年数が5年なら20万円、10年なら40万円といった形で退職金が決められます。
基本給連動型
基本給連動型とは、勤続年数に基本給と退職理由も加味して退職金を算出する方法です。基本的な計算式は下記となります。
- 退職金=退職時の基本給×支給率×退職事由係数
勤続年数によって変わる「支給率」と、退職理由を要素に加える「退職事由係数」の数値は企業によって異なりますが、一般的には勤続年数が長いほど退職金の額も高くなります。
参考までに、下記事例の退職金を計算してみましょう。
勤続年数15年
支給率8.0
自己都合退職の係数0.8
退職時の基本給35万円
退職時の基本給35万円×支給率8.0×退職事由係数(自己都合)0.8= 224万円
別テーブル制
別テーブル制も勤続年数と退職理由を加味して退職金を算出する方法です。ただし、基本給連動型とは異なり給与制度とはリンクしません。勤務年数によって変わる「基礎金額」と等級に応じて変動する「等級係数」を給与制度とは別に設けて退職金を算出します。計算式は次のとおりです。
- 退職金=基礎金額×等級係数
ポイント制
ポイント制とは、従業員に付与されるポイントに応じて退職金を算出する方法です。計算式は以下となります。
- 退職金=退職金ポイント×ポイント単価×退職事由係数
下記の例で退職金を計算してみましょう。
ポイント設定条件 | 勤続年数1年ごとに+20ポイント 役職ごとにポイントが加算 (係長:20ポイント部長:30ポイントなど) 自己都合退職の係数は0.8 ポイント単価は10,000円 |
対象となる従業員 | 勤続年数10年 役職は部長 自己都合退職 |
計算式と算出される退職金は、次のようになります。
- 退職金ポイント(勤続年数ポイント200+役職ポイント30)×ポイント単価10,000円×退職事由係数0.8=184万円
退職金にかかる税金
退職金には税金がかかります。ただし、「退職一時金として一括で受け取る場合」と「年金形式の分割で受け取る場合」では課税される額が異なるので注意が必要です。
受け取り方法別の税金について、くわしくみていきましょう。
退職一時金の税金
退職一時金として一括で受け取る場合は「退職所得」になるため、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税がかかります。退職所得申告書を勤務先に提出すれば、確定申告の必要はありません。
下記の例で退職金にかかる所得税を計算してみましょう。
退職金支給額2,200万円
勤続年数23年5か月
まずは「退職所得控除」を算出します。計算方法は下表のとおりです。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(下限80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
1年未満の端数は切り上げて年単位にします。この例では勤務年数が23年5か月なので、端数を切り上げて「24年」です。
800万円+70万円×(24年-20年)=1,080万円
次に、下記の計算式で課税所得金額を算出します。
- 課税退職所得金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×2分の1
退職金が2,200万円、退職所得控除額は1,080万円なので、計算式は下記となります。
(2,200万円-1,080万円)×2分の1=560万円
課税退職所得金額を算出したら、国税庁が発表している「所得税の税率および控除額の速算表」で税率と控除額を確認します。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円〜 | 45% | 479万6,000円 |
課税退職所得金額560万円の税率は20%、控除額は42万7,500円です。これを、下記の計算式に代入します。
- 所得税額=課税退職所得金額×所得税率-控除額
実際に計算してみましょう。
560万円×20%-42万7,500円=69万2,500円
次に、下記の式で復興所得税を求めます。
- 復興特別所得税額=所得税額×2.1%
実際に計算してみましょう。
69万2,500円×2.1%=14,542円
支払うべき所得税と復興特別所得税の総額は、70万7,042円となります。
年金で受け取る場合の税金
年金形式で受け取る退職金は「雑所得」として扱われます。下記に該当する場合は、確定申告不要です。
- 公的年金などの収入合計が400万円以下
- 公的年金などに係る雑所得以外の所得金額が20万円以下
退職金がもらえるのはいつ?
退職金がいつ支払われるのかは企業によって異なりますが、「退職してから1~2か月後」が一般的です。退職金制度の導入は法的義務がないため、支給する時期もすべて企業の裁量に委ねられています。
退職金の現状と今後
従来の退職金算出方法は、勤続年数に比例して退職金額も上がっていく「年功型」が主流でした。しかし、現在では会社への貢献度合いも含めて退職金を算出する「成果報酬型」を採用する企業が増えてきています。とくに、大企業ではこの傾向が顕著で「ポイント制」を採用する企業の割合が突出しています。
中小業は従来の「定額制」や「退職時給与」を採用している割合が少なくありません。これは、退職金の管理や算定方法が簡便であることが理由と考えられています。
退職金制度の導入状況にも大企業と中小企業では差が見られます。
上表をみてもわかるように、大企業では90%以上が何らかの退職金制度を導入しています。しかし、中小企業では退職金制度の導入は減少傾向にあります。
今後は退職金額だけではなく、退職金制度の導入率においても大企業と中小企業の差が開いていくかもしれません。
退職金を理解して老後や転職に役立てよう
退職金は企業によって扱いが異なるので正確な金額の算出は困難ですが、大体の相場はわかります。
気になる方は、自分の勤務年数や業種を基に相場や計算方法を確認してみましょう。他の業種や職種の退職金をチェックすれば、転職する際の参考にもなるはずです。