この季節、肌を露出することが増える夏に向けてダイエットに取り組んでいる人は多いと思います。たくさんのダイエット情報が飛び交う昨今ですが、どれを試したとしても、順調に壁にぶつからず目標を達成できたという人はあまりいないのではないでしょうか。
管理栄養士で分子栄養学を専門とする篠塚明日香さんは、「ダイエットの停滞時には、摂取した食べ物のエネルギーへの変換がうまくいっていない可能性があります。そんなときには腸の状態に目を向けてほしい」と語ります。篠塚さんに、腸を元気にして健康的に痩せるダイエットについて聞きました。
■カロリーの正常な燃焼には、十分なビタミンやミネラルが必要
管理栄養士をしていると、「カロリーの管理はできているのに体重が減らない…」と悩んでいるクライアントさんの話をよく聞きます。そんなときに持ってほしいのは、「自分の体は、食べたものをしっかり燃やせているか」という視点です。
人は食事で摂取したカロリー(炭水化物、タンパク質、脂肪)をエネルギーに変換し、それを消費しながら活動しています。摂取カロリーが消費カロリーを上回ったときには、脂肪として体に蓄積され、これが過剰になると太ります。太る原因はカロリーのインアウトバランスだけではありませんが、原則として食べ過ぎは脂肪の蓄えを増やすものです。
ただ、摂取したカロリーはそこまで多くないにもかかわらず、「カロリーをしっかりエネルギーに変換する」機能が弱いために太ってしまう人もいるのです。そうした機能低下が起こる原因のひとつに、摂取したカロリーを分解し、エネルギーとして燃焼させるための化学変化に必要なビタミンやミネラルが体内に不足していることがあります。
では、なぜビタミンやミネラルが不足するのでしょうか? その原因としてよく指摘されるのが腸内環境です。腸内に住み、体に対して働く細菌のバランスが悪いと、ビタミンやミネラルを体に取り入れにくくなるのです。
自分の腸内環境がどのような状態かは、便の色でおおよそ知ることができます。黄色なら腸内は酸性、黒ならアルカリ性。そして、ビタミンやミネラルの吸収に適した良好な腸内環境といわれているのが両者の中間である黄土色で、これは腸内が弱酸性であることを示します。腸の状態の貴重なサインである便の色に注意を払い、日頃から「黄土色」を維持できるようにケアしましょう。
■腸内細菌を増やし元気にする餌=食物繊維
健康において腸内環境の整備が大切だという話は、いろいろなところで見聞きすると思います。ただ、情報が錯綜していてなにからはじめたらよいのかわからない人も多いかもしれませんね。
大事なポイントは次の2点です。
まず、腸内細菌そのものを増やすこと。様々な菌の名前をパッケージに記載して販売されているヨーグルトなどが有名ですが、ほかにも数多く食品で細菌は補うことができます。例えば、味噌やぬか漬け、納豆、ザワークラウトなどの発酵食品には多くの細菌が含まれています。
もうひとつは、腸内細菌の餌となる「食物繊維」をしっかり摂ること。どんなに腸に細菌を入れても、それが生きていくための餌が供給されないと細菌が育ってくれないからです。細菌が腸のなかで餌(食物繊維)をよく食べ元気に活動している状態ができあがると、腸は必要なビタミンやミネラルとしっかり吸収してくれるようになります。
なお、補足的にもうひとつ挙げておくと、腸の粘膜をできるだけ荒らさないことも大事です。お酒を飲み過ぎたり薬を飲み過ぎたりすると、腸の粘膜が荒れて弱り、これも細菌がよいバランスで育つことを阻害してしまうことがあります。腸内細菌を迎え入れる「土壌」を健康に保つことも、とても大事です。
■水溶性食物繊維を摂るには「ネバネバ」を
ここまで、次のようなことを伝えてきました。
(1)カロリーをしっかりとエネルギーへと転換させるためには、ビタミンやミネラルが必要。
(2)それらを腸で体内へと吸収させるためには腸内環境を整える必要がある。
(3)腸内環境を整えるためには、腸内細菌の餌となる食物繊維の摂取が重要。
整理すると「食物繊維を上手に摂ることが、摂取したカロリーをよく燃やせる体づくりにつながる」ということです。
ここからは、ダイエットに有効な食物繊維の効果的な摂取の仕方を紹介していきましょう。
食物繊維には海藻類やこんにゃくなどに多く含まれる「水溶性食物繊維」と、玄米などの穀類や野菜や豆類などに多く含まれる「不溶性食物繊維」の2種類があります。どちらも腸をはじめとする体の健康を助けてくれますが、進んで摂取してほしいのは、腸内で不溶性食物繊維以上に発酵し、細菌の良質な餌となってくれる水溶性食物繊維です。
不溶性食物繊維が日常的な食生活でもある程度摂れるのに対し、水溶性食物繊維は意識的に摂らないと不足しがちであることも、積極的な摂取をおすすめする理由です。
水溶性食物繊維を含む食材の多くは、「ネバネバしている」という特徴があります。それは食物繊維の一部が食材に含まれた水などに溶けジェル状になっているからです。代表的なところでは、オクラ・モロヘイヤ・山芋といった野菜類や芋類、もずくやめかぶといった海藻類。
また、納豆にも含まれています。原料の大豆は不溶性食物繊維を含む食品として知られますが、発酵させると水溶性食物繊維も含む食品になります。
日々の食生活に取り入れやすそうなのは、1食用のパックで販売されている、もずく、めかぶ、納豆などでしょうか。冷蔵庫に常備しておけばいつでも食卓に出せるのが便利なので、わたしもよく食べています。
厚生労働省では、1日に摂取する食物繊維の目標量を成人男子は20〜21g、成人女性は17〜18gとしています。普段の生活のなかでは厳密に計算もしませんし、これを毎日達成するのはなかなか難しい。でも、しっかり意識しておきたいところです。
水溶性食物繊維なら海藻類、不溶性食物繊維ならキノコ類がカロリー低めでミネラルも豊富なので、ダイエットを目的としているときにはこのあたりを中心に摂っていくことをおすすめします。
どうしても食品から食物繊維を摂るのが難しい場合は、「イヌリンパウダー」のような芋類などを原材料とする粉末状の水溶性食物繊維などを、料理や飲料に混ぜて摂取するといいでしょう。
■「ネバネバ」は腸内の脂肪を吸着し体外に運ぶ
「ネバネバ食品」には、腸内細菌の餌となってくれること以外にも、もうひとつダイエットにおけるメリットがあります。ネバネバ食品に多く含まれる水溶性食物繊維は胃や腸で水分を得てさらにジェル化すると、腸内を移動しながら漂っている脂質などを吸着してくれるのです。
そしてそのまま便となり体の外に排出してくれるので、不要な脂質の体内での蓄積を避けることができます。
揚げ物などを食べる前に水溶性食物繊維を摂取するようにすると、後から入ってきた脂質をよく吸着してくれるので、ダイエット効果が期待できます。水溶性食物繊維には、そのほかにも血糖値の上昇を穏やかにする効果などもあり、食生活を通じて健康を導くうえでとてもメリットの大きな栄養素です。
食物繊維を積極的に摂り、腸内環境を整え、体のなかを元気にすることで痩せていく—。今年はそんな健康的なダイエットで体を絞り、夏を迎えてみましょう。がむしゃらにカロリーをセーブして痩せるよりも、きっと活動的で楽しい夏になるはずです。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/秋山健一郎 写真/櫻井健司