大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第19回「勘定組頭 渋沢篤太夫」(脚本:大森美香 演出:尾崎裕人)。時代は経済! 東の渋沢栄一(吉沢亮)に対する西の五代才助(友厚:ディーン・フジオカ)も2度目の登場で、幕府の勘定奉行・小栗忠順(上野介:武田真治)、一橋の渋沢篤太夫、ベルギーに行っている薩摩の五代才助が勢ぞろい。経済ドラマのようになってきた。

  • 『青天を衝け』渋沢栄一(篤太夫)役の吉沢亮

ついに紙幣を作った篤太夫

徳川家康(北大路欣也)いわく、武士の時代、お金は卑しいものとされていたが、これからはお金の時代。やがて、小栗、渋沢、五代が時代をリードしていくと思うと、篤太夫風に言えば胸がぐるぐるする。日曜劇場『半沢直樹』(TBS)が好きな人もテレビの前でぐるぐるしているかも。

小栗はアメリカの技術に刺激を受け、造船所のネジを1本持ち帰ってきたことに象徴されるように産業に力を入れ、司馬遼太郎は著書で彼のことを「明治の父」と呼んだ。五代はベルギーで知識を身に着けているところ。やがて大阪経済を発展させていく。そして、我らが篤太夫は目下、年貢米の入札制、火薬製造、一橋家で木綿をまとめて買って売ってブランド化、硝石の製造所、物産所……と大忙し。ついに紙幣を作って使用するまでに至る。これから一万円札の顔になる人物が、お札を作っている姿にも胸がぐるぐるした。やがて、大蔵省に入ったり、そこで紙幣頭という職についたり、紙幣とは切っても切れない関係となっていく。

木綿の件では最初、民衆は篤太夫を疑っていたが、結果が出たことで厚い信頼を寄せるようになる。「白木綿でござい!」などという篤太夫の口調が軽妙で庶民的で、亡き円四郎(堤真一)に影響されているような感じもした。吉沢亮は明るくたくましく人を束ねていく身振りが巧み。顔は国宝級に超越しているのに親しみやすさも持ち合わせていくところが魅力。

引き継がれている円四郎や左内の志

その頃、幕府は7年越しに英国と修好通商条約を結ぶ。それに当たり、英国のパークスの強引さにほとほと参っていた家茂(磯村勇斗の困り顔が良い)が征夷大将軍の座を辞して慶喜(草なぎ剛)に譲ると言い出す。パッパカパッパカと暴れん坊将軍的に颯爽と馬で駆けつけた慶喜は、「将軍は貴方様でなくてはならぬのです」と家茂を励ます。自分は「輝きが過ぎる」ことがやっぱり本人はいやでたまらないのだろう。あくまでも家茂を立てる。

さらに慶喜は、正親町三条実愛(声優の置鮎龍太郎の登場にSNSは沸いた)が薩摩に出入りしている情報を掴み指摘、このまま将軍にさせられることになったら切腹する。ただし多少の兵をもっているので自分の死後、彼らが何をするかわからないと三条を脅す。円四郎が篤太夫や成一郎(高良健吾)に命じて兵を集めていたことがここでも役に立っている。

朝廷と敵対している薩摩。幕府はフランスと組んで長州をつぶし、その次は薩摩ではないかと心配する大久保一蔵(石丸幹二)。だが松平春嶽(要潤)は、全国の力を集中させることは橋本左内(小池徹平)が考えていたことなので悪いことではないという態度を見せる(勢力分布を示すために金平糖を使っているのは左内は金平糖が好物だったからだろう)。

新しい時代へ徐々に変化してはいるが、円四郎や左内など志半ばで亡くなった者のやってきたことが引き継がれたからこその今。彼らの死は残念だった決して無駄死にではないのだと思うとじーんっとなった。

慶喜が見とれるほどの篤太夫は吉沢だからこそ

篤太夫は慶喜に紙幣を提案する。この時代は貨幣の時代だが重たいので持ち歩くのも難儀。紙幣に変えたいが、紙では値打ちがない。その値打ちを作るために信用をつくればいいと篤太夫は慶喜に提案し、凝ったデザインの紙幣を作り出す。偽札製造防止策もちゃんと考えていた。

提案している時、篤太夫は生き生きした顔をしている。聞いている慶喜はぼんやりした顔。「お主の顔に見入ってしまった」と慶喜に言われて篤太夫は紙幣で顔を隠す。輝き過ぎて困っている慶喜が見とれてしまうほどの篤太夫は吉沢だからこそ。

篤太夫は銀札引換所を設立、またたく間に一橋家の懐具合が安定したため、勘定組頭になる。成一郎(高良健吾)も出世し、住処を別にすることになった。単に各々家を持つということではなく、お互い別々の道を歩んでいくという人生の変化である。

成一郎のほうはまだ“武士”を価値の高いものと考えていて、篤太夫の今の仕事は村にいた頃と変わらないと言うが、「俺にはこちのほうが合っているのかもしれない」と篤太夫は自分の道が見えて来た様子。幕府の勘定奉行・小栗にライバル心すら抱きはじめる。

武士として活躍したいと思っている成一郎は血の気が多い感じになっているが、篤太夫は「道は違(たが)えるが、互いに身ぃ締めて一橋を強くすんべえ」と寛容に振る舞う。成一郎は成一郎で頑張っていて応援したいが、篤太夫の視野の広がりが目覚ましい。お金の懐だけでなく心の懐も豊かになっている。

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