きょう26日に放送されるフジテレビ系『世にも奇妙な物語 ’21夏の特別編』(21:00~23:10)。短編で構成されたオムニバスドラマの人気シリーズで、タモリが物語の案内役となり、ホラー、コメディ、ミステリー、SFなど、ジャンルを問わず、これまで多くの”奇妙な物語”を生み出してきた。

今年初めての放送となる今回は、「デジャヴ」(上白石萌歌主演)、「三途の川アウトレットパーク」(加藤シゲアキ)、「成る」(又吉直樹)、「あと15秒で死ぬ」(吉瀬美智子)という“死に直面した主人公”をテーマにした4編。中でも、『世にも』らしい世界観とストーリー、そして役者の魅力があふれているのが、「デジャヴ」だ。

  • 『世にも奇妙な物語「デジャヴ」に主演する上白石萌歌=フジテレビ提供

■“わかりやすさ”と“わかりにくさ”の塩梅が絶妙

ある朝目覚めると、突然同じ光景が繰り返される=デジャヴに襲われ、記憶と現実の中で葛藤しながらその謎を解明していくというストーリー。まず、タイトルにもなっている“デジャヴ”の映像表現が秀逸だ。

一見何気ない日常から物語は始まるが、突然視聴者を“?”にさせる映像を挿入し、徐々に“デジャヴ”の世界へと誘っていく。CGなどで異世界をデコレーションするわけではなく、“同じ光景を繰り返す”という、演出としてはシンプルな手法を用いることで、見慣れたドラマの中で突如違和感を感じさせ、そのことでジワジワと恐怖をも覚えさせることに成功している。

そこからの世界観がまさに“世にも奇妙な物語”。恐怖を感じさせるホラー、記憶の中をさまようSF、自分自身と葛藤する精神世界、犯人を突き止めるミステリー、親子の絆を描いた人間ドラマと、軽快でありながらもディープに、30分弱という短い時間の中で濃密な物語を紡いでいく。この何でもありの要素をこれだけ詰め込んでも成立させてしまうのは、今シリーズの懐の深さと、視聴者も“世にもだからこそ”と許容できてしまう長年の信頼関係があってこそだろう。

もちろん、ストーリーの面白さも負けてはいない。視聴者を飽きさせない予測不能な展開の連続でありながら、“わかりやすさ”と“わかりにくさ”の塩梅が絶妙で、細かく仕掛けられた伏線や、感動的な親子愛もストレートに心に響くなど、原作なしのオリジナル作品とは思えないほど丁寧なつくりとなっている。また、スッキリとモヤモヤがないまぜになる“視聴後感”が実に『世にも』らしく、見終わった後に物語を整理したくなる複雑な味わいも残す。

■くるくると変化する表情の豊かさが見事

そして、何といっても、この作品の質をより高めているのが、『世にも奇妙な物語』に出演することが夢だったという上白石の好演だ。

無垢な大学生の主人公が徐々に“奇妙”な世界へと入り込み、堕ちていくそのグラデーションを見事に表現しており、ホラーで見せる驚き、精神世界に陥った苦悩、家族愛のドラマで見せる繊細さなど、くるくると変化する表情の豊かさが素晴らしい。“かすかに残る記憶の中で真実に立ち向かっていく”というアドベンチャー要素もあり、そのたくましさが上白石のキャラクターともぴたりと重なっている。

また、ディープな世界に陥る様子を、暗闇の中にベッドがポツンと存在する…という映像で表現するのだが、ともすればチープになってしまってもおかしくない演出を、上白石の熱演によって、シンプルな画面だからこそより切実な場面に仕上がっている。様々な要素が満載の世界観だが、上白石でなければこれだけ深みを感じるドラマにはならなかっただろう。それほど彼女の魅力が爆発している。

  • 「三途の川アウトレットパーク」加藤シゲアキ

もちろん、他の3編どれもバラエティに富んでおり、興味深い作品ばかり。「三途の川アウトレットパーク」は、コミカルなタイトルとは裏腹に感動的なラブストーリー仕立てで、ドラマチックなラストは仕掛けとしても物語としても美しい。「成る」は、棋士である主人公の人生を将棋に例えてコミカルに表現したユニークな一遍。「あと15秒で死ぬ」は、キャッチーなタイトル通り、“15秒”の中で繰り広げられる殺人犯との攻防戦をスピーディーに展開させ、ミステリーとしても良くできている。

どの作品も表情豊かでありながら、どれも今シリーズでしか成立させることができないであろう“奇妙”な4編。必見だ。

  • 「成る」又吉直樹

  • 「あと15秒で死ぬ」吉瀬美智子

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