コロナ禍で一気に広まったリモートワーク。椅子に座りモニタを見つめる時間が延びたこともあってか、眼精疲労からくる肩こりなどの悩みを抱える人が増えています。管理栄養士で分子栄養学を専門とする篠塚明日香さんは、「肩こりの解消法は多くあるけれど、体の内側から凝りをほぐす方法も知ってほしい」といいます。

  • 食を通じた「肩こり改善策」とは?_リモートワークでガチガチの肩に効く! /管理栄養士、分子栄養学カウンセラー・篠塚明日香

リモートワークを快適なものにするための、「食を通じた、内側からの肩こり改善策」について聞きました。

■筋肉のこわばりの裏にあるマグネシウム不足

肩こりの解消というと、マッサージや整体、湿布や塗り薬のような外側からの対処がまず思い浮かぶかもしれません。でも、食事を通じて体の内側から改善していく方法もあります。肩こりはなんらかの理由で肩付近に血行不良が発生し、それが痛みやだるさを引き起こすものです。そのとき、肩まわりの筋肉ががっちりと硬くなっているなら、「マグネシウム不足」が疑われます。

マグネシウムはカルシウムとともに、筋肉に影響を与えている栄養素です。マグネシウムは筋肉を弛緩させ、カルシウムは筋肉を収縮させる役割を担っています。弛緩と収縮を繰り返して動いている心臓などを思い浮かべてもらうとわかりやすいかもしれませんね。連携して筋肉を動かしていることから、「ブラザーミネラル」と呼ばれることもあります。

しかし、体内におけるマグネシウムとカルシウムのバランスは様々な要因で崩れることがあります。多いのはマグネシウムが大量に消費され、相対的に体内のカルシウムが過剰になってしまうことです。マグネシウムはストレスを受けたりお酒を飲んだりしたときに消費されるほか、糖質をエネルギーに変えるときにも大量に使われます。

ストレスをやわらげようとしてお酒をたくさん飲んだり、甘いものを頻繁に食べたりする食生活を送っていると、マグネシウムはどんどん使われ、みるみるうちに減ってしまうのです。

また、日本の水はミネラル成分の少ない軟水ですが、それを浄水器でさらに濾過して飲むことが多いので、飲料水から得られるマグネシウムがかなり少なくなってしまうことも、マグネシウムの不足を招く一因となっています。

マグネシウムが不足してカルシウムとのバランスが崩れると、体はカルシウムの影響を受けやすくなります。筋肉が収縮しがちになり、肩こりなどの不調が生じるようになるのです。こうして起こった肩こりを内側からほぐすには、「マグネシウム不足」を解消する必要があります。

■「にがり」でマグネシウムを効率的に摂取

マグネシウムを多く含む食材の代表格は、豆、海藻、キノコなどです。マグネシウムの不足を解消するには、1日300mgぐらいの摂取が目標になりますが、これらの食品だけでまかなおうとするとかなりの量を食べる必要があり、毎日となるとちょっと大変。

サプリメントで補うのもよいのですが、市販されているマグネシウムのサプリメントは多くがカルシウムも含んでおり、マグネシウムだけを補うのには不向きなのです。マグネシウムのみのサプリメントは海外の製品はたくさんあるものの誰でも気軽に買えるものではなく、国産の製品は少なく、やや高価なのが難点です。

そこでおすすめしたいのが、にがりです。にがりは海水からつくられる食品添加物で、豆腐を固めるために使われたりするものです。いろいろな種類があるのでおおまかな目安となりますが、小さじ1杯のにがりで50mgぐらいのマグネシウムを摂取することができます。

小さじ3杯で1日の目標の半分にあたる150mgくらいが摂取できるので、なかなかの効率といっていいでしょう。独特の苦味があるので、最初は入れ過ぎに注意しながらみそ汁や麦茶に混ぜてみましょう。炊飯器でご飯と一緒に炊くのもいいかもしれません。

にがりである程度の量のマグネシウムを摂取して、そこに豆、海藻、キノコを組み合わせて目標量を達成するというのが、無理のないプランだと思います。なお、海藻では突出して多くのマグネシウムを含んでいるアオサがおすすめです。

これは食を通じた肩こりの改善というテーマからはそれますが、マグネシウムには「皮膚から吸収されやすい」という特性があります。海外ではアロマセラピストやスポーツ選手がマグネシウムスプレーを患部に直接噴き付けて筋肉のこわばりを緩和しています。

また、硫化マグネシウムを用いた「エプソムソルト」という入浴剤を使った入浴も、体内にマグネシウムを吸収させるのには効果的なようです。経皮吸収の即効性は高いので、1日でも早く肩こりを治したいという人は、ぜひこちらも試してみてください。

■血管を拡げ血流をよくするナイアシンは、「カツオ粉」で

もうひとつ、マグネシウムとは別のアプローチで肩こりの改善をもたらしてくれるのがナイアシンです。ナイアシンは血管拡張効果で血流をよくするほか、筋肉を酸性に傾けて疲労をもたらす乳酸の代謝にも関わっており、疲労感の軽減に一役買っています。ナイアシンを不足させずきちんと補うことでも、肩こりの改善はできます。

ナイアシンを多く含む食材としては、カツオが有名です。乾燥させ粉にしたカツオ粉を常備しておくと便利でしょう。ナイアシンは熱に強いので、煮物やお味噌汁に入れて使ってみるのもいいと思います。そのほか、おひたしや焼きそばなどにかけるのもおすすめです。

カツオのほかには、ピーナッツやエリンギ、タラコなどにもナイアシンは含まれています。 このなかではエリンギをおすすめしたいですね。ナイアシンの1日の推奨値は成人の場合男性が13〜15mg、女性が11mg〜12mgですが、エリンギのお味噌汁1杯で6mg程度、1日に必要な量の約半分が摂取できます。

在宅中心の勤務やモニタを使ったオンライン会議などは、もう少し続きそうです。肩こりなど体の疲れと上手に付き合うための選択肢のひとつに、「食を通じた症状の改善」も入れて、快適なリモートワークを実現させましょう。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/秋山健一郎 写真/櫻井健司