「コーヒーを飲むように、日常的に抹茶を飲む文化を創りたい」と語るのは、World Matcha Inc(本社:アメリカ カリフォルニア州サンマテオ市)CEOの塚田英次郎氏。塚田氏は、サントリーで長くお茶ビジネスに携わり、業界にイノベーションを起こしてきました。
そんな塚田氏が、次に起こすイノベーションの舞台は世界。40歳をすぎてなぜ起業し、なぜ世界を舞台にチャレンジを続けるのか。本稿では前回に続き、税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が、そんな塚田英次郎氏と対談を行いました。
Matchaでカフェインクラッシュを解消したい
井上一生氏(以下、井上):塚田さんはサントリーを退職してWorld Matcha Incを起業されたわけですが、なぜアメリカで起業を?
塚田英次郎氏(以下、塚田):アメリカにおける抹茶の可能性を確信していたからです。2014年頃から、NYや西海岸の若者たちが抹茶に注目し始めていました。「カフェインクラッシュ」と言って、コーヒーの飲みすぎ、カフェインの摂りすぎによる不調を感じる人が増えていて。それで、なだらかにジワジワ利くものを求めていた。抹茶は成分が良くて、まさにジワジワ利く。だから、コーヒーを飲むように日常的に抹茶を飲む文化を創りたかったんです。「アメリカが抹茶を求めている!」と確信して「Cuzen Matcha/空禅抹茶」を開発しました。
井上:なるほど、それほどまでに確信があったのですね。
塚田:「禅」はバランスが取れている、ウェルネスの概念で「空」は日常に抹茶がある空間(スペース)を表しています。それで「Cuzen Matcha/空禅抹茶」という名前をつけました。その世界観は、マシンのデザインにも反映されています。
井上:障子の円窓(えんそう)のようなデザインで、和室にも洋室にも馴染みますね。自分の心を見つめる時間、心を整える時間は、とても大切ですし貴重だと思います。アメリカでは実際にはどのような反響があったのですか?
塚田:ありがたいことに、西海岸のセレブにも受け入れられています。抹茶が日常の飲み物として受け入れられるチャンスを感じているのですが、「抹茶の粉を買う」文化はまだありません。コーヒーなら、豆を買って家で飲むと思いますが、抹茶はまだそうじゃない。しかし、そこに可能性があります。
井上:自分で抹茶を点てるのは難しいですよね。日本人でも難しい。酸化や劣化の課題もありますね。
塚田:粉のままだと、抹茶には未来がないと感じました。「それなら液体をつくろう」と。しかも使う原料は、源流にさかのぼって碾茶に辿り着きました。碾茶は、抹茶の一歩手前の状態です。碾き立てのお茶の香りや茶葉のうまみを最大限引き出し、フレッシュなものをフレッシュな状態で飲める。水出しで、そのまま飲むのもおいしいのですが炭酸やミルクと混ぜて飲むのもおいしいんですよ。
井上:先ほどいただきましたが、苦くないですし自然に甘くてうまみをすごく感じました。これを飲んだら、他を飲めなくなりますね。
CES 2020イノベーション賞受賞でさらに可能性を確信
塚田:ありがとうございます。2020年のCES(世界最大の家電展示会)では、1000人以上の方々から「うまい」というコメントをいただけました。人種を超えた普遍的なおいしさをつくれたと思います。
CESのブースでのサンプリングで手ごたえを感じたのですが、新型コロナの影響もあって、考えていたサンプリングイベントなどは諦めてオンラインにシフトしました。ただ、やはりオンラインだけで販売するのは難しくて。それで世界初・最大のクラウドファンディング「キックスターター」でPRしたところ、300人以上のお客さんがついて、エバンジェリスト的に「Cuzen Matcha/空禅抹茶」を広めてくれました。キックスターターは、世の中を変えることを求めている人が集まる場所なので、とても良い機会になりましたね。
また「goop(グープ)」という、女優のグウィネス・パルトロウによって設立されたウェルネスとライフスタイルのブランドで、ホリデーギフトとして「Cuzen Matcha/空禅抹茶」を入れてもらえたことが着火点になり、一気に広まりました。今年夏頃には日本でも販売できると思います。今、日本の規格に合わせて準備中です。
Cuzen Matcha/空禅抹茶で茶葉農家を救いたい
井上:塚田さんは、サントリー時代に茶葉農家の現実を知られたと思いますが、「Cuzen Matcha/空禅抹茶」が世界中に知られることが、茶葉農家を支援することにもつながりますね。
塚田:そう思います。ペットボトルのお茶は便利で、多くの日本人がお茶を飲むようになりました。しかし一方で、度が行き過ぎている面もあると感じています。本来は急須でも良かった飲用シーンまでもが、すべてペットボトルになってしまっていて。特に、近年はオフィスにおける来客のお茶出しも、ペットボトルになってしまいました。
急須のお茶に求める味わいと、ペットボトルのお茶に求める味わいは違いますよね。例えば、急須ならうまみ。ペットボトルならのどごし。求められる味が違うと、茶葉も変わってきますし、後者の味は低級茶葉主体でも美味しくつくれてしまう。ただ、リーズナブルなものばかりが求められてしまうと、良質な茶葉が減ってしまう懸念があります。何にせよ、行き過ぎは良くない。僕らが飲む全てのお茶がペットボトルじゃなくて良い。それで「Cuzen Matcha/空禅抹茶」で新しい需要をつくる。マーケットをつくる。もっとグローバルに広めるというのが私の夢です。
井上:アメリカや日本のあとは、もっとグローバルに展開されるのですか?
塚田:その展開はもちろん考えていますが、まだまだアメリカでも駆け出しです。商品もサービスも完全ではないですから、もっと顧客とのコミュニケーションを取ってスケールするための基盤を強化していくことが目下の課題ですね。お客さんの声を聞きながら、もっと改善していきます。
アメリカでも日本でも、より多くの人に抹茶を体験してほしいと考えています。「Cuzen Matcha/空禅抹茶」はオーガニックな碾茶を使用していて、農薬は使っていないので世界展開できます。マシンもアダプターはあえて外出しにしていて、規格は各国ありますがそれさえクリアすれば各国で展開できます。始めからグローバル展開を視野に入れた開発をしています。
新しいMatcha文化を世界に浸透させることで、良質な茶葉をつくる茶葉農家さんも助かりますし、ペットボトルのプラスチックゴミの削減にもつながります。禅には調和という意味合いもありますから、サスティナブルにハーモニーを広めていきたいですね。自分で言うのもなんですが、近年はコーヒーを飲めなくなりました。なだからにジワジワ利く抹茶のエネルギーが合うようです。
井上:ぜひ日本での展開を心待ちにしています。オフィスにほしいですね。
塚田:はい、2021年の6月8日より、日本のサイト(cuzenmatcha.jp)で、プレオーダーを受け付けています。通常価格よりもお得になっていますので、是非、この機会にお願いします(笑)。