オックスフォード大の研究では、「AIの進化により、いまの仕事の約半数が今後10〜20年で消える可能性がある」ということも指摘されています。ビジネスパーソンのなかには、「今後なにを学んだらいいのかわからない」という人もいるでしょう。
そこで、高校時代にアルバイトで自活しながら東大に現役合格し、その後はハーバード大にも合格した「独学のスペシャリスト」である本山勝寛さんに、ズバリ「いま、なにを学ぶべきですか?」という質問をぶつけてみました。
■生涯を通じての学びにつながる「独学3.0」とは?
「いま、なにを学ぶべきか」という質問に答える前に、まずは学びの姿勢の基本についてお話しましょう。学生までとはちがって、社会人にとっての学びの多くは「独学」です。ただ、ひとことで独学といっても、それにはいくつかの種類があるとわたしは考えています。それは、「独学1.0」「独学2.0」「独学3.0」の3つです。
【3種の独学】
・独学1.0:明確に定まった目標を達成するための独学
・独学2.0:3〜5年くらいのスパンで教養の幅などを広げる中期的な独学
・独学3.0:独学1.0と2.0を組み合わせて行う長期的な独学
それぞれについて解説しましょう。
まずは「独学1.0」。これは、資格の取得だとか語学の習得といったなんらかの「明確に定まった目標を達成するための独学」を指します。大学合格のための受験勉強がその典型であり、多くの人がイメージするいわゆる勉強がこれにあたります。もちろん、こういった独学も、自分をステップアップさせていくためにはとても重要です。
でも、「有名大学に入って大企業に就職すれば人生は安泰」という時代はとっくに終わりました。有名大学に合格すればいい、なんらかの資格を取っておけばいい、英語ができればいいというわけではなく、時代の変化のスピードが加速度的に増しているなかで、新しいことをつねに学び続けなければならないのがいまという時代です。
そこで重要となってくるのが、「独学2.0」。これは、資格取得のような明確な目標は定まってはいないものの、教養を広げたり思考力を高めたりといったことを緩やかな目標として「3〜5年くらいのスパンで教養の幅などを広げる中期的な独学」のことを指します。
では、最後の「独学3.0」とはどういうものかというと、「独学1.0と2.0を組み合わせて行う長期的な独学」を指します。独学2.0を続けているうち、「このことはもっと掘り下げて知りたい!」と思うような分野に出会うこともあるでしょう。そうしたら、今度は独学1.0に切り替えてその分野の知識を深めたり、その分野に資格があればその取得を目指したりする。そして、その後は再び独学2.0に戻るといった具合です。
そのようにして、独学1.0と2.0を繰り返し循環させていくことが、生涯を通じて学び続け成長することにつながります。
■これからの時代に増していく「独学3.0」の重要性
これからの時代においてはこの独学3.0の重要性が増していくとわたしは見ています。仮に、社会に出た時点で学ぶことをやめてしまったとしたらどうなるでしょうか? 時代の変化のスピードが加速度的に増しているなか、その変化についていけなくなることは明白です。
新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークやオンライン会議といったものが急速に広まりました。もし一切の学びを放棄し、Zoomなどのオンライン会議ツールを使えないとなったら、その人は時代や社会の変化から完全に取り残されてしまうでしょう。
こういった変化は、コロナ禍が終息したあともどんどん出てきます。20世紀までの時代は、時代や社会の変化が緩やかでした。その変化のペースは、わたしの感覚としては建物の耐用年数くらいで、数十年といった単位です。ところが、いまはまるでちがいます。ほんの数年前には誰もが使っていたのに、いまはほとんどの人が使わなくなってしまったようなツールはいくらでも存在しますよね。
そういう時代であるということを前提としてつねに学び続け、少なくとも、新たに社会に浸透するツールを使えるようにならなければなりません。さらには、それらをうまく活用してどういうことができるのか、どうビジネスにつなげられるのか、どのようなイノベーションを起こせるのか、と考えることも大切です。
そうすることができれば、「有名大学に入って大企業に就職すれば人生は安泰」ではなくなった時代において、自らの価値を高めていけることは間違いありません。
■学ぶべきことは、「自分の興味関心がひかれたこと」
では、「いま、なにを学ぶべきか」という質問に答えましょう。ただ、申し訳ありませんが、はっきりいってしまうと「なにを」の部分の答えはありません。「なにを」をひとつに決めつけてしまう姿勢自体が、時代に合わなくなっているのです。あえて言葉にするなら、「学び続ける好奇心と、どんなことでも学ぶことのできる独学力」を身につけるべきなのです。
それこそ「時代の変化のスピードが加速度的に増している」といわれているいま、子どもの将来を心配する親が、子どもにたくさんの習い事をさせているという話を聞きます。でも、学んで修得したプロセスには大いに意味はありますが、学んだ内容そのものは時代の変化によって無駄に終わるかもしれません。
「IT時代のいま、必要だから」とプログラミングを学ばせたところで、その子が社会に出る頃にはプログラミングのスキルが求められていない時代になっている可能性もあります。少なくとも、プログラミングに使う言語はまったく別のものに変わっているでしょう。
このことは、社会人にも同じようにあてはまります。「最近よく話題にあがるから」とか「著名人が推薦していたから」といった考えだけで、自分に強い動機や観点がないままなにかを学んだとしても、長続きしなかったり、社会の変化のスピードに対応できなかったりするかもしれません。それだけではなく、「勉強して損をした…」というふうな後悔の念を抱くことになる可能性すらあります。
ですから、独学3.0によって自分自身のアンテナが反応したことを学ぶべきだと思うのです。先に「なにを」の部分の答えはないと述べましたが、学び続ける好奇心を身につけるという観点からその答えをあえていうなら、「自分の興味関心がひかれたこと」となるでしょう。
■「学びは自己投資」という思考で学びの情熱を維持する
下手に「勉強」などと思わず、好きなことでいいのです。旅が好きなら、訪れた国の文化、歴史、言語など、興味が向かうままに旅を通じて学びを深めればいい。そうするうち、好きではじめたことであっても、いつかどこかでビジネスに役立つこともあるでしょうし、仕事上のヒントになるようなことに出会うこともあるでしょう。
もちろん、そうならない場合もあります。でも、好きで学びはじめたことなら、そこに後悔は生まれません。それどころか、好きなことを通じて自分自身の幅が広がり人生が豊かになったことに感謝するのではないでしょうか。
なにより大切なのは、好奇心をもって好きなことを学び続けようとする情熱です。そして、その情熱を持ち続けるためにも、「学びは自己投資」だという思考を持ってほしいと思います。
投資は、短期間では成果を実感しにくいものです。年利10%で資産運用したとしたら、1年後にはわずか10%しか資産は増えません。でも、10年にわたって資産運用すれば資産は元手の2.5倍以上になり、20年後には7倍近くになります。
学びもそれとまったく同じだとわたしは見ています。学びという自己投資を続ければ、10年後、20年後にはまったくの別人になれるといっていいでしょう。それは、わたし自身の経験からも強く感じていることです。
片田舎の貧しい家庭で育ったわたしが、東大やハーバード大に行ったり本を出版したりするなんて、幼い頃のわたしには想像できませんでした。そうできたのは、たとえ年にわずか数%の成長だったとしても、情熱を持って学び続けてきたからなのだと思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人