イノベーションという言葉を、ニュースやインターネットなどで目にすることもあるのでしょう。ただ、イノベーションの指す意味を正しく把握できている人はそう多くありません。
本記事では、イノベーションの意味や定義、種類などについてまとめました。さらに、「イノベーションとは何か」をより深く理解するために役立つ、イノベーションの成功事例を紹介します。
イノベーションとは
イノベーションとは、「開発などの活動を通じて、利用可能なリソースや価値を効果的に組み合わせることで、これまでにない(あるいは従来より大きく改善された)製品・サービスなどの『価値』を創出・提供し、 グローバルに生活様式あるいは産業構造に変化をもたらすこと」です。
イノベーションの定義
イノベーションの語源はラテン語の「innovare」で、「新しくする、更新する」という意味から派生しました。「技術革新」と表現する場合もありますが、イノベーションは単純な技術上の話だけではありません。
イノベーションの定義は、新しい考え方や技術によって、これまでにない新しい価値を創造し、社会の変革をもたらすところまでを含む広い概念です。例えば、エジソンが発明した電球は、夜を明るく照らし、従来の生活を一変させました。イノベーションは、このように社会を大きく変えるきっかけとなります。
イノベーションの種類
イノベーションの種類には、多くの学者によって、さまざまな定義があります。中でも有名な定義としてオーストリアの経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターの「5種類のイノベーション」を紹介します。
種類 | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
プロダクト・イノベーション | 従来にはない、新しい製品やサービスの創出 | 電球、電話 |
プロセス・イノベーション | 従来にはない、新しい生産方法(生産工程や流通方法)の導入あるいは改善 | トヨタ自動車のかんばん方式 |
マーケット・イノベーション | 新しい市場に参入し、新しい販売先や消費者を獲得 | スマホアプリゲーム |
サプライチェーン・イノベーション | 商品の原材料や原材料の供給ルートの新規開拓・獲得 | ポストイット |
オーガニゼーション・イノベーション | 業界や企業に大きな影響を与える組織の実現や組織変革 | 他社との協業 社内ベンチャー |
イノベーションといえば新しい製品やサービスがもたらすもの、というイメージが強いかもしれませんが、それはイノベーションの一部に過ぎません。新しい生産工程や新規市場開拓、商品の原材料を新しく獲得することによるイノベーションもあります。
イノベーションを起こすきっかけとなる7つの機会
オーストリアの経営学者ピーター・ドラッカーは、著書『イノベーションと企業家精神』の中でイノベーションを起こすきっかけとなる7つの機会について紹介しました。どのような機会がイノベーションを起こすのか、順番に解説します。
機会 | 概要説明 |
---|---|
想定外の成功と失敗 | 予期しなかった成功や失敗がきっかけとなるイノベーション 例:開発に失敗して作られた粘着力の弱い接着剤を利用したポストイット |
理想と現実の格差 | 顧客のニーズを考えて開発した製品が顧客のニーズとギャップがあるなどのケース |
潜在ニーズ | これまで意識されていなかったニーズ 例:開腹部分が少なく患部を直接見ながら手術ができる内視鏡手術 |
産業構造の変化 | 技術の発達による産業構造の変化 例:デジタルカメラ市場を縮小させたスマートフォン |
人口構造の変化 | 少子高齢化などある程度予測できる変化 例:少子高齢化で減少する労働力を補う作業の自動化(産業用ロボット、RPAによるソフトウェアロボットを活用したデスクワークの自動化)やスマートシティ構想 |
認識の変化 | 価値観やライフスタイルなどの変化 例:形状に問題があり売れなかった野菜をヒットさせたオイシックス |
新しい知識の活用 | 研究開発や発見などによる新しい知識を活用 例:国より支援を受けて研究開発を続けていた米国モデルナ社のmRNAワクチン |
このように、何らかの変化や、普段は気づかないことに気づくタイミングが、イノベーションをもたらすきっかけとなり得ます。
イノベーションの使い方
イノベーションをビジネスで使う場合は、「技術革新」を指すケースが一般的です。ただ、近年では「従来にはない新サービス」や「新たな価値観の提案」という意味でも使えます。
イノベーションと組み合わせた表現としては、「イノベーション戦略」「マーケティングイノベーション」などがあります。これらの表現でも、イノベーションの指す基本の意味は変わりません。
イノベーションの事例とイノベーションを起こしきれなかった例
イノベーションの具体的な事例と、イノベーションになれなかった例を比較することで、イノベーションの概念をより深く理解できます。ここでは、両方の例をまとめました。
これまで人々の生活になかったものを開発
電球、電話、ウォークマンなどは、従来の生活には存在しなかった製品です。電球は夜の生活を明るくし、電話は遠くの人とリアルタイムで会話ができるようになり、生活に大きな変化を起こしました。またウォークマンは、屋外でも音楽を楽しむという新しいライフスタイルを提案し、多くの人々に受け入れられました。
電球はその後も発展を続け、高品質で長持ちするようになります。しかしこの変化は、人々の生活に新しい変化を起こすほどではありません。
ユーザーとプラットフォーム企業がともに儲かる仕組みを構築
YouTubeは、ユーザーが動画配信を行うことで、ユーザーとプラットフォーム企業の双方に収入が入る仕組みを構築し、イノベーションを起こした例です。
YouTubeと同じような仕組みを提供しようと多くのWebサービスが開発されていますが、他のサービスはここまでの変革をもたらしていません。
グローバルな変革をもたらすSNS
TwitterやInstagramなどのSNSは、特定の地域に留まらず、世界中に変革を広げたWebサービスです。同じようなサービスを提供していても展開範囲が国内に留まっているSNSサービスは、イノベーションを起こしきれていない例といえます。
人々の生活様式・産業構造を変革したUberや産業用ロボット
Uberは、自動車を所有物ではなく共有するものとする新しい概念でサービスを展開し、人々の生活様式に変化をもたらしたイノベーション例です。また産業用ロボットは、工場内の作業を大きく変え、省力化をもたらした例といえます。
一方同じロボットでも、コミュニケーションロボットや、仕事を代行するサービスは、仕事や生活様式を変えるまでには至っていません。
新たな産業やビジネスの創出をもたらしたスマートフォン
スマートフォンは、イノベーションの代表例です。携帯電話の後継として単に電話をかけるためだけではなく、スマホアプリ市場やSNSの普及などに貢献し、新たな産業を創出しました。一方、一時期人気だった電子辞書は、新しい市場を生み出すまでには至らず、イノベーションを起こせませんでした。
イノベーションのジレンマとは
イノベーションのジレンマとは、既存技術が別分野で発生した技術革新に淘汰される現象のことです。イノベーションのジレンマの具体例と原因、対策方法についてくわしく説明します。
イノベーションのジレンマ事例
イノベーションのジレンマとして有名な事例は、スマートフォンとデジタルカメラです。
そもそもカメラの世界では、フィルムカメラからデジタルカメラへのシフトが起こっていました。フィルムカメラは画質に優れています。一方デジタルカメラは、現像不要で何度も撮り直しができ、コスト面・利便性に優れていました。そのため気軽に写真撮影を楽しみたい層に受け入れられ普及したのです。
このような状況の中、携帯電話が内蔵カメラを搭載しました。当初は画質面で劣っていたため、デジタルカメラの市場を奪うまでには至りませんでした。
しかし、携帯電話に代わってスマートフォンが普及すると、内蔵カメラの画質は飛躍的に向上し、状況が一変。スマートフォンから直接投稿できる写真SNSのInstagramが普及するにつれ、スマートフォンで写真撮影を楽しむ人が急増しました。
スマートフォンの写真撮影で満足する人が増えるにつれ、まず持ち歩きに便利なコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)が売れなくなります。内蔵カメラは画質がさらに上がり、ハイエンドモデルであるデジタル一眼カメラの市場を奪い始めます。最終的に2020年には、デジタルカメラ市場は10年前の10分の1にまで縮小しました。
イノベーションのジレンマに陥る原因
イノベーションのジレンマに陥る原因は、既存技術の進展に力を注ぎ、顧客の隠れたニーズに気づけなかった点にあります。気軽に持ち歩けて、撮影やSNSでのシェアも楽なスマートフォンは、大きさや重さもあるカメラの扱いに困っていた顧客のニーズを満たしたのです。
イノベーションのジレンマを解決するには
イノベーションのジレンマは、自社の技術を磨くだけでは解決が困難です。真の解決策として、市場の変化を観察したうえで顧客の潜在ニーズを満たす方向の技術も磨くか、イノベーションを先読みして先手を打つなどが考えられます。
また、これまで培ってきた技術を別分野で応用して、新しい事業を起こすのもひとつの方法です。例えば富士フィルムは、売れなくなったフィルムを作っていた技術を活かし、化粧品事業や液晶テレビのフィルター事業を育成して危機を乗り越えました。
イノベーションとリノベーションの違い
イノベーションと混同されがちなのが「リノベーション」という言葉。一文字違いなので、間違って覚えてしまう人もいるようです。リノベーションは主に不動産用語として使われますが、そのほかのビジネスにおいて使われることもあります。
まず、不動産用語としてのリノベーションは、住宅を大幅に改修して新たな価値を生み出すことを指します。軽微な改修のことをリフォームといいますが、より大規模な改修の場合はリノベーションとなります。
そのほかのビジネスシーンにおいてリノベーションを使う場合は、何かを「刷新する」という意味合いで使われます。既存のものを変えるという点ではイノベーションも同じですが、ニュアンスがやや異なるので上手く使い分けましょう。
イノベーションを使った言葉
イノベーションは「○○イノベーション」というように別の単語と組み合わせて使われることもある言葉です。ここでは2つの言葉を紹介します。
オープンイノベーション
オープンイノベーションは、革新するにあたって外部の技術を積極的に活用することを指します。自社だけでなく他社と協力して新製品を作る場合などが当てはまるでしょう。この言葉は、2003年に経営学者のヘンリー・チェスブロウによって提唱されました。
クローズドイノベーション
オープンイノベーションと反対の意味を持つ言葉がクローズドイノベーションです。オープンイノベーションとは違い、自社のリソースだけを使うという方法です。日本のビジネスでは昔からクローズドイノベーションが主流でしたが、時代の変化とともに、オープンイノベーションが求められるようになってきています。
イノベーションの例文
イノベーションの概念について把握できれば、ビジネス上でもイノベーションという言葉を使えるようになります。ここでは、イノベーションの例文について、いくつか紹介します。
<例文>
- 生産方法を抜本的に見直し改善することで、イノベーションを起こそう。
- イノベーションを起こすには、地道な研究を続けることも重要だ。
- 今の製品を改善するだけでは、イノベーションは起こせないだろう。
- 産業ロボットやAIによるイノベーションにより、仕事を奪われないかと心配だ。
- イノベーションのジレンマに陥らないよう、社会の変化には敏感でいたい。
イノベーションという言葉自体は、ポジティブな意味で使われることが多く、基本の意味さえ押さえておけば使いやすい表現です。
イノベーションの正確な定義を知り正しく使おう
イノベーションとは、新しい何か(製品・サービス・ビジネスモデル)を創出して変革を起こし、社会的、経済的な価値を生み出すことです。新製品を開発しても、変革が起きない場合はイノベーションを起こしたとはいえません。
どういう場合にイノベーションと表現できるのか、正しい意味を把握しましょう。ビジネス上でイノベーションという言葉を使うときは、特に注意してください。