ペンタックスブランドのデジタルカメラを展開しているリコーからこの春に登場した話題のカメラが、APS-Cサイズのイメージセンサーを積むデジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-3 Mark III」(以下、K-3 III)です。K-3 IIIを前後編の2回にわたって詳細にレビューしたいと思います。
一眼レフの光学ファインダーやシャッターを堪能
現在のレンズ交換式デジタルカメラのデファクトスタンダードといえば、フルサイズフォーマットでありミラーレスと言って過言ではないでしょう。実際、国内外のカメラメーカーの多くが今もっとも力を入れているジャンルであり、高い人気も誇っています。しかし、フルサイズよりもひと回り小さいフォーマットであるAPS-Cサイズでも表現には十分と考える向きも多く、通常の使用においては写り自体に際立った違いはないといえます。また、ミラーレスと比べたとき、シャッタータイムラグの小ささやクリアでリアルなファインダーの見え具合などから、デジタル一眼レフがいまだ根強い人気があることも事実です。
そのようななか颯爽とデビューしたK-3 IIIで注目されている要素のひとつが官能性能でしょう。それが最も分かりやすいのが、光学ファインダーの見え具合です。APS-Cサイズのデジタル一眼レフとしてはファインダーの画面が大きく、フルサイズの一眼レフと見間違えてしまうほど。倍率はなんと1.05倍! APS-C一眼レフの場合、0.8~0.9倍ぐらいが一般的なので、大きさの違いは一目瞭然です。もちろん、視野率は100%を達成しています。
さらに、ファインダースクリーンは適度に明るく、しかもピントの状態がたいへん把握しやすいのも特徴。一般に、明るいファインダースクリーンはピントが把握しにくく、把握しやすいファインダースクリーンは暗い、というのがこれまでの定説でした。本モデルではどちらも両立しており、特にピントの山のつかみやすさは特筆すべき部分といえます。マニュアルフォーカスでピントを合わせたとき、合焦した部分がファインダースクリーンに鮮明に浮かび上がるさまは、思わずゾクゾクしてしまうほどです。何より、EVF(電子ビューファインダー)に慣れた目には、スッキリとしたクリアでリアルな見え具合であることに加え、実際の被写体の動きに対し遅延のない表示は、一眼レフのよさを改めて知らしめるものといえます。
官能的に撮影者に訴えかけるもうひとつの要素がシャッター音です。実際は、ミラーの上下作動音とシャッター機構の作動音と考えてよいと思いますが、小さく締まった心地よい音なのです。Kシリーズのシャッター音というと、これまで比較的甲高くしかも軽い感じがしましたが、それとは異なるものでクラスにふさわしい品位を感じさせます。連続撮影のときも同様で、ポートレート撮影などでは撮られる側もきっと心地よいはずです。
シャッター機構は新たに開発したもので、1コマごとの動作時間の大幅な短縮などによりこのシャッター音を実現したとのこと。ファインダーをのぞいてよし、シャッターを切ってよし、とまさに官能的なカメラといってよいでしょう。ちなみに、連続撮影可能枚数は最高12コマ/秒。この数値は、プロ仕様のハイエンドフルサイズデジタル一眼レフに迫るものです。
手にしたときの感触や操作感も、官能的な部分に加えてよい部分です。ボディは密度感のある作りで、持った瞬間に良い写真が撮れそうだと思えるほど。さらに、その良き印象を高めているのが、ダイヤルやボタン類のレイアウト。特に、測距点レバーの搭載はペンタックスのデジタル一眼レフとしては初めてで、直感的に測距点の選択が可能。今までなかったのが不思議に思えてしまうほどです。前後の電子ダイヤルに加え、トップカバーのスマートファンクションダイヤルや静止画/LV/動画切替ダイヤルなど、ダイヤルを多用しているのも好ましく思える部分といえます。
“官能的”とは外れますが、キーロックボタンを備えたことも注目です。実は、このボタンの存在に気づくまでは、カメラを首から提げたときなどカメラ背面のボタンがいつの間にか押されていて、設定が変わっていることがありました。K-3 IIIユーザーはぜひ知っておきたい機能といえます。登録した機能をファインダー視野内に表示させるスマートファンクション機能や、モードダイヤルを操作せずに撮影モードを切り替えるハイパープログラムなども搭載しています。
撮像素子やAFまわりは最新仕様で固める
キーデバイスもこれまでと大きく異なります。イメージセンサーは裏面照射型の有効2573万画素CMOSで、ローパスフィルターレス。画像処理エンジンは最新の「PRIME V」で、本機は処理能力を向上させる「アクセラレーターユニットII」を搭載しています。これらにより、解像性能をデバイスの持つ最大限まで引き出し、被写体の質感描写やディテールの描写が向上するとともに、高感度域におけるノイズレベルも大幅に低減したといいます。また、オートフォーカスの精度向上にも寄与しているとのことです。実写の作例は、本レビュー2回目の「画像編」をお待ちいただきたいのですが、新シャープネス設定「ファインシャープネス」の搭載などにより、これまでの絵づくりよりも鮮鋭度と艶やかさが加わったと感じます。
センサーシフト方式の手ブレ補正機構SRは、5軸対応で最大5.5段分の補正を実現。ペンタックスには魅力的な単焦点レンズが多数ラインナップされていますが、どのレンズで撮影を楽しんでも手ブレの心配が少なくて済むのは嬉しい部分です。さらに、ペンタックスはこの手ブレ補正機構SRを応用したリアルレゾリューションやアストロトレーサー、自動水平補正などの機能が従来からありますが、本モデルにももちろん搭載されています。センサーシフト方式の手ブレ補正機構の凄さをあらためて実感するとともに、多彩な撮影に対応することが可能です。
AFの進化もK-3 IIIの特筆すべき部分です。ほぼ画面全体を測距点がカバーするミラーレスに比べればカバー範囲が狭い一眼レフですが、本モデルは従来モデルにくらべ広い範囲をカバーしており、さほど不便は感じません。前述したとおり、測距点レバーによりファインダー撮影時の測距点の選択も速やか。位相差検出方式のAFはいうまでもなく高速で、コンティニュアスAFでの精度も高さも動体撮影では心強く思われます。AFセンサーは最新の「SAFOX 13」で、測距点は101点(実際に選択できる測距点は41点)。中央の25点は精度のより高いクロスセンサーとしているほか、多彩なAFエリアモードを搭載しており被写体を選ぶことはありません。輝度範囲はEV-4から18まで。低輝度でもAFは高い精度を誇ります。
光学ファインダーの話は冒頭にしましたが、忘れていけないのがライブビュー撮影の要、液晶モニターです。サイズは3.2インチ162万ドットで、デジタル一眼レフとしては大きい部類のディスプレイを採用しています。コントラストは高く、ライブビューでも快適に撮影が楽しめます。AFはコントラスト方式のみとしているようですが、使ってみた限りでは激しく動く被写体でなければスピードに不足を感じることはありませんでした。三脚にカメラを据え、じっくりと被写体と対峙するような風景撮影では重宝するように思えます。光学ファインダーとライブビューの切り替えは、トップカバーにある静止画/LV/動画切替ダイヤルで直感的に素早く行えるのも便利に思える部分です。なお、液晶モニターは固定式のため、ハイアングルおよびローアングル撮影ではちょっと厳しいことがあるかもしれません。
そのほかK-3 IIIは、ボディ全面、トップ、ボトム、フロント、リアの各カバーにマグネシウムを採用。堅牢で耐久性に優れたボディに仕上げています。さらに、ボディ接合面などには水滴や砂埃の侵入を抑えるシーリングが施され、防塵防滴構造としています。しかも、-10度の耐寒構造としているのも注目点。カメラのクラスを考えると、ハードな環境での撮影をものともしない写真愛好家の使用も多いかと思いますが、そのような使用にも耐えるカメラに仕上がっています。
APS-Cセンサーを積むデジタル一眼レフの魅力を、堅牢でコンパクトなボディにギュッと詰め込んだK-3 III。完成度の極めて高い“デジイチ”に仕上がっているように思えます。冒頭に記したように、フルサイズフォーマットのミラーレスが何かと注目を集めていますが、今回のレビューで本モデルを使えば使うほど、また魅力を知れば知るほどAPS-Cサイズの一眼レフでもいいかな、という思いが次第に強くなっていきました。世間的にはまだまだ安易に遠出できる状況ではありませんが、このカメラと単焦点レンズ数本をコンパクトなカメラバッグに詰めてどこか旅に出かけたくなりました。