営業や接客業でよく使われるクロージング。日常会話にはあまり登場しないので、正確な意味がわからないまま使ってしまっている人も多いのではないでしょうか。クロージングは使う人や業界によっても意味が異なってくるので、正確な意味を知って使い分けないと思わぬ取り違えが生まれてしまう言葉でもあります。
本記事では、クロージングの意味と使い方を例文付きで解説します。「テストクロージング」「クロージングコスト」などのクロージングを含む言葉と、クロージングの英語表現についてもご紹介するので、合わせて確認してみましょう。
クロージングの意味
クロージングとは、英語の動詞「close」の派生に当たる名詞の「closing」をそのままカタカナ読みした言葉。基本的には「閉じること・終わること」を示しますが、ビジネスにおいては場面や人によって異なる意味を含んで使用されます。
クロージングの正しい使い分けを知るためにも、まずはクロージングのそれぞれの意味を知ることが大切です。
■契約成立までの過程
営業・小売業などで使用される場合は、顧客に契約や購入させるまでの過程をクロージングと呼びます。心理学的アプローチが有効とされ、特に契約・購入前にかける最後の追い込みや意思確認を指します。契約・購入に至るまでの声掛けやアプローチすべてをクロージングと呼ぶケースもあります。
■契約の成立
営業で使用される場合は、顧客との契約の成立そのものもクロージングと呼びます。セールスなどの過程と契約成立まですべて含めてクロージングの一語で表す場合もあり、「クロージング力」といった場合は「営業の結果、どれだけ商談を成立させられるか」という意味です。
■売買取り引きの完了
M&A(企業や事業の合併・吸収)や不動産取り引きの場合は、実際に商品の売買取り引きが終了することをクロージングといいます。金銭のやり取りや証券・物件の受け渡しが完了し、すべての取り引きが終わることです。
■閉店
小売業や飲食業などの場合は閉店を指してクロージングと呼ぶこともあります。その日の営業終了としての閉店、廃業としての閉店どちらの意味にも使えます。イベントなど、催し物の閉会や閉幕のこともクロージングと呼びます。
「閉店」「終了」の意味のクロージングは、オープニングが対義語となります。
■服
「服」を意味する「clothing」も、カタカナにするとクロージングとなり、日本語では同じ表記になります。店頭において「服」という意味で単体で使用するだけでなく、「メンズテーラードクロージング」のように複合語として用いたり、社名やブランド名として「〇〇クロージング」と使用されたりする場合もあります。
アパレル業界でクロージングというときには、「服」あるいは「契約成立まで含めたアプローチ」どちらの意味にも使用するため、慣れるまでは注意が必要になるでしょう。
■テレビの放送終了時に流れる映像
テレビ業界においては、一日のテレビの放送終了後に流れる、放送局名や周波数をアナウンスする映像のことをクロージングと呼びます。
クロージングを使った言葉の意味
クロージングは、単体として使用されるだけではありません。複合語として使われるクロージングについても確認しておきましょう。
テストクロージング
テストクロージングとは、本格的な購入意思決定を顧客に迫る前に行う、顧客の購入意思を確認する作業です。具体的には、「契約される前にご不明点はありますか? 」「もし条件が合わないようでしたらはっきりとおっしゃってください」などの言葉がけになります。
クロージングと違って一度の契約に何回も使えるため、上手に行えば、購買意欲を高めたりクロージングをよりスムーズに行ったりすることにもつながるでしょう。
クロージングトーク
クロージングトークとは、クロージングする際の言葉がけそのもののことです。契約前の追い込みのみをクロージングと指す場合と、契約・購入に至るまでの声掛けやアプローチすべてをクロージングとする場合とで含む範囲が異なります。
最終的な意思確認のみをクロージングとする場合は「購入についてどのように考えていらっしゃいますか? 」といった直接的な言葉を指します。しかし、契約成立までのアプローチ全般を指す場合は、お客様に対して行う営業トークすべてをクロージングトークと呼ぶでしょう。
クロージングコスト
クロージングコストとは、不動産の売買取り引きをする際に生じる手数料のことです。仲介業者へ払う手数料や税金、火災保険料など、不動産の価格以外にかかる諸費用のことをまとめて指します。
クロージングボリューム
息をゆっくりと吐ききることで、肺の奥にある細い気道の状態を調べる検査です。気管支喘息など、末梢気道の病気の状態について調べられます。
営業におけるクロージングのコツ
営業におけるクロージング、すなわち契約の成立ができるか否かのスキルは営業メンバーによって異なります。ただ、しっかりとクロージングまでもっていくためのコツやポイントはいくつかあります。以下に代表的なものをいくつかまとめましたので、営業の方はぜひ参考にしてみてください。
テストクロージングを実施する
テストクロージングとは、最終的な購入意思の決定を顧客に迫る前に行う「プレ確認作業」のことです。
- 「購入するとなったら、どの商品をお選びでしょうか?」
- 「ご自身に最もフィットする商品はどれだと思いますか?」
- 「見積書の金額にはご納得いただけたでしょうか?」
このようにいくつかの質問を織り交ぜていきながら、相手がどれだけ購入や契約に対して興味を抱いているのかを探っていき、同時に購入意思を引き出すことでクロージングの確率を高めていきましょう。
最適なタイミングでクロージングを図る
顧客が「欲しい」「契約したい」と思った際にクロージングをすれば、成約率が高まります。となると、そのタイミングの見極めが非常に重要となります。「この商品やサービスを活用すれば、自社の課題が解決できることがわかる」「この商品やサービスを活用することによって、何ができる・できそうなのかイメージがわく」といった瞬間に購買意欲は高まりやすくなると考えられます。
相手の質問がより具体的になってきたら、購入を前向きに検討してくれている証拠。その質問に丁寧に回答して相手の不安を解消しつつ、しっかりとクロージングまでもっていくようにしましょう。
BANT情報を把握しておく
「BANT」とは営業の際にヒアリングしておくべき4つの情報の頭文字をとったものです。
- Budget(サービス導入や製品購入のための予算)
- Authority(サービス導入や製品購入を決める決裁者)
- Needs(サービス導入や製品購入の必要性)
- Timeframe(サービス導入や製品購入の時期)
クロージングまでもっていけないのは、顧客のBANTがそろっていないというケースが往々にしてあります。成約までもっていく確率をあげるため、しっかりとBANTの情報を把握しておきましょう。
イエス・バット法を活用する
「イエス・バット法」とは、相手の意見を「そうですね」と肯定した後に「ただ/ですが」などと自分の意見を述べる方法です。
- 「確かに●●様のおっしゃる通りです。ですが、弊社の製品にはこういった強みもあります」
- 「なるほど、金額面での条件が難しそうとの点は理解いたしました。それでしたら、もう少し手ごろなこちらのプランはいかがでしょうか」
誰しも、自分の考えを否定されたら嫌な気持ちになることでしょう。このイエス・バット法を用いれば、相手にそういったネガティブな気持ちを抱かせることなく、自分の考えを提案・プレゼンできます。会話の中にうまく織り交ぜてみてください。
複数の選択肢を提供する
顧客の提案側へのストレスを軽減する方法として「複数の選択肢を提供する」があります。クロージングは顧客に決断を迫るアクションのため、伝え方を誤ってしまうと相手が不快に感じてしまうリスクもあります。
こうした事態を回避するため、顧客側に主導権を握らせる形で提案するとよいでしょう。昔からよくある「松・竹・梅」ではないですが、「最も豪華なプラン」「最も手ごろなプラン」「この2つの中間に位置するプラン」などのようにいくつか選択肢を用意して顧客に提案することにより、柔軟な対応をしてもらっている感覚を相手側に与えられ、クロージングまでもっていきやすくなるでしょう。
クロージングの例文
さまざまな意味のあるクロージング。実際の業務での意味を理解するにはそれぞれどのような例文で使用されているかを見るのが一番です。
「契約成立まで」を示すとき
- クロージングでお客様に最後のひと押しをする
- いつもクロージングがうまくいかず、顧客を逃してしまう
お客様の購買意欲・契約意欲を高める声掛けをここでは指しています。商談成約率が高い場合に「クロージングが上手」というのは、この声掛けがうまいことを指し ます。
「契約の成立」を示すとき
- クロージング力を鍛えたおかげで契約数が増えた
- 4回目の商談でクロージングできた
特に営業で使用される機会が多いのが「契約の成立」を意味するクロージング。上司から「クロージングはまだ?」などと聞かれる場合はここに当てはまるでしょう。
「売買取り引きの完了」を示すとき
- 不動産仲介業者として、物件のクロージングまで支援を行う
- M&A取り引きをする場合、クロージング日までに前提条件が満たされている必要がある
金銭などの受け渡しの終了を指します。上の場合は「不動産仲介業者が金銭授受や受け渡しまでサポートを行う」という意味になりますし、下の場合は「最終的な株式譲渡の前に(主要役員らの同意など)必要な条件を満たさなければならない」という意味になります。
クロージングの英語表現
クロージングを英訳する際は、どの意味で使用しているかによって使う英語表現が異なってきます。自分が言っているクロージングがどのような意味かを明確にしてから訳をするようにしましょう。
終了
閉店や閉幕の意味でのクロージングの場合は、名詞であればそのまま「closing」を、「閉店する」「閉幕する」と動詞であれば「close」を使用します。
- The principal gave the closing remarks. (校長は閉会の辞を述べた)
- Our shop closes at 9 pm. (当店は夜9時に閉店します)
契約成立
「close」だけでは「(契約などを)成立させる、まとめる」という意味しかありませんので、「取り引きを成立させる」という意味であれば「close the deal」、あるいは「get the contract」と表現します。
- I want to close a deal with A company within this week. (今週中にA社との取り引きを成立させたい)
- We got three contracts this month. (我々は今月3件の契約を取った)
契約成立までの過程
契約前の最終的な意思確認だけであれば「closing」を使えますが、「契約のための声掛けやアプローチすべて」は英語の「closing」では表現できません。適宜「営業トーク」などに変更して訳しましょう。
- Sales positions need closing power. (営業マンにはクロージング力が必要だ)
- Raise the customer unit price with a sales talk that makes you imagine coordination. (コーディネートを想像させる営業トークで客単価をあげる)
クロージングの意味を正しく理解して使い分けよう
クロージングは、営業で使われる場合だけでも「契約成立までのアプローチ」「契約の成立」「売買取り引きの完了」の3つの意味がありました。営業以外で使われる場合も含めると、さらにその意味は多岐にわたります。特にクロージングを使った言葉である「テストクロージング」「クロージングトーク」は、顧客の購買意欲を高めるために必須のテクニック。営業や接客業に就くならマスターしておきましょう。
クロージングは会話中に出てきた際、前後の文脈などから正確に意味が把握できないことも。わからないときは必ず確認することをおすすめします。