エスクローという言葉、聞き慣れないかもしれません。じつはインターネット・オークションやフリマアプリ、仮想通貨などの決済方式に用いられる意外と身近な存在です。売買取引の際に安心してお金のやり取りができるサービスを指しますが、きちんと仕組みを把握していなければせっかくのサービスも使いこなせません。
本記事ではエスクローサービスを詳しく解説し、利用する際の注意点についてもご紹介。この機会に正しい知識を身に付けましょう。
エスクローについて知ろう
まず、エスクローとはどのような仕組みを指すのか、具体的に見ていきます。
エスクローは取引をスムーズに進める決済の仕組み
エスクローとは、「預託」を意味する英語「escrow」から来ています。売買取引が行われる際、売り手と買い手の間に第三者機関が入り、中立的に取引をサポートする仕組みを指します。「エスクローサービス」とも呼ばれます。
詳しくは後ほど紹介しますが、まずはざっと流れを把握しましょう。
ある商品を巡って売買取引が行われる際、買い手は代金をいきなり売り手へ支払うのではなく、いったん第三者機関に預けます。商品が手元に到着して内容の確認ができた時点で、代金は売り手へ支払われるというものです。
エスクローを使うことで、売買取引が成立したあとに起こりがちな「商品に不備があった」「取り決めた代金が支払われなかった」といったトラブルを未然に防ぐことができます。
アメリカの不動産取引で発達
エスクローはアメリカで生まれました。1930年代の大不況がきっかけで、当時住宅に関する税金を支払えない国民の救済措置として制定されたのです。その後、不動産取引の決済方法として発展し、現在はあらゆる売買取引に用いられています。
エスクローサービスを提供する場合、その機関は州政府による認可と免許を受ける必要があります。更新義務なども厳格に定められています。
エスクロー方式による取引とは
エスクロー取引は、下記のように不動産や電子商取引、証券・証書のやり取りでも採用されます。
不動産取引
アメリカでは不動産の売買取引にはエスクロー方式をとるのが一般的です。現在は不動産にかぎらず、自動車などあらゆる商品にも用いられています。
エスクローサービスを提供する機関は、売り手から権利証書などを預かる一方、買い手からは代金を預かります。物件の確認や決済、登記、引き渡しなどを行い、取引が成立した場合には不動産の権利証書などや代金の引き渡しを行います。
電子商取引
仮想通貨、インターネット・オークション、フリマアプリなどの電子商取引においては、近年エスクローでの取引が増加しています。
これらの取引は個人対個人で行われるものが多いうえ、商品や相手の顔を直接見ることができないためトラブルを誘引しやすいのが特質です。そこでエスクローを導入し、安全性を高めるという傾向にあります。
証券・証書
企業の合併・買収(M&A)を行う際の証券や証書のやり取りにおいても、エスクロー方式が採られています。
エスクローの仕組み
実際にエスクローがどのような流れでやり取りされているかを表にまとめました。表に沿って説明します。
なお、セキュリティが強化された環境下で取引をより簡単に進める方法もあります。
買い手が代金を預ける
まず買い手と売り手が取引に合意して契約書を取り交わします。
買い手は契約書の条件に従い、代金をエスクローエージェントに支払います。エスクローエージェントは代金を預かります。
売り手が入金を確認ののち商品を買い手に渡す
エスクローエージェントは、買い手から代金を預かったことを売り手に通知します。売り手は、買い手からの代金がエスクローエージェントに支払われ、安全に保管されていることを確認したうえで商品を買い手へと渡します。
買い手が商品を受け取る
買い手は、売り手から商品を受け取ります。商品が届かない、契約書に定められた商品と違うなどのトラブルが発生した際は、エスクロー取引は不成立です。取引が不成立の際は、エスクローエージェントによって保管されていた代金は買い手に戻ります。
売り手が代金を受け取る
買い手が商品を受け取り内容を確認できたら、エスクローエージェントは売り手に代金を渡します。これで取引は完了です。
エスクローを利用するメリット
エスクローを利用することで得られるメリットは何でしょうか。
売り手と買い手の認識違いを第三者がチェックできる
取引に第三者機関(エスクローエージェント)が介入するため、契約が可視化され、不公平な状況になりづらいことが挙げられます。
取引の安全が保たれる
代金の未払いなどといった、金銭の授受トラブルを防げます。売り手は確実に金銭を受け取れますし、買い手も代金が売り手へ渡る前に商品を確認することができます。
以下に、一般的な売買取引におけるリスクを比べてみましょう。
【売買取引に関するリスク】
売り手 (代金未払いのリスク) |
買い手 (商品を受け取れないリスク) |
|
代金後払い | 高い | 低い |
代金引換え | 低い | やや高い (受け取ったあとに、商品の破損や不備の可能性がある) |
代金前払い | 低い | 高い |
エスクロー | 低い | 低い |
エスクローを利用する場合の注意点
エスクローのメリットをご紹介しましたが、注意点もしっかりチェックしましょう。
サービス利用時に手数料がかかる
エスクローを利用する場合には、エスクローエージェントに手数料を支払わねばなりません。一般的には「取引金額の○パーセント」などと契約書に明示されます。
売り手と買い手は以下の点に注意が必要です。
- 売り手:商品の金額が手数料を含むのか含まないのかを明示する
- 買い手:購入する前に、手数料について確認する
支払い条件など細かい条件設定が必要
取引における条件の設定は、エスクローエージェントとも細かく取り決める必要があります。
取引の成否とは無関係
エスクローの手数料はあくまでも取引の中立性を保つための保証料であり、エスクローエージェントには仲人のように取引を成功に導く役割はありません。また、取引成否の確認も行われないケースが一般的です。
エスクローエージェントは、取引が成立した場合には代金を売り手に支払います。取引が不成立となった場合は、預かった費用から手数料を引いた金額を買い手へ返却し、エスクローを終了します。
契約時に審査が行われる場合がある
売り手がエスクローサービスを取り入れたい場合、エスクローエージェントの基準で事前審査が行われる場合があります。審査基準は明らかにされていないため、条件によってはエスクロー取引ができない可能性もあります。
エスクローの仕組みを理解して正しく活用しよう
エスクローは、売買取引における金銭の授受トラブルを防ぐ仕組みのことです。第三者が介入することにより、安心して取引を進めることができます。
アメリカで生まれた制度で不動産売買などに用いられましたが、近年はインターネット・オークションやフリマアプリなど身近なところにも取り入れられています。
エスクローはメリットが多い反面、手数料などには注意しなければなりません。売り手は料金を分かりやすく提示し、買い手は事前にきちんと確認することで、トラブルを防ぎましょう。