最後は永瀬王座が銀捨ての絶妙手で広瀬玉を即詰みに打ち取った
第80期A級順位戦(主催:朝日新聞社、毎日新聞社)の1回戦、▲永瀬拓矢王座-△広瀬章人八段戦が6月17日に東京・将棋会館で行われました。結果は139手で永瀬王座の勝利。朝の10時から始まった対局は、深夜0時台にまさかの結末を迎えました。
角換わりの将棋となった本局は、両者馬と竜を作り合う激しい戦いになりました。終盤、永瀬王座は竜と馬で左右から広瀬玉に迫り、広瀬八段は金・桂・香で永瀬玉の上部から攻めていきました。
難解な形勢が最終盤まで続いたものの、抜け出したのは広瀬八段でした。詰めろの連続で永瀬玉を追い詰めていきます。しかし、簡単には諦めないのが永瀬王座。桂捨ての犠打で竜を敵陣から追い出し、自陣桂を打って竜の再侵入を防ぎます。この竜の利きを遮断するために打った桂が大逆転の伏線になる駒でした。
竜の攻撃参加は望めなくなったものの、金・銀・桂の豊富な持ち駒を持っている広瀬八段。桂を打って永瀬玉に詰めろをかけました。永瀬王座は受けても一手一手の状況。あとは広瀬玉を詰ますしかありません。
まずは銀打ちで広瀬玉を上部に呼び寄せ、銀を取りながら桂を跳ねます。この桂は先ほど打った自陣桂。受け一方の手ではなく、この王手を見越していたのです。
すでに一分将棋になっている広瀬八段。この桂を竜で取るか、玉をかわすかの選択に迫られます。そして下した決断が玉逃げ。ところがこれが痛恨の敗着でした。
永瀬王座は歩を成って王手をかけ、玉と金の利きに銀をタダ捨てする絶妙手を放ちました。玉で取っても、金で取っても広瀬玉は詰んでいます。この手を見て広瀬八段は投了を告げました。
もし先ほどの桂を竜で取っていれば、広瀬玉に詰みはありませんでした。このような正しく逃げれば詰まなかったのに、逃げ間違えて詰まされてしまうことを将棋用語で「とん死」と言います。
広瀬八段は棋士でも有数の終盤力の持ち主です。その広瀬八段をもってしても発見できなかった銀捨ての絶妙手を、自身も一分将棋の中で指した永瀬王座の終盤力が光りました。
この勝利で永瀬王座は初参加のA級で白星スタートを切ることができました。2回戦では糸谷哲郎八段と対戦します。
一方、あと少しのところで勝利が手からこぼれ落ちた広瀬八段。A級開幕戦では第75期を最後に勝ち星を挙げられていませんでしたが、今期も黒星発進となってしまいました。