ヒューリスティックは、人が無意識のうちに行っている思考のひとつで、ビジネスにおいてはマーケティングなどで活用されています。
本記事では、ヒューリスティックとは一体何なのか、ヒューリスティックが起こる理由や4つのタイプ、マーケティングにおける使用方法などをご紹介します。
ヒューリスティックとは?
ヒューリスティックとは、問題を解決する時間が極力最低限で済むように、経験則や先入観によって効率良く答えを導き出す思考法のことをいいます。論理的に分析をして出している答えではなく、いわば直感でもあるため、導き出された答えが必ずしも正しいとは限りません。
ヒューリスティックと「認知バイアス」の違い
ヒューリスティックと同じようなイメージがある「認知バイアス」ですが、認知バイアスとは、正確には「先入観や脳内にある偏ったデータによって生み出される認識の歪みや、思い込みの要因のこと」をいいます。
ヒューリスティックと認知バイアスの違いは、ヒューリスティックの方が、問題解決のために用いられる一時的な思考プロセスのことをさし、その正確性などに着目されるのに対して、認知バイアスは、意思決定時のみならず、日常生活を送る中で広範囲に適用される先入観的思考のことをいうところにあります。認知バイアスがかかると、世界の見方や捉え方などが日常的に変わるのが特徴です。
ヒューリスティックも認知バイアスも正確な根拠がなく、合理性を欠いている状態なので、ビジネスなどではヒューリスティックや認知バイアスをかけた状態で物事を分析したり決断したりしないよう、注意が必要です。
ヒューリスティックと「アルゴリズム」の違い
ヒューリスティックと「アルゴリズム」はどちらも心理学で使われる用語で、問題解決手段であることに変わりありません。しかし、正確性やかかる時間など正反対の性質を持つ言葉です。
アルゴリズムとは、簡単にいえば計算の手段ややり方のことです。定型化された手順にしたがって問題を解決していく方法のことで、ヒューリスティックと比べ、時間はかかってしまいますが、答えの正確性は高くなります。
最近は、アルゴリズムを取り入れたパソコンやAIが、人間の代わりに計算や問題を解決してくれるようになり、とても便利ですが、決められていないことが出てきた場合や違う分野では応用がきかないというデメリットもあります。
ヒューリスティックが起きる理由
私たちの脳がヒューリスティックを起こす原因は、脳にかかる負担を最小限に抑えようとするためです。
「脳の省エネ」という言葉がしっくりきますが、難問にぶつかった場合は、普段使っている脳の部分では処理しきれないため、さらに違う脳の部分を稼働させて問題を解決する必要があります。
全ての問題に対して違う脳の部分を再稼働させて対処していてはエネルギーを使いすぎてしまうので、考える必要のないものはできるだけ脳を使わずに解決しようとし、ヒューリスティックが起きると考えられています。
ヒューリスティックの4つのタイプ
ヒューリスティックには主に、「代表性ヒューリスティック」「利用可能性ヒューリスティック」「アンカリングと調整のヒューリスティック」「感情ヒューリスティック」の4つのタイプがあります。
この中の「代表性ヒューリスティック」「利用可能性ヒューリスティック」、「アンカリングと調整のヒューリスティック」をまとめて「3大ヒューリスティック」と呼びます。
代表性ヒューリスティック
「代表性ヒューリスティック」とは、ステレオタイプや固定概念によって判断する思考法のことで、例を挙げると「外国人の顔をしているから、英語が喋れそう」「キャビンアテンダントさんは、綺麗だ」といったような思い込みによるものです。キャビンアテンダントさん=綺麗というイメージもそうですが、キャビンアテンダントさんが女の人とは限りませんよね。
利用可能性ヒューリスティック
「利用性ヒューリスティック」とは、自分の過去の経験や記憶によって判断する思考法のことで、例えば「サイコロを振って4の目がよく出るから、世間的に見ても4が出る確率が高いんだ」という認識の仕方です。
入手しやすい情報をベースに脳が勝手に判断するので、CMやチラシで日常的に目にしていると、その品物を選びやすいという効果があります。時間の制限がある場面では特に、馴染みのあるものを選択する傾向が見られます。
アンカリングと調整のヒューリスティック
「アンカリングと調整のヒューリスティック」は、またの名を「固着性ヒューリスティック」ともいいます。これは、1番最初に得た情報を手がかりにして推測する方法で、「アンカリング」とは、船を停泊させておく「アンカー」から来ています。
例えば洋服を買いに行った際に、定価で売られているAの洋服と値引きされているBの洋服が最終的に同じ値段で販売されていたら、Bの方を安いと感じます。これは、値引き前のBの値段の情報を事前に得ているからです。
感情ヒューリスティック
「感情ヒューリスティック」とは、感情をベースとして判断する思考法のことで、自分にとってのメリットやデメリット、リスクや気分などによって物事を判断してしまうことです。
好きなアイドルのグッズやCDを買うのは、「このアイドルを応援したい! 売れさせてあげたい!」といった感情から来ています。ほかにも、詐欺師はこの感情ヒューリスティックをうまく利用し、同情をかうことでお年寄りからお金を騙し取っているともいわれています。
マーケティングで利用できるヒューリスティック
ヒューリスティックは、ビジネスのマーケティングをする上で非常に役立ちます。私たちの生活のあらゆる場所にさまざまなタイプのヒューリスティックが散りばめられており、無意識のうちに選択の誘導が行われているのです。
数字の表記の仕方
数字の表記の仕方にもヒューリスティックが利用されています。例えば、スーパーに行ってパック売りされているお肉はどれも「kg」ではなく「g」表記になっていますよね。これは、0.4kgと表記するよりも400gと表記した方が数が大きく、それに比例して質量も多そうなイメージを与えられるからです。
パッケージのカラー
ヒューリスティックはパッケージカラーでも使われています。イメージカラーとも言われるように、色にはイメージがつきものです。食べ物に関して言えば「緑=自然素材なイメージ」「赤=辛いもの、刺激のあるもの」「POPな色=体に悪そうなイメージ」といった具合です。夏場には「水色」を使って爽やかで涼しいイメージを表現しているものもあります。
商品の選択肢を増やす
商品の選択肢を増やす方法もヒューリスティックを利用した手法のひとつです。興味深いことに、人間は選択肢が2つの場合は安い方を、選択肢が3つの場合は真ん中の値段のものを選びやすくなります。
あえてネガティブな情報を与える
ヒューリスティックを利用し、あえてネガティブな情報を与えるという手法もあります。ネガティブなことを言われ、心の奥底にしまっていた不安を煽られると、人間は心配になり、どうにかしようという動きに出ます。目の前に「これを使えば問題解決!」というような商品やサービスが置いてあったとき、手を伸ばした経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
ヒューリスティックをビジネスに活かそう
ヒューリスティックとは、人が無意識のうちに行っている、経験則や先入観によって効率良く答えを導き出す思考法のことです。ヒューリスティックの効果はマーケティングで活用でき、身近なところでたくさん使われています。
ヒューリスティックの特性を深く知ることで、ビジネスを進める助けとなるだけでなく、消費者として本質を見極められるようにもなるでしょう。