マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。
米FRBは金融政策の正常化に踏み出すか(6月11日付け)
米国の政策金利が20%だった時代(6月4日付け)
「インフレ」がやってきた!? (5月14日付け)


昨春に新型コロナの影響で景気が大きく落ち込んでから、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、ゼロ金利と、債券を購入するQE(量的緩和)という強力な金融緩和策を続けています。この間、トランプ政権とバイデン政権で財政面での積極的な景気刺激策が打ち出され、さらにはワクチン接種の進展によりロックダウン(都市封鎖)や行動制限が徐々に解除され、景気は勢いを取り戻しつつあります。

高まるインフレ圧力と中央銀行の動き

一方で、需要の回復に加えて、コロナによる工場の操業停止、半導体工場の火災、石油パイプラインの停止、スエズ運河の大型貨物座礁など様々な要因からサプライチェーンの障害発生もあり、米国だけでなく世界的にインフレ圧力が高まっています。

そうしたなか、FRB同様に強力な金融緩和を続けてきた主要中央銀行の一部は、QEを縮小(=債券購入をペースダウン)したり、将来的な利上げに言及し始めたりしています。そして、米国でも状況が大きく改善してきたため、世界の金融市場に対して最も大きな影響力を持つFRBの動向が注目されているわけです。

FRBでも潮目に変化

FRBはこれまで、「インフレ率の上振れは一時的」、「雇用や物価の目標まではまだ遠い」、「テーパリング(QEの段階的縮小)の議論は時期尚早」などとして、金融緩和を長期化する意思を明確にしてきました。

ただ、ここへきて、FRBでも潮目に変化がみられます。15-16日に開催された、金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)で、利上げを従来の想定より前倒しする可能性が示されたからです。

FOMCは現行の金融政策を維持したが……

FOMCは全会一致で金融政策の現状維持を決定しました。政策金利は0-0.25%(いわゆる「ゼロ金利」)で維持され、QE(量的緩和=債券購入)にも変更はありませんでした。

声明文の金融政策方針に関わる部分は前回(4/28)、前々回(3/17)から一言一句同じでした。すなわち、「労働市場が最大雇用に達し、インフレ率が2%に到達してさらにしばらくは2%をやや上回る状況となるまで」ゼロ金利を継続。また、「最大雇用と物価安定の目標に向けてさらに著しく前進するまで」最低1,200億ドル/月の債券購入(QE、量的緩和)を続けるというものです。

声明文冒頭の景況判断はさらに前向きに修正されました。「ワクチン接種の進展が、コロナ危機が経済に与える悪影響を減じ続ける可能性が高い(が、経済見通しのリスクは残る)」とされました。前回は「コロナ危機が引き続き経済に悪影響を与えており(、経済見通しのリスクは残る)」でした。

注目されたFOMCの「ドット・プロット」

3カ月に一度(FOMC一回置き)公表されるFOMC参加者各人の経済・金融見通しには大きな変化がありました。

見通しの中央値でみれば、2021年の景気や物価が大きく上方にシフトしました。2022年の物価は小幅上昇に、失業率は小幅下方にシフトしました。そして、2023年中に2回の利上げを想定していました。

  • FOMC参加者の経済・金融政策見通し

参加者各個人の各年末時点の政策金利予想を1人につき1つの点(ドット)で表わす、いわゆる「ドット・プロット」では、前回(3月17日)同様に過半数が2022年末までのゼロ金利維持を予想しました。ただし、2022年中の利上げを予想したのが、前回の18人中4人から今回は7人(うち2人は2回利上げを予想)になりました。2023年末までに過半数の13人が利上げを予想しており(前回は7人)、中央値で2回、2人が最高6回の利上げを予想しました(いずれも1回=0.25%の利上げと仮定)。

  • FOMC「ドット・プロット」

  • (3月17日時点)FOMC「ドット・プロット」

パウエルFRB議長の記者会見

パウエル議長はFOMC後の記者会見で、ドット・プロットを過度に重く受け止めるべきではないと発言しました。「ドット・プロットの予想精度は必ずしも高くない」と。あくまで、各個人のバラバラな予想(の中央値)に過ぎないからです。パウエル議長はまた、テーパリング開始の条件である「(最大雇用と物価安定の目標に向けて)さらに著しく前進するまで」はかなり遠いと強調しました。

もっとも、パウエル議長も今回の会合で「(テーパリングを開始するための)議論を議論した」と認め、次回7月のFOMCから目標に向けての進捗状況の評価を始めると明言しました。今後の景況次第では金融政策の正常化に向けた準備が進められる可能性が高まったと言えそうです。