ダンピングは不当廉売(ふとうれんばい)のことです。国内産業を保護するため、日本では独占禁止法で禁止されています。では実際にどのような仕組みのことをダンピングと呼ぶのでしょうか。

ここではダンピングについて意味や仕組みを解説し、ダンピングにまつわる法律や日本における事例などを紹介します。

また医療現場で使われる「ダンピング症候群」についても解説します。

  • 「ダンピング」とはどんな意味なのか

    ダンピングとはいったい何なのでしょうか

ダンピングとは? 意味や語源を解説

ダンピングとは、主に外国との貿易取引において、不当に安い価格で輸出販売することです。輸入国からすると自国の商品より安い価格で流通するということは、自国の産業をおびやかされることになります。

一般的にダンピングと判断されれば、輸入国は商品に対してダンピング税を課すことができるとされています。

語源となっているのは英語の「dump(dumping)」

「dump」は、「投げ捨てる」「放り出す」といった意味の英語で、荷物などを乱暴に放り出すことや乱雑に扱うことを指しています。荷台を傾かせて積んでいる荷物を下ろすダンプカーも、この言葉からきています。

そして「dumping」は「投げ捨て」や「投げ売り」という意味を持ちます。

ダンピングの仕組みと規制・対策

日本では法律で規制、対策されており、ダンピングを行うのは法律違反です。知らないうちに犯罪に手を染めていたなんてことがないように、きちんと把握しておきましょう。

ダンピングが行われる仕組みについて

ダンピングはどのように行われるのでしょうか。

ここで商店街を例にしましょう。地元に愛されている商店街ですが、近くに大型の食品スーパーが出店したとします。スーパーは集客のため、破格の安さで商品を売ります。するとそれまで商店街を利用していた客はスーパーで買い物をするようになります。

客足の遠のいた商店街では閉店が相次ぎ、気づけば買い物ができるのはスーパーだけになってしまいます。競合がいなくなったスーパーはそのタイミングで値上げを実施し、大きな利益を生み出します。これがダンピングです。

ダンピングによって競合を排除することは、市場を独占することにつながります。最終的に消費者にとっては、ほかに選択肢のないマイナスの状況に陥ってしまうのです。

独占禁止法とは

ダンピングは独占禁止法によって禁止されています。

独占禁止法とは公正で自由な競争を維持・促進するための法律です。仮にある市場に競合がなく1社が独占する状態になるとしましょう。価格競争がないため価格は高騰し、サービスもずさんなものになる可能性があります。消費者にとっていい状態とはとても言えません。

前述したように、ダンピングはこうした独占状態を生みやすい手法のため、禁止されているのです。

国際経済法による禁止

ダンピングは、国際社会でも監視されています。WTO(世界貿易機関)ではダンピングを不公正貿易と位置付けており、ダンピングが認められた場合はアンチ・ダンピング関税を課して価格を是正することができます。

アンチ・ダンピング関税について

アンチ・ダンピング関税はダンピングを防止するための関税です。

例えばA国があるB国からある商品を輸入したとします。ところがB国の商品は不当に安く、A国の産業をおびやかしかねません。A国がダンピングだと主張すれば、B国の商品に対して関税をかけ、B国の商品価格を上げることができるのです。

  • 「ダンピング」は日本では禁止されている

    日本ではダンピング行為は禁止されており、国際的にも認められていない行為です

日本と関連のあるダンピング事例

ダンピングは時に、国家間における貿易問題にまで発展します。次に、日本と関連のあるダンピング事例について紹介します。

韓国による日本製ステンレス棒鋼に対するダンピング防止措置

韓国は、2004年より日本製ステンレス棒鋼に対して、アンチ・ダンピング関税をかけています。

過去、関税の期間延長が決定されたことを受け、日本は韓国に協議を要請。これまでに何度か話し合いをもたれていますが未だ解決には至っていません。

米国のダンピング防止関税に対する申し立て

1999年、日本の熱延鋼板が破格の値段で米国に輸出されたことに対して、米国がダンピングの疑いがあるとして日本に関税を要求しました。熱延鋼板というのは、自動車の製造に必要な部品で、ボディなどに使われるものです。

対して日本は、米国はWTOが定める協定とは違う方法で調査し、ダンピング防止税をかけようとしたと主張。協議の結果、米国のWTO協定違反が認められ、関税はかけられませんでした。

日本ののり輸入割当制度

日本では、のりの輸入数量の上限を毎年定めています。そのため、のりを日本に輸入する場合は、事前に許可を得なくてはなりませんでした。韓国はこの制度が、WTO協定に違反しているとして申し立てました。

日本は、WTO協定で定められている例外を活用していると主張しましたが、韓国は不当だと主張。2年ほど議論が続き、最終的にはのりの輸入制限は続けながら韓国からの輸入量を増やすことで合意に至りました。

日本の酒税制度

1995年、日本の酒税制度にEC、カナダ、米国が申し立てを行いました。焼酎にかかる酒税が、ウイスキーなどの酒税よりも高く、国産がほとんどである焼酎を優遇しているとの主張からです。

日本は原産国による差別を行っていないことを主張しましたが、WTO協定違反であると判断され、その結果、日本は全ての酒税を一律にする措置をとることで解決しました。

  • 日本の「ダンピング」事例

    ダンピングは時に、多国間の貿易問題に発展します

医療現場で使われる「ダンピング症候群」とは

さて、ダンピング症候群とは、医療現場で使われる言葉です。どのような症状なのでしょうか。

ダンピング症候群とは

何らかの病気で胃を切除した際に起こる、後遺症をダンピング症候群と呼びます。

胃は本来、口から入った食べ物を胃液と混ぜて粥状にして、小腸へ送り出す働きをしています。しかし胃を切除したことで、食べ物が急速に小腸へ送られることが原因で引き起こされる症状です。

主な症状としては、動悸やめまい、頭痛、倦怠感、手足の震えなどです。場合によっては腹痛や下痢などの症状も出る可能性があります。

ダンピング症候群には2つの種類がある

食事中から食事が終わって30分ほどで症状がでる「早期ダンピング症候群」と、食事後2~3時間後に発症する「後期ダンピング症候群」の2種類があります。

早期ダンピングは、食べ物が急速に小腸に送られることで、動悸やめまいを引き起こすものです。人によっては、腹痛や嘔吐などの症状が見られることもあります。

一方、後期ダンピング症候群は、短時間で体内に食べ物が吸収されるため、一時的に高血糖状態になり、それを抑制しようとインスリンが分泌され低血糖に陥ります。食事が終わって2~3時間たったころに、動悸やめまい、手足の震えなどが起こるのが特徴です。

ダンピング症候群を予防する一般的なポイントは、食べすぎない、よく噛んでゆっくり食べるなどが挙げられます。

  • 医療現場でも使われる「ダンピング」

    医療現場においてはダンピング症候群という言葉もあります

ダンピングについて理解を深めよう

ダンピング(不当廉売)とは、商品を不当に安く販売することです。一見、消費者にとってうれしいことに聞こえますが、ダンピングは企業による独占を許し、ひいては消費者の不利益につながります。

日本では禁止され、国際社会でも監視されているダンピング。正しい知識を身に付けることが大切です。