来年春の試合を最後にキックボクシングから卒業、その後にプロボクサー転向を表明している「神童」那須川天心。RISE世界フェザー級のベルトを腰に巻く彼の戦績は、39勝(28KO)無敗。
この数年間、キック界を牽引してきた那須川にファンが求めるのは、やはり「K-1」3階級制覇王者・武尊との頂上対決だろう。もう残された時間は限られている。年内に「那須川天心vs.武尊」は実現するのだろうか? その可能性に迫る─。
■「1対3」変則マッチ
「今後も絶対にない経験ができて良かったと思います。でも、いつも以上に疲れました。もうやりたくないですね。本音を言えば、ちゃんとした試合がしたかった」
6月13日、東京ドーム『RIZIN.28』で「1対3」変則マッチが行われた。
那須川天心が、大﨑孔稀(キックボクサー)、HIROYA(キックボクサー)、所英男(総合格闘家)の3人を相手に、ほぼボクシングルールで闘ったのである。1ラウンド毎に対戦相手が変わる方式でKO、TKO以外は勝敗決着なし。結局、那須川は3選手を相手にフルラウンドを闘い、試合後の複雑な心境を吐露した。
この模様は、フジテレビ系列で全国に生中継されたから、多くのファンが観戦したことだろう。この「1対3」の変則マッチには、賛否両論があった。
そして多数を占めたのが、次のような声だ。
「キックボクサー那須川天心の試合を観られるのは、あと数試合。だからこそ、強い相手との純粋なキックボクシングファイトが観たかった」
この思いは、那須川も『RIZIN』主催者も同じだった。
だが、コロナ禍で海外から強豪選手を招聘することが難しい。そのため国内で対戦相手を探したが見つけることができず、「1対3」の変則マッチに落ち着いた経緯がある。
6月13日、東京ドーム。
本来なら、この日この場所で「世紀の一戦」が実現するはずだった。正式決定こそされていなかったが、那須川天心と武尊が闘うことになっていたのだ。
『RIZIN』のリングではない。
RIZIN、K-1、RISEの3団体が協議し中立な舞台を作るために東京ドームを抑え、水面下で準備が進められていた。しかし、3月28日、K-1日本武道館大会でレオナ・ぺタスと闘いKO勝利を収めた武尊が、右拳を負傷。これが発覚した直後にビッグプランは頓挫してしまう。
本来、『RIZIN.28』は、5月23日開催予定だった。だが緊急事態宣言の影響で延期。そんな折、「世紀の一戦」消滅で6月13日の東京ドームが空いた。そこに『RIZIN.28』がスライドされたのだ。
■2つの残された可能性
さて、「那須川天心vs.武尊」は、実現するのだろうか、それとも幻の一戦になってしまうのだろうか。
現時点では、幻に終わる可能性が高いように思う。
なぜならば、残された時間が限られているからだ。それでも、実現を模索するなら可能な日時場所設定は、次の2つしかない。
- 9月から12月の間に中立な舞台を設定。
- 大晦日、RIZINのリング。
1.が理想的だ。 場所は東京ドームでなくてもいいだろう。さいたまスーパーアリーナ、横浜アリーナ、もしくは関東圏以外のドーム球場で開催する手もある。「12月30日合同イベント開催に動く」という話もあるが、これが実現すれば最高の形だ。
1.が成立しなかった場合は、2.が浮上する。
「(RIZINでもK-1でもRISEでもない)中立なリングで闘いたい」
武尊は、そう主張してきた。
大晦日のRIZINは、これに当てはまらない。K-1サイドも、「大晦日にRIZINのリングで実現か」の論調を否定している。
しかし、この舞台でしか那須川天心と闘う機会がない場合、武尊は、どう考えるだろうか?
那須川はすでに「ボクシングで世界チャンピオンになる」ことに気持ちをシフトさせている。
「どうしても武尊と闘いたい」との想いは、もはやない。
だが武尊は、キックボクシングで最強を極めたい。ならば、那須川との対峙は不可欠だろう。もし、那須川と闘わずして現役生活を終えたなら、「最強」という名のパズルの一片を欠いたままにしてしまう。
武尊は、「敵地に乗り込んでもいい」と考えるのではないか。
昨年末から、彼は「世紀の一戦」を実現させるために自ら動き尽力してきたのだ。決死の覚悟で周囲を説得、K-1サイドも「武尊のために」「キックボクシングのさらなる発展のために」とこれを受け入れ、彼がRIZINのリングに上がる可能性はあるように思う。
大晦日は、格闘技界が大いに盛り上がる一日。RIZINは、今年も全国に生中継されるだろう。「世紀の一戦」の舞台に相応しい。
「那須川天心、キックボクシング最終章」
「武尊、格闘技人生集大成」
互いにとって絶対に負けられない究極の闘いを、どうしても観たい。心がヒリヒリする瞬間をファンは待ち望んでいる。
文/近藤隆夫