藤井二冠は2勝1敗で白星を先行させた

第80期順位戦B級1組(主催:朝日新聞社、毎日新聞社)の3回戦、▲屋敷伸之九段(8位、1勝1敗)-△藤井聡太二冠(11位、1勝1敗)戦が6月13日に東京・将棋会館で行われました。結果は130手で藤井二冠の勝利。前局稲葉陽八段に敗れたものの、連敗はせずに2勝1敗で白星を先行させました。


第80期順位戦B級1組リーグ表

本局、最後に鮮やかな23手詰で屋敷玉を即詰みに打ち取った藤井二冠。飛車金両取りを角でかけさせ、その角を取ってから相手玉を詰ます。このような即詰みを見据えた組み立てでの快勝かと思いきや、実はその裏にはギリギリでの方針転換があったようです。

先手番の屋敷九段の誘導により、本局は相掛かりの戦型になりました。藤井二冠は飛車を7四~8四~7四~8四と反復横跳びさせて、7六歩に狙いを付ける細かい指し回しを見せます。屋敷九段も7六歩を取らせないように応戦し、その後は再度駒組み合戦となりました。

長い駒組み合戦の末、本格的な戦いが始まったのは20時前。持ち時間6時間の順位戦らしいじっくりとした進行です。藤井二冠は桂交換から馬を作り、屋敷九段はその馬を射程に入れつつ、銀をさばいて飛車を働かせました。

▲3五同飛と馬取りで飛車を飛び出した屋敷九段に対し、藤井二冠の△6五馬が落ち着いた一手。攻めては8七の地点を狙い、受けては3二の金にひもを付けています。屋敷九段も局後に「6五馬と寄られて攻めがなかなか難しい。手厚い手だった」と評しました。

その後、両者は桂を打ち合って激しく攻め合います。屋敷九段は銀を、藤井二冠は金を桂で入手。さらに屋敷九段は▲7二角と打って飛車金両取りをかけました。

この手に対し、藤井二冠は「両取り逃げるべからず」という将棋の格言通り、△6六桂と捨て駒を放って反撃に出ます。駒の利きが足りていない6六の地点に打ったこの手が好手で、金・銀どちらで取っても屋敷玉の守りが弱体化します。屋敷九段は金で桂を取りました。

次に△8七飛成とするか、△8七馬とするか。ここが局後に藤井二冠が反省点として挙げた箇所でした。本譜は飛車で8七の地点に飛び込みます。

数手進んで、△6六馬と馬を切って金を入手し、▲6六同銀と取られた局面。ここで当初、藤井二冠は△6七銀と打って必至をかける予定でした。ところが△6七銀には▲3三歩成△同桂▲3四桂と迫る手があり、なんとそれは大逆転。「△6七銀で必至なのでそれでどうかと思っていたが、▲3三歩成から▲3四桂と打たれて、その後詰まないと思っていた変化が詰んでいた。それは誤算だった」と藤井二冠は振り返ります。

しかし、ここで立て直せるのが藤井二冠。本譜の順の通り、7二の角を取りに行く手順に切り替えます。最後は自玉に詰めろをかけられた局面で、屋敷玉を詰ましにいきました。

まずは銀を打って飛車を入手。さらに銀を何も利いていない地点に放り込みます。取ると簡単に詰んでしまうため、屋敷九段は玉を引きましたが、角打ちから飛車を打ち、そしてその飛車をすぐに捨て、先ほど角を入手した竜を敵陣に再侵入させたのがぴったりの順。最後は銀を成り捨てて着地を決め、屋敷玉を23手詰に打ち取りました。持ち駒は歩しか余らない鮮やかな手順でした。

対局を生観戦していた時には、▲7二角を打たせた時点で、すでにこの即詰みを想定した組み立てだったとばかり思っていました。藤井二冠の驚異的な終盤力を何度も見せられているため、読み切りの順でも何ら不思議ではないためです。

それが実は予定変更だったとは。持ち時間が残りわずかな土壇場で、読みの誤りに気がついた上に、勝ちにつなげる修正案を導き出す。その修正能力の高さを本局では見せてもらいました。

藤井二冠にも読み抜けという人間らしいところがあることに謎の安心感を覚えつつ、でもやっぱり修正して完璧な解を出すという人間離れした技術に、改めて畏怖の念を抱きます。

藤井二冠は本局を振り返って、「(△8七飛成に代えて)△8七馬の変化は進んだ先の図に不安があったが、(本譜は)読み抜けがあったのでそちらを選ばなければいけなかった。▲7二角を打たれたときに時間があったので、ちゃんと読まないといけなかったような気がします」と語りました。

さらにB級1組での戦いについては、「B級1組は特に長いので、星取りは考えずに臨もうと思っていた。まだ9局残っているので、あまり先のことは考えずに目の前の1局1局集中して指していきたい」と答えました。

本局の勝利で藤井二冠は2勝1敗の成績になりました。4回戦では久保利明九段と対戦します。

屋敷九段との対局に臨む、対局開始前の藤井二冠(提供:日本将棋連盟)
屋敷九段との対局に臨む、対局開始前の藤井二冠(提供:日本将棋連盟)