昨年、連続テレビ小説『エール』で悲恋を演じて好評を博した女優・入山法子(35)。井上芳雄が主演を務め、岸田國士戯曲賞や読売演劇大賞優秀演出家賞ほか受賞の蓬莱竜太氏が作・演出を手掛ける舞台『首切り王子と愚かな女』(東京・PARCO劇場 6月15日~7月4日/大阪・サンケイホールブリーゼ 7月10日~11日/広島・JMSアステールプラザ 大ホール 7月13日/福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール/7月16日~17日)では、なんと伊藤沙莉演じる娘にメラメラと嫉妬心を燃やす役に挑む。
女優本格デビューから15周年となる入山。「人が他人には見せたくない、秘密にしておきたい部分を炙り出す」蓬莱氏の舞台に立つことは念願だったと言い、「とにかく怒りのエネルギーで生きている」キャラクターへの挑戦に、「本番はそうした彼女を楽しめたら」と意気込む。そんな入山に、これまで演じてきた役柄への思いを聞くと、『エール』での希穂子役などを経て、「去年くらいから、やっとスタート地点に立てた気がします」と話す姿があった。
■人間の感情の渦、もみくちゃな感じが出ている台本
――蓬莱さんの作品に出るのは念願だったとか。
何作品か観劇させていただいていて、挨拶に行くたびに「いつか出たい」とお伝えしていました。蓬莱さんの作品は、人が他人には見せたくない、秘密にしておきたい部分を炙り出すようなところがあるんです。役者として、そうした部分を露わにすることはすごくしんどい作業だろうなと思うのと同時に、そうしたことにこそ挑戦してみたいと思っていました。
――今回、出演が決まったときは。
めちゃくちゃ嬉しかったです。最初は「蓬莱さんがファンタジーを書くらしい」と聞いて、「ええ!」とビックリしたのですが、蓬莱さんが「僕はこれまで日常をのほほんと生きている人たちの心の隅をつつくようなお芝居を書いてきたけれど、今、日常をのほほんと生きている人はいない。こうした状況のなかで演劇としてできることは、お客様が劇場に来てくださる時間だけは楽しい時間を過ごしてもらうこと。だからファンタジーに挑戦します」とおっしゃって。その言葉を聞いて蓬莱さんらしいと思いましたし、台本を読むと、ファンタジーとはいえ、蓬莱さんの描く人間の感情の渦、もみくちゃな感じがやっぱり出ていたので、すごくやりがいがあると思いました。
■普段の言動も怒りっぽくなったりしていないか心配(苦笑)
――思った以上に新型コロナで大変な状況が長引いています。演劇界にも影響がありましたが、却ってエンタメが不要不急ではないことを実感した人も多いと思います。
そうですね。私も今の期間にかかわらず、エンタメには助けられてきています。絶対になくなってはいけないし、絶対に不必要なものではないと思っています。心を動かされるって、すごく貴重な体験。だからこそ、そうした表現で人々の生活を豊かにしてきてくれた人たちが苦しんでいる状況はつらいですし、こうして少しずつですけど、演劇のお仕事ができることには感謝しかありません。
――入山さんの演じる役柄について聞かせてください。
架空の国が舞台です。井上さんが演じる、自分の気に入らないことがあると誰の首でもはねてしまう王子がいて、私の役は隣の国から輿入れした王女として子供を産むことが生きるすべてだと思っています。沙莉ちゃん演じる娘が召使として城に入ってきたことで、嫉妬心やライバル心を燃やし始めるんです。ちょっといじわるな腹黒い役です(笑)。蓬莱さんからは、とにかく怒りのエネルギーで生きているエネルギッシュな人だといわれましたが、私自身は怒りの感情といったものはなるべく遠ざけてきたので、そうした感情と向き合う難しさを感じています。まだ悩んでいる状態ですが、本番はそうした彼女を楽しめたらいいなと思っています。
――まさに入山さんが蓬莱さんの作品で好きな、「人に見せたくない」部分を演じられる役柄ですね。
そうなんです。普段はイライラしたり怒りたくない性格ですが、嫉妬心、闘争心、ライバル心といったものをなんとか手繰り寄せています。普段の言動も怒りっぽくなったり、睨むような表情になっていなければいいんですけど(苦笑)。
■心が健康であっても体が健康じゃないとうまくいかない
――演じた役柄は、ご自身に影響を与えるものですか? 演じた後も自分の中に住み続けたり。
だんだん薄れていってしまうものではありますが、中学時代の友人みたいな、常にいるわけじゃないけれど、思い出したらすごく身近に感じるような存在です。それに、たとえば人から「こういう考えもあるよ」という話を聞く以上に、実際に自分の体を通して一緒に経験していくので、「こういう考えや行動もあるんだな」と実感できる。影響を受けるというよりは、役柄に教えてもらうことがあります。
――女優デビューから15年ほどですが、特に大きな出会いだった作品、役はありますか?
どの作品もたくさんの経験をさせていただきましたが、映画の『SP』(10)と、ドラマ『きみはペット』(17)は大きかったと思います。『SP』ではアクションシーンがあって、今まで運動を全くしてこなかったので、いろんな方に何時間も付き合ってもらって稽古をして撮影に挑みました。そのとき、心と体がつながっていることをすごく感じました。体が動くことで動く感情があるんだなと。動くことで気づかなかった表現に気付けたりするので、まず動いてみようとか、考えの転換をできるようになりました。心が健康であっても体が健康じゃないとうまくいかないし、その逆もしかり。なので、それ以降、体調管理を徹底するようになりました。
――心と体は連動していると。仕事とプライベートのバランスは考えますか?
仕事は大好きなので、常に動いていたいと思っています。でも表現するって不思議な作業で、心と体が健康なのはもちろんですし、プライベートでも、生きていることのちょっとした変化でも感じて自分のどこかに引っ掛けておきたいという思いがあります。不感症にはなりたくないですね。
■やっと自分が自分として歩み始めた
――もうひとつ挙げていただいた『きみはペット』は。
演じたすみれに共感する部分の多い作品でした。彼女はとてもプライドが高くて、かっこ悪い姿を人に見られたくないのですが、本当は涙もろくて弱いところがある。それが、ペットとなるモモがすみれを受け入れることで、すみれも自分を受け入れられるようになっていった。「ありのままの自分を受け入れていいんだ」「自分がそう思うのなら、それを信じていけばいいんだ」とすごく感じた作品で、そのときの思いは今でもずっと真ん中にあります。
――ほかにも、最近では連続テレビ小説『エール』(20)の希穂子が本当に素敵でした。
ありがとうございます。本当に反響が大きくて。朝ドラってすごいなと実感しています(笑)。キャスティングをしてくださった方も、お着物を着つけてくださったり、髪を結ってくださったり、希穂子を作り上げてくれたみなさんに感謝しています。着物は振袖以来だったのですが、とても好きになったので、そこから着物の着付け教室にも通い始めたんです。プライベートでも着られたらいいなと。
――とてもお似合いなので今後もぜひ着て欲しいです。
着物姿の希穂子の絵を描いてTwitterにリプライを送ってくださる方もたくさんいました。みなさんの印象に残る、そうして絵に描きたいとも思ってもらえるような希穂子のパワーは本当にすごかったんだなと今でも思いますし、尊敬しています。だからこそ、私自身も「シャンとして生きないと」と思わされます。30代後半に入りましたが、もっと自分らしさが出てくるような予感がしています。去年くらいから、やっとスタート地点に立てた気が、やっと自分が自分として歩み始めた気がするんです。これから自分の興味あることや、好きなものを探求して、突き進んでいきたいと思っています。
■プロフィール
入山法子
1985年8月1日生まれ、埼玉県出身。04年にモデルとしてデビューし、06年のテレビドラマ『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(日本テレビ系)で本格的に女優としての活動を開始した。『霧に棲む悪魔』でテレビドラマ初主演、『ハナばあちゃん!! わたしのヤマノカミサマ』で映画初主演を果たした。主な出演作は映画『SP THE MOTION PICTURE 革命篇』『となりの怪物くん』、ドラマ『きみはペット』(フジテレビ系)、『ニッポンノワール-刑事Yの反乱』(日本テレビ系)など。昨年のNHK連続テレビ小説『エール』への出演で大きな話題を集めた。