JR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」が、7月16日から紀南コースの運行を開始する。下り列車(京都発新宮行)は夜行列車、上り列車(新宮発京都行)は昼行列車として運転。7~12月にかけて週2往復程度、上下計84本の運行を予定している。
「WEST EXPRESS 銀河」紀南コースは新型コロナウイルス感染症対策のため、日本旅行が企画・実施する旅行商品に限定して販売される。定員は54名(通常85名)となる。
コースは3種類を用意。Aコースは往路で「WEST EXPRESS 銀河」(下り)、復路で特急「くろしお」を利用する2泊3日(車中1泊+宿泊1泊)、Bコースは往路で特急「くろしお」、復路で「WEST EXPRESS 銀河」(上り)を利用する1泊2日(宿泊1泊)、Cコースは往復ともに「WEST EXPRESS 銀河」を利用する2泊3日(車中1泊+宿泊1泊)の旅となる。Aコース・Bコースでは、ラッピング列車「パンダくろしお」の利用も可能だ。
■「太公望列車」の“復活”となる京都発新宮行
「WEST EXPRESS 銀河」の下り列車は京都駅を21時15分に発車し、JR京都線(東海道本線)、東海道支線(梅田貨物線)、大阪環状線を経由して天王寺駅に至る。京都駅の他に新大阪駅(22時16分発)、天王寺駅(22時35分発)からも乗車できる。
京阪神エリアから新宮方面の夜行列車といえば、国鉄時代からJR発足後にかけても夜行の普通列車(後に快速列車)が運転されていた。国鉄時代には「はやたま」の愛称で、寝台車を連結していた時期もあったという。愛称がなくなった後も、おもにサラリーマンと釣り客に愛用され、「太公望列車」と呼ばれて親しまれた。ボックスシートを備えた急行形電車165系を使用していたが、1999(平成11)年に定期列車としての新宮駅乗入れを廃止。その後も多客時に新宮駅への延長運転を行っていたが、2000(平成12)年に臨時列車も含めて新宮駅乗入れが消滅した。
「WEST EXPRESS 銀河」紀南コースの運行開始は、新宮行の夜行列車の“復活”ともいえる。個室やベッドに転換できる座席など備えた車両で移動できるのもうれしい。
天王寺駅からは阪和線を走行。ただし、和歌山駅まで乗客はホームに降りることができない。関西空港線が分岐する日根野駅で3分程度停車するものの、運用上の都合による停車で、乗車は不可とのこと。他地域から関西国際空港まで飛行機を利用して「WEST EXPRESS 銀河」に乗る場合、日根野駅から乗車できないため、いったん大阪市内に行って天王寺駅などから乗車する必要がある。
和歌山駅には23時42分に到着。ここで駅から徒歩4分の場所にある和歌山中華そば「まる豊」に向かう。この店舗は店自体が傾いており、地元でも「傾いているラーメン屋」として愛されているという。夜食として提供されるラーメンは、細麺に豚骨醤油スープがよく絡んだマイルドな味に。和歌山駅に戻り、深夜1時0分に列車が出発すると、翌朝の串本駅到着まで途中駅での降車はできない。
きのくに線(紀勢本線)を一夜かけて走行した列車は6時4分、串本駅に到着する。ここからバスに乗り、橋杭岩(はしぐいいわ)の向かいにあるレストラン「空海」で特製の朝食「漁師の朝ごはん」を味わう。本州最南端の町である串本は漁業が盛んなところであり、朝からカツオを使ったタタキ丼を楽しめる。朝食後は南紀熊野ジオ―パークガイドによる案内の下、橋杭岩を見学する。
串本駅を8時0分に発車した列車は、約1時間かけて紀伊勝浦駅へ。途中で海沿いを走る区間もあり、天気が良ければ美しい海岸線と朝日の車窓風景を楽しめるかもしれない。紀伊勝浦駅には9時5分に到着し、9時10分の発車まで5分間停車。駅でのおもてなしとして、「勝浦の鮪」缶詰め3種などの物販販売や、「那智の扇祭り」の大松明の特別展示が行われる。
新宮駅付近では、線路と並行する王子ヶ浜の壮大な眺望を楽しみたい。列車は約2分にわたり徐行運転を行う。終着駅となる新宮駅には9時37分に到着。本州最南端の蔵元、尾崎酒造で製造された日本酒の飲み比べセットが販売されるほか、特定日に地酒もふるまわれる。熊野曼荼羅絵解きの実演も見逃せない。なお、ここで紹介した紀伊勝浦駅と新宮駅のおもてなし(熊野曼荼羅絵解きの実演は除く)、新宮駅付近の徐行運転は上下列車ともに行われる。
下り列車で降車可能な駅は串本駅、紀伊勝浦駅、新宮駅の3駅。各駅から駅レンタカー「紀南周遊レンタカー特別プラン」やタクシー観光「駅から観タクン」を利用できる。「WEST EXPRESS 銀河」の乗客に向けた「紀南周遊レンタカー特別プラン」では、乗捨て利用で紀南エリアのドライブ旅行を楽しめる。料金はSクラス(「フィット」「ノート」など)で1泊2日6,000円。
「運転はちょっと……」という人には、タクシー観光「駅から観タクン」がおすすめ。紀伊勝浦駅出発プラン(1コース)・串本駅出発プラン(2コース)を用意しており、紀伊勝浦駅出発プランでは熊野那智大社や那智の滝、串本駅出発プランではトルコ記念館など見学できる。各コースとも料金は6,750円(3時間)となっている。
紀南エリアで観光するなら、「WEST EXPRESS 銀河」の乗客に付与される「紀南×銀河パスポート」も便利。新宮~周参見駅エリア7市町村の各種施設(50種類以上)でさまざまな特典や割引サービスが受けられる。
■新宮発京都行の昼行列車もおもてなしが充実
新宮発京都行の上り列車は昼行列車として運転され、新宮駅を12時0分に発車する。発車前に「銀河」特別ラベル仕様の北山村特産の柑橘「じゃばら」を使用したジュースが飲める。昼食は車内に弁当が運び入れられ、7~9月は水曜日が「KAIHAMI CARNE」、日曜日が「阿呍」、10~12月は「bodai」が担当するとのこと。いずれも新宮駅・紀伊勝浦駅周辺にある飲食店であり、紀南エリアの魅力が詰まった弁当になる。
「WEST EXPRESS 銀河」の上り列車は新宮駅発車後、紀伊勝浦駅、太地駅、古座駅、串本駅、周参見駅の順に停車する。くじらで有名な太地駅には12時50分に到着。太地町の伝統的な食文化であるくじらの竜田揚げがふるまわれる。古座駅では「袖香 ちゃんおやつセット」、串本駅では串本銘菓「立岩巻」などを購入できる。
周参見駅には16時22分に到着し、約50分間停車。駅周辺にある避難タワーから、すさみ町の様子や海岸を一望できるほか、すさみ海水浴場での散歩も楽しめる。夕食に提供される弁当も運び入れられ、7~9月は「ホテルベルヴェデーレ」の「すさみ銀河弁当」、10~12月は「ぼたん荘」の「こざがわ銀河弁当」とのこと。
最後のおもてなしは、海南駅での海南市物産観光センター「かいぶつくん」でのショッピング。海南市の地場産業である漆器やお菓子など購入できる。上り列車の降車駅は天王寺駅(21時32分着)、新大阪駅(21時51分着)、京都駅(22時24分着)となる。
このように、上下列車とも紀南エリアを満喫できるおもてなしが多数用意された。「WEST EXPRESS 銀河」紀南コースを通じて、ぜひ紀南エリアのリピーターになってほしい。