Appleの開発者カンファレンス「WWDC21」が間もなく開幕します。5つのプラットフォームの次期版を発表する基調講演。ポストコロナ対応、AR、SwiftUI、パフォーマンスに軸足を置いて新たなステージに突入するApple Siliconなど、直前に押さえておくべき見どころを紹介します。
今年は事前リークがきわめて少なく、サプライズが味わえそう
6月7日午前10時(日本時間6月8日午前2時)、AppleのWWDC(ワールドワイドデベロッパーズカンファレンス)2021が基調講演からスタートします。
WWDCは、その名の通り開発者向けのイベントであり、基調講演で現在5つあるプラットフォーム(iOS/iPadOS/macOS/watchOS/tvOS)の次期版を発表。直後に、開発者向けベータ版の提供を開始し、秋の正式版リリースに向けた開発者との準備をスタートさせます。昨年のApple Siliconのように新しいテクノロジーについて説明するほか、2015年の「Apple Music」のように新しいサービスを発表したり、2019年の「Mac Pro」のようなプロ向けのハードウェア製品を発表することもあります。
さて、今年はここ数年に比べてリーク情報が非常に少ないまま開幕を迎えようとしています。数少ないリーク情報として、4月にBloombergのMark Gurman氏が以下のようなiOSとiPadOSの次期版に関する情報を報じています。
- 通知のより細かな設定が可能に、ユーザーのステータス(仕事中、睡眠中、運転中など)に応じた振る舞いも設定できる
- テーマによるカスタマイズ
- WhatsAppに対抗するようなiMessageの強化
- プライバシー保護のさらなる強化
- iPadOSのホーム画面の大規模な変更、iPhoneのようなウイジェットの自由な配置が可能に
ほかにも、macOSのコントロールセンターのカスタマイズ、macOS版のShortcuts、クラウドへのTime Machineバックアップ、watchOSでオフラインSiri、Apple WatchのiPhoneからの完全独立など、さまざまな噂が飛び交っていますが、それらの多くは「こんな機能を実現してほしい」という要望に基づいたものが大半。リーク報道によってApple Siliconの発表が公然の秘密のようになっていた昨年と違って、今年はサプライズを楽しめる基調講演になりそうですし、そうなってほしいものです。
Facetimeなど、ポストコロナの働き方に合わせた改良に期待
さて、今年の注目ポイントを挙げていくと、1つはポストコロナ対応です。昨年から今年前半を通じて、Appleは順調にハードウェア製品を出荷してコロナ禍の需要に応えてきました。米国では、COVID-19ワクチンの接種が進んでいます。しかし、人々がコロナ禍前のような自由な生活を取り戻しても、今後はテレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッド型など新しい働き方が定着するという見方が優勢です。
そうした動きに対して、ハードウェアの供給だけではなく、OSやソフトウェア、サービス面でも対応していく必要があります。クラウドサービスの強化や拡充、オンラインツールのクロスプラットフォーム対応も課題になりそうです。
ビデオ通話がこれほど広く利用されるようになると、FaceTimeのようにApple製品ユーザーに限られているとコミュニケーションツールとしてはデメリットになります。Zoomなどのように、URLリンクを配布してWebクライアント版で通話に参加できるような柔軟性が欲しいところです。
Appleが精力的に取り組むARやVR関連の発表にも期待
今年意識して見ておきたいのが、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)に関連する技術です。AppleのARグラスやVRゴーグルが2022年にも登場するという噂が飛び交っており、今年のWWDCでスニークピークがあるのではないか、またはrOS(Reality OS)が登場するのではないかと期待する声があります。そうした発表が実現したら盛り上がりそうですが、そうならずにARKitやRealityKitのアップデートにとどまったとしても、AR/VR製品に向けた取り組みをWWDCから読み取れるはずです。
例えば、昨年AppleはWWDCで空間オーディオ(spatial audio)を発表しました。秋のアップデートで同機能を利用できるようになったAirPods Proがその体験でユーザーを驚かせましたが、空間オーディオはAirPodsのためだけの技術ではありません。センサーを使って頭の動きを検出し、音の方向や距離感まで感じられるように再生する立体音響はVRやARで重要な技術になります。
また今年5月、Global Accessibility Awareness Day(GAAD)にApple Watch向けのAssistiveTouchを公表しました。モーションセンサーと光学式心拍センサー、機械学習を利用して、つまむ、握るというような手の動きでApple Watchを操作できるようにします。身体機能に障がいのあるユーザーをサポートするための機能ですが、手のポーズや動きを正確にトラッキングする技術もVRやARに欠かせません。AppleはAR/VRを開花させるための種まきを着々と進めてきており、今年はその芽吹きをさらに実感できると期待できます。
Appleの求人に“homeOS”という記載があったのがネットで話題になっていましたが、デジタルホームに関して、Siriの成長・進化は特にアナリストの関心を集めています。AirPodsシリーズやHomePodシリーズなど、マイクを備えたApple製品がユーザーに浸透し、Siriを通じた音声コマンドを活用できる環境が充実し始めています。ただ、音声コマンドが使いやすいか、実際に使われているかというと、Siriはまだ力不足であるのが否めません。見方を変えると、連携を強めるApple製品群を音声で制御できるようにし、ユーザーが使いやすいようにサービスしてくれる“オーディオOS”のような存在にSiriが成長すれば、Appleプラットフォームの体験が大きく向上するはずです。
iPadOSのホーム画面の刷新など、今年はウイジェットの強化がプラットフォームアップデートの目玉の1つになりそうです。そのウイジェットの開発に必須なのがSwiftUIです。
2019年のWWDCで登場したSwiftUIは、iPhoneだけではなく、iPad、Mac、Apple Watchなど全てのApple製品に対応するグローバルなUIを、シンプルなコードで実装できるUIフレームワークです。しかし、その可能性の片鱗を見せてはいるものの、今も主流はUIKitであり、SwiftUIは実戦投入に足る実用性を目指している途上にあります。ウイジェットの強化とともにSwiftUIライブラリがアップグレードされ、いよいよSwiftUIが広く受け入れられるようになるのか。今年の基調講演でSwiftUIが「再び話題になるのではないか」、「いや、なってほしい」という開発者は少なくないはずです。
次世代Apple Siliconや新MacBook Proの発表も?
昨年のWWDCでApple Siliconを発表し、約2年をかけてMac全製品への移行を進めていくと宣言しました。これまでに普及帯の製品へのM1の搭載を完了させ、いよいよパフォーマンスに軸足を置いたMプロセッサを投入する段階に入ります。これまでのM1の成功を振り返り、そしてM1XやM2と呼ばれて噂されるApple Siliconについて、今年は説明してくれると誰もが期待しています。噂されるMシリーズチップを搭載したプロユーザー向けの「MacBook Pro」を発表する場として、WWDCの基調講演はふさわしい舞台です。ただし、深刻化する半導体不足の影響をMacやiPadが受け始めており、ハードウェア製品の発表に関しては予想が割れています。
Mプロセッサに関しては、「Xcode」や「Final Cut Pro」のようなプロ向けツールのiPadアプリの登場を待ち望む声が上がっています。5月に登場したM1搭載のiPad Proの12.9インチモデルは、“Pro”を冠するのに申し分ないスペックと性能であるものの、価格は129,800円からとM1 MacBook Airを上回っています。デザイナーやイラストレーターなどApple Pencilを利用するユーザーを除くと、iPad Proへの投資に踏み切る理由を見い出せるプロユーザーは限られます。しかし、M1を搭載するiPad Proに関心を持つ人は多く、iPad Proをプロユーザーのツールにするアプリの拡充が待望されています。
WWDC21の基調講演は、米国西海岸時間の6月7日午前10時(日本時間6月8日午前2時)から、apple.com/jp、Apple Developerアプリ、Apple TVアプリ、YouTubeを通じて配信され、配信終了後にオンデマンド再生で視聴できるようになります。Appleの次期プラットフォームや採用される技術についてより深く知りたい方には、「State of the Union」(6月7日午後2時、日本時間6月8日午前6時)も視聴することをお勧めします。