「がまん」ではなく「やりたい」を考え抜け

みなさんのなかには、今の部署に不満がある人もいるでしょう。人事異動の7割は思うようにいかないとか、新入社員の6割が希望どおりにはならないなど仕事とやりたいことのミスマッチは会社員にはよく起こります。

今までなら「苦手でもがんばってやらなきゃ」など"石の上にも3年"の精神で辛抱する人も多いと思いますが、この考え方はすぐにやめるべきです。自分の資質に合わなければ、「仕事が合わない」「結果が出ない」「辞めたい」というような悪循環に陥ることになるからです。

では、どうしてそんな不安を感じる状況に陥るのでしょうか? それは、あなたがもっとも良いパフォーマンスを発揮できる場所にいないからです。そして、もっとも良いパフォーマンスを発揮できる場所に自分を置くためには、自分自身のことをきちんと知ることが必要です。

  • 「この仕事、続けていけるのか?」と思ったらやるべきこと

「野球はイチロー選手の最高の仕事領域(スイート・スポット)だね」。

海外ではよくこのような表現を使います。最高の仕事領域とは、「できること」と「好きなこと」が重なり、自分が「もっともパフォーマンスを発揮できる領域」のことを指します。これが自分らしく生きるための、ぶれない「土台」になります。

最高の仕事領域=自分の強みそのもの。最高の仕事領域で仕事をすることこそ、今より不安や退屈を感じることなく、生き生きとエネルギッシュに結果の出せる人生が送れます。そして、このフィールドで働くには「自分は何が得意/好きか」ということをキチンと知っておくことが何よりも大切なのです。  

かの世界的な投資家ウォーレン・バフェット氏にも同様の言葉があります。

――――もっとも重要なのは、自分の能力の輪をどれだけ大きくするかではなく、その輪の境界をどこまで厳密に決められるかだ――――

これは簡単に言うと「自分の得意領域で勝負をしろ」ということです。

もしあなたが頑張っても成果が出なくて行き詰まっていると感じるなら、それは自分の苦手なところでもがいている状態なのかもしれません。

なぜ、自分の「見える化」が最強なのか

自分のことをよく知らずにいると、仕事や人生でも思うように前に進めません。ですから自分には何が備わっていて、どんな適性が自分にあるのかをよく知る必要があります。

そのためには、自分のやりたいこと、得意な分野はなにか、何が好きで、何が嫌いなのか、自分を深掘りすることが大事になってきます。

たとえば、

・あなたが今までで、惜しげもなくお金をかけてきたことは何か?
・仕事と同じくらい時間をかけてきたことは何か?
・寝食を忘れて没頭したことは何か?

など、過去や現在の自分と向き合って適性を整理し、強みを可視化していくことが必要です。そのための方法が、A4見開きサイズのノートを使って、自分の立ち位置を見つけための強力なツール「4分割ノート」を作成することです。

(1)ノートに、自分の経験してきたこと、得意なこと、不得意なこと、好き、嫌いを思いつくままに箇条書きする
(2)その項目をもとに、次の見開きに十字を書いて4分割にしたマップに落とし込む

  • 書籍『GAFA部長が教える自分の強みを引き出す4分割ノート術 「最高の仕事領域」をみつけよう!』(世界文化社)より抜粋

仕事でやってきたことはもちろん、仕事に限らず、プライベートに関しても、同じように自分がこれまでにやってきたことを書き出していきます。

たとえば、「歌を歌うのが好き」「大人数のパーティーは疲れるから苦手」など、「楽しい」「心地いいと感じること」や「疲れる/避けたいこと」という気持ちにフォーカスして書いてみると、より自分のことがよくわかります。

書き出したものは(2)のマップに順次書き込んでいけば、自分がやりたいこと、自分の得意、不得意などが見えてくるはずです。

「わがまま」上等! 苦手なものからは全力で逃げろ

自分の「見える化」ができたら、「好きで得意なものを目指す」ことに目が行きがちですが、同様に大事なのは「全力で苦手なものから距離をとる人生」にすることです。

先ほどおススメした4分割ノートを確認してみてください。不得意で苦手な左下の領域、この「避けるべき領域」には手を出してはいけません。苦手なことや嫌いなことは、それを得意/好きな人と比べると、たいていレベルが低くなり、頑張るモチベーションも湧かないものです。

「好きなことを仕事にするのは間違いだ」とかいう人もいますが、そうは思いません。

そもそも自分の仕事を好きでなければ、パフォーマンスは向上しませんし、成功も難しいでしょう。ポジティブ心理学の父の一人・ミハイ・チクセントミハイによれば、「仕事が与えられるたびに否定的になれば、仕事そのものが完了しなくなり、逆に好きな仕事をすることは活力にあふれ、生産性が高く、成功に向けて良いスタートができる」といいます。

否定的な仕事が一過性のものなら、まだ我慢できますが、日々の仕事になった場合は話が変わってくるはずです。

  • 書籍『GAFA部長が教える自分の強みを引き出す4分割ノート術 「最高の仕事領域」をみつけよう!』(世界文化社)より抜粋

たとえば営業が苦手/嫌いな人が、営業に配属になったケースを考えてみてください。日々努力しているにもかかわらず満足な営業成績が上げられず、毎日のように上司や同僚から「お前はほんと使えねえやつだな」とバカにされれば、自信もなくなるでしょう。

ですから、そういうところからはすぐに距離を置かないといけません。とはいえ、「苦手なことから全力で逃げろ」と言われても、意外と難しいもの。実は苦手なことを避けるためにも、スキルが必要です。

日頃から「苦手/嫌い」な仕事を割り当てられないように、自分の適性を上司や周囲にアピールしておく必要があるのです。ただし、その際にも重要な注意点があります。それは、「自分には営業は向いていません」と言ってはいけないということ。ネガティブな発言は、「使えないやつだな」、「ただやりたくないだけじゃないのか?」など、相手に不信感を抱かせてしまう可能性があります。

たとえば先ほどの営業の場合、テレアポ、商談、クロージング、顧客管理などさまざまな業務があります。その中でもまだ自分に向いているものをピックアップして、「商談より、顧客管理のほうが向いてます」といったように、少しでも自分が快適に過ごせる方向にアピールしながら、次のチャンスの扉を開いてください。

普段から「苦手」な仕事を選択せずにすむよう布石を打っておけば、苦手な仕事を強いられる機会も減っていきます。また、「代わりに自分には何ができるだろう?」「何がしたいんだろう?」と、自分の得意なこと/好きなことを探るきっかけにもなるはずです。

もしも、自分の仕事に行き詰まり感を感じているのなら、もう一度、自分の「最高の仕事領域(スイート・スポット)」と合っているかどうか見直してみてください。ミスマッチな部署で仕事に行き詰まったとしても、これまでの時代のように「無理してがんばる」ではなく、これからは先の人生で自分が働きやすく、もっともパフォーマンスを出せる環境を自分自身の手でつかみ取っていただきたいと思います。

執筆者プロフィール:寺澤伸洋(てらさわ・のぶひろ)

1976年大阪府生まれ。灘高校、東京大学経済学部を卒業後、日系メーカーで17年間勤務。経理、営業、マーケティング、経営企画と多様な部門を経験し、半年間のイギリス留学後に現職に転職。著作に『40歳でGAFAの部長に転職した僕が20代で学んだ思考法』、『4時間のエクセル仕事は20秒で終わる』がある。