「不覚にも」はビジネスシーンで使われることが多い言葉のひとつです。また、時代劇の中で武士が切りつけられた際に「不覚」を使われていることから、かなり昔から使われてきた言葉であることがわかります。しかし、正確な意味や語源はよく知らないまま、使っている人は多いでしょう。
この記事では、「不覚にも」の意味や使い方、いい換え例を紹介します。
「不覚にも」の意味と成り立ち
「不覚にも(ふかくにも)」とは、「用心していたにも関わらず油断して失敗した様子」を表す言葉です。「不覚にも~してしまった」など、自分の行動を説明する言葉とあわせて使われます。
「不覚」とは
「不覚」は名詞ですが、「だ」を付けて形容動詞としても用いられる言葉です。「不覚」には下記のような意味があります。
・心や意識がしっかりしていないことやその様子
・油断して失敗すること
・覚悟が定まっていない様子
・愚かなことやその様子
「不覚にも」として「不覚」を用いる場合は、主に「油断して失敗すること」という意味で使われます。
「不覚」は仏教で使われていた言葉
「不覚」はもともと仏教由来の言葉で、本来わが身に備わるさとりに気づいていない様子や、仏の智恵に暗いこと、無明を意味する言葉です。そこから意味が転じて、現在の意味で用いられるようになりました。
本来進むべき方向とは違う方向に進んでいることで、結果的に失敗している様子を指しています。
「にも」の役割
「にも」は格助詞の「に」と係助詞の「も」が組み合わせられた表現で、下記のような使い方があります。
- 格助詞「に」に並列や列挙・強調などの意味を加える
- 対象の動作がどうしてもできない様子やその動作を行うのをためらう様子
- 逆接の仮定条件を表す
「不覚にも」の場合、逆接の仮定条件として使われています。
「不覚にも」の使用例
「不覚にも」はビジネスシーンで使われることも多くあります。どのような場面で使われるのか具体的な例をみていきましょう。
自分のミスを説明する場合に使う
「不覚にも」は自分の誤りを誰かに説明する場合によく使われる表現です。「不覚にも失念しておりました」という方が「うっかり忘れていました」というより硬い表現ですので、上司への説明などビジネスシーンで使うのに適しています。
・不覚にも失念しており、申し訳ございませんでした。
・不覚にも初歩的な入力ミスをしてしまった。
お詫びのメール
ビジネスでのちょっとしたトラブルでは、メールでお詫びすることもあります。「不覚にも」は自分の不手際を認める言葉の前によく使われますので、使い方を覚えておきましょう。
・不覚にも、ご迷惑をかけることになってしまい、誠に申し訳ありません。
・不覚にも余計な口出しをしたせいで事態を悪化させてしまい、申し訳ございませんでした。
「不覚にも」の言い換え例
「不覚にも」は日常会話で使うには少し硬い言い回しですので、同じような意味を持つ類語が使われることが多いです。「不覚にも」をいい換えられる、代表的な類語を紹介します。
不用意にも
「不用意」は、「準備がととのっていないこと」「注意が不足していること」などの意味がある言葉です。「不用意にも」は「注意が行き届いておらず」「急なできごとで認識が遅れてしまい」などの意味があることから、「不覚にも」と似た意味で使われます。
・不用意にも余計な口出しをしてしまって申し訳ありませんでした。
油断して
「油断」とは、「高をくくって気を許してしまい、注意を怠ること」という意味で使われ、「不覚」と意味が似ている言葉です。「油断して」「油断があり」などが「不覚にも」の類語表現として使われることがあります。
・私が油断してしまったことでご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。
うかつにも
「うかつ」には「うっかりしていて心が行き届かないこと」という意味です。「油断して失敗すること」を意味する「不覚」と意味が似ていますので、「不覚にも」と「うかつにも」は同じような状況で使われます。
・うかつにも失念しておりまして、ご迷惑をおかけしました。
不注意にも
「不注意」には「注意が不足していること」「うかつであること」などの意味があります。「不注意にも」は「注意や配慮が行き届いていない様子」を表す言葉であり、「不覚にも」と似た意味で使われます。
・不注意にも初歩的な操作ミスをしてしまい誠に申し訳ありませんでした。
軽率にも
「軽率」は「物ごとを深く考えずに軽々しく行うこと」という意味がある名詞です。「軽率にも」には「先のことに気を配らずに勢いで行動する様子」「注意や配慮が行き届いていない様子」という意味があります。
つまり「軽率にも」は「不覚にも」に比べて広い意味で使われますが、場合によっては意味が同じです。
・軽率にも私が余計な口出しをしたせいで事態を悪化させてしまうこととなり、申し訳ございませんでした。
「不覚」を用いたその他の言い回し
「不覚にも」以外にも「不覚」という単語を用いた表現はいくつかあります。「不覚」を用いた代表的な表現を紹介します。
前後不覚
「前後不覚」とは、あとさきの区別が付かなくなるほど、正体を失うこと。「前後」には「ある位置を境にした前と後」という意味があり、「不覚」は「心や意識がしっかりしていないことやその様子」という意味があります。
例えば、お酒を飲み過ぎてもうろうとしている場合に「前後不覚になってしまった」といったように使われます。
不覚をとる
「不覚をとる」とは、「油断して失敗する」「しくじった結果思わぬ恥をかく」などの意味で使われる言葉です。「不覚にも」と使われる状況が似ていて、下記の例文は同じ意味を表します。
・不覚にも競合相手を甘くみて、プレゼンで負けてしまった。
・競合相手を甘くみて思わぬ不覚をとり、プレゼンで負けてしまった。
不覚人
「不覚人」とは、「覚悟のできていない人」「不心得者」という意味です。「不覚」の意味が「不覚にも」で使われる意味とは異なり、「覚悟が定まっていない様子」という意味で使われています。
頻繁に使われる表現ではありませんが、平安時代の書物「今昔物語」で使われているなど、古文で出てくる表現です。
「不覚にも」の英語表現
「不覚にも」を直訳できる英語表現はありませんが、近い表現としては「無意識のうちに」という意味がある「unconsciously」などがあります。
また、謝罪表現と自分のせいだと認める表現を組み合わせる時に、「不覚にも」の英語表現として使われることがあります。下記の例を参考に、英語表現を組み立ててみましょう。
・Please accept my sincere apology for causing a trouble to you. (不覚にもあなたにご迷惑をおかけしてしまい、心よりお詫び申し上げます)
「不覚にも」は失敗した理由を表現する時に使える言葉
「不覚にも」は、仕事などで失敗した理由を説明する際に使われることがある表現です。油断して失敗してしまった場合に「不覚にも~してしまいました」などと言います。また、お詫びのメールを送る時にも、よく使われる表現のひとつです。
「不覚にも」は、「不用意にも」「うかつにも」など、いい換え可能な表現がたくさんあります。語彙力を増やしてシーンに合わせて使い分けられるよう、一緒に覚えておくといいでしょう。