相手に何か渡すとき、どんな言葉を添えていますか? 「どうぞ」だけではビジネスシーンでは味気ないですよね。そんなときに使えるのが「お納めください」という言葉。本記事では、「お納めください」の正しい使い方を解説します。また、例文や言い換え表現なども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
「お納めください」の意味・使い方
「お納めください」は「納める」に「お~ください」と丁寧語を組み合わせた敬語。相手に何かを渡すときに添える言葉です。「おおさめください」と読みます。
そもそも「納める」には下記のような意味があります。
- きちんと決まった場所に収納する
- お金や物品を受け取り自分のものにする
- 渡すべきお金や物品を受け取るべき相手に渡す
- 乱れているものを納め、落ち着いた穏やかな状態にする
「お納めください」の場合は、「受け取ってください」という意味合いで使います。
「お納めください」と「ご査収ください」の違いは?
ビジネスシーンでは相手に何かを渡すときに「ご査収ください」という言葉を使うことも多いです。「お納めください」と似ていますが、この2つの意味合いは異なります。
「査収」という言葉には「金銭や書類などを、よく調べ、確認して受け取ること」という意味があり、「ご査収ください」はただ受け取るだけでなく「よく調べて確認してください」という意味合いを含んでいます。一方、「お納めください」にはそのような意味合いはありません。状況に合わせて上手く使い分けましょう。
目上の人に使える敬語?
「お納めください」は上司や取引先の担当者など、目上の人に使える敬語表現です。「先日は大変お世話になりました」「ほんの気持ちですが」などの表現を加えると、よりかしこまった言い回しになります。
「お納めください」の例文
ここでは、シーン別に「お納めください」の例文を紹介します。
ビジネスシーンで物を渡すとき
ビジネスシーンでよく使うのは、得意先への手土産やお中元・お歳暮など、日ごろの感謝をこちらから伝えたいときです。相手が受け取るのを少しためらいそうなとき、その気持ちに先回りしてこちらから「どうぞ受け取ってください」と促せば、相手も受け取りやすくなるでしょう。ちょっとした気配りの言葉として活用してください。
「ほんの気持ちですが記念品をご用意しましたので、どうかお納めください」
「ささやかながらお祝いの品をお送りいたしましたので、お納めください」
「粗品ではございますが感謝の気持ちですので、遠慮なくお納めください」
上記に加え、「つまらないものですが、どうぞお納めください」という表現もあります。昔から使われていた表現ですが、「つまらないもの」が謙遜の意味合いが強く、現代にはそぐわないという風潮も。あまり聞かなくなりました。
神社や香典を渡すとき
前述したように、「納める」には「渡すべき金品を受け取るべき相手に渡す」という意味があります。神社や寺などで、神様のご加護に感謝して金品を差し出すときに「お納めください」と言葉を添えます。具体的には以下のようなものが該当します。
- 初穂料:神社で初穂や初物の代わりとして神様にお供えする金品
- お布施:お寺などで仏事を営んでもらった謝礼
- 香典:死者の霊にお香やお花の代わりに供えるお金
これらを渡すときは、ただ差し出すのではなく「お納めください」の一言を添えましょう。
謝罪したいとき
「納める」には「乱れているものをおさめ、落ち着いた穏やかな状態にする」という意味もあります。こちらもあわせて押さえておきましょう。
「お詫びの気持ちとして、心ばかりではございますがどうぞお納めください」
「この度は多大なるご迷惑をおかけしましたことを、心よりお詫び申し上げます。失礼かとは存じますが、なにとぞお納めくださいますようお願いいたします」
「お納めください」を使うときの注意点
丁寧な表現である「お納めください」ですが、使うのにふさわしくないこともあります。具体的に見ていきましょう。
親しい人や部下に対して
「お納めください」は尊敬語のため、親しい間柄の人や目下の相手に使うと不自然です。
誤:(部下に対して)こちらをお納めください
正:(部下に対して)こちらを受け取ってください
ビジネス文書を送るとき
見積書など、相手に内容の確認までしてほしいときは、「納める」ではなく「査収する」「確認する」などを使います。受け取るだけでなく、「しっかり確認してくださいね」というメッセージにもなります。
誤:見積書を添付しました。どうぞお納めください。
正:見積書を添付しました。どうぞご査収ください。
給料や商品代金などのお金に対して
「お納めください」は、感謝の気持ちをプラスアルファで伝えたいときに使います。あらかじめ金額が定められた給料や月謝、商品代金などは「支払う」が適しています。
誤:今月の給料です。お納めください。
正:今月の給料をお支払いします。
結婚式ではNG!
注意が必要なのは、結婚式などおめでたい席で渡すご祝儀です。ここでも「お納めください」と言って渡してしまいそうですが、これはNG。「納める」には「物事を終わらせる」という意味もあるので不吉だと感じる人もなかにはいます。ご祝儀を渡す際は避けましょう。
「お納めください」の言い換え表現・類語
ここでは、「お納めください」の言い換え表現や類語をご紹介します。
ご笑納ください
「笑納(しょうのう)」は文字通り、どうぞ笑って受け取ってくださいという意味です。謙遜の気持ちが強く、「たいしたものではないから、軽い気持ちで受け取ってくださいね」というニュアンスが込められています。
差し出がましいようですが、先日完成した本をお送りいたします。どうぞご笑納ください。
お受け取りください
シーンを選ばず使えるのが「お受け取りください」という表現です。何を言おうか迷ったら、ひとまずこの言葉を選んでおけば間違いありません。
入り口で案内状をお受け取りください。
ご受納ください
「受納(じゅのう)」は「納める」とほぼ同義です。かしこまった表現なので、メールなどの文章で用いられるケースが多くみられます。
お見舞品をお送りいたしましたのでご受納ください。
「お納めください」への適切な返事は?
「お納めください」と何かを差し出されたら、「頂戴いたします」と返事しましょう。「ありがたく頂戴いたします」「お心遣いありがとうございます」とすれば、さらに丁寧な表現になります。さらっとよどみなく返せたら、ビジネスパーソンとしての格も上がるでしょう。
「頂戴いたします」
「ありがたく頂戴いたします」
「お心遣いありがとうございます」
金品や書類の受け渡しは対面ばかりではありません。郵送やメールなどで受け取った際は、いち早く以下のように相手に伝えるのがマナーです。
「確かに受け取りました」
「ご送付いただきありがとうございました」
「お納めください」は気配りの表現!
「お納めください」は、相手に感謝の気持ちを伝えたいとき、金品や書類に添えて使う言葉です。相手が受け取るのをためらってしまうような場合も、「受け取ってください」と促すことができます。神社や寺などでも使われますが、結婚式で使うのは避けましょう。
「ありがたく頂戴します」という返答とセットで覚えておけば、ビジネスシーンで大人のふるまいができますよ。