俳優の吉沢亮が主演を務める大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)。30日放送の第16回「恩人暗殺」では渋沢篤太夫(栄一から改名)の恩人・平岡円四郎(堤真一)が暗殺された。「ひとつの哀しい出来事を中心に篤太夫、慶喜(草なぎ剛)をはじめとした様々な人たちの行動や感情が多面的に描かれた脚本をどう撮るか考えました」という演出担当の村橋直樹氏。多面体のひとつが篤太夫の従弟・平九郎(岡田健史)と篤太夫の妹・てい(藤野涼子)のシーン。捕まって手錠をかけられた平九郎の口にていが桑の実を指でつまんで食べさせる。そのときの2人の表情の変化はムズキュンを超える名シーンであった。岡田と藤野、若い俳優たちの力によるものと村橋氏。『青天に衝く』で描かれるキュンシーンに込めた意味を教えてくれた。
「平九郎とていのシーンは淡い初恋から少しずつ大人になってきたことを意識してお互いがドキドキするシチュエーションでしたが、平九郎が、兄・惇忠(田辺誠一)が関わっている水戸の騒乱に巻き込まれ牢屋に入って出てきたあとということもあって、単なる恋する2人のムズキュンシーンではなくなりました。平九郎が今までとちょっと違っていると、ていはふと感じる。兄たちと違って一生、油売りだと平九郎が残念に思っている時、ていは油売りの平九郎でいいと言っていたけれど、今、目の前の平九郎は何か違う。その思いに桑の実を口に入れる手が止まるわけです。岡田健史さんと藤野涼子さんの芝居が良くて、彼が変わったことでこれからの2人の運命も変わっていくことを暗示するような空気が出てすごくいいシーンになったと思います」
思いがけず大人のシーンになったと村橋氏はうれしそうに語る。
「岡田君が、あのシーンを撮る前に、兄たちとの関与を疑われ岡部藩の陣屋に連行されるシーンを撮ったので、平九郎が明らかに違う平九郎になって帰って来ていると実感したそうです。平九郎が男として脱皮してステージがひとつ上がったように演じる岡田君の芝居を藤野さんが見事に受けていました。第16回は円四郎の暗殺や池田屋襲撃というえげつないことが起こるので、ふわっとした恋愛シーンのようなシーンは浮いてしまいかねないのですが、2人が子供から大人になって不穏な世の中に巻き込まれていく者たちとして存在してくれました」
だからこそふわっと白い窓明かり越しながら、どこか暗さが覆っている。村橋氏は、逆光が好きで「明かりから芝居を考えて、役者さんに無理を言って明かりのあるほうにいってもらうので、窓ぎわの芝居が多いんです(笑)」と言う。同じく第16回の慶喜と円四郎の場面も明かりが重要になっていた。
光とキュンシーンといえば、第4回の栄一と千代(橋本愛)のシーン。寝ている栄一の唇に光が当たってそれを千代が見つめる様は甘酸っぱかった。
「あの頃の2人は、今回の平九郎みたいにいろんなものを背負いはじめていなくて、若く純粋な恋愛感情だけで突っ走れた時期だったので、ただただそれを美しく撮ろうと思いました。第4回は、江戸幕府は覇権争いでドロドロしているけれど、血洗島はさわやかで、その対比を意識して撮っていました。でも吉沢亮さんと橋本愛さんが見つめ合うわけですから、誰が撮ってもきれいに撮れるんですよ(笑)」