コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場するなか、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。

本稿では、The Breakthrough Company GO (株式会社GO)の代表取締役である、三浦崇宏氏にインタビューを行った。PR/クリエイティブディレクターとして活躍し、『「何者」かになりたい 自分のストーリーを生きる』をはじめとした著書で社会にメッセージを送る同氏は、コロナ禍以後の変化をどのように捉えているのだろうか。

■三浦氏が語る若い世代へのメッセージ「新しい時代の一期生」後編はこちら

  • The Breakthrough Company GO 代表取締役 PR/クリエイティブディレクター 三浦崇宏氏

コロナ禍で起こったコミュニケーションの変化

新型コロナウイルス感染症の流行、それに伴った緊急事態宣言の発令によって、コミュニケーションの仕方は大きく変化した。三浦氏は、コロナ禍によって起こったコミュニケーションの変化には良い面と悪い面があると述べ、良い側面として『距離が離れていても短時間で人と会えること』を挙げた。

「リモートが普及して、相手が世界の裏側にいても『一時間だけ話そうよ』みたいなことがすごく緊密に行われるようになりました。これ自体はすごく良い変化だと思います」

一方で、悪い側面での変化として『表情が読めなくなったこと』を挙げる。対面ではマスクをかけられるようになり、笑っているのか退屈そうなのか、非常に見えにくくなった。Web会議でも解像度などが追いついていないので、ビビッドな表情の変化はわかりにくい。

「口ではウソをつけても、身体はウソをつけないんです。話しているときは身体を見た方がいいんですよね。みんな言葉を聞く方が大事だと思っているけど実は真逆で、話は目で聞くつもりでいた方が良いと僕は思います」

教育の世界では、マスクの着用が日常化したことで表情が読めない子供が育つのではないか、という懸念も生まれていると三浦氏は語る。

ウィズコロナで見えた3つの大きな変化

コロナ禍は現在もなお、経済面に大きな打撃を与えている。とくに飲食業界は多大な影響を受けており、いまも多くの飲食店が苦境に立たされている。

三浦氏はそのような状況を見て、「僕ら広告業界の人間にも影響はありますが、少なくても業態が変わることはありませんでした。しかし飲食店さんはデリバリーを始めるなど、やること自体が大きく変化しています。そんな人たちの力になりたいという想いが芽生えました」と語る。

そういったウィズコロナの状況だが、同じく社会に大きな影響を与えた2011年の東日本大震災を振り返り、その時とは異なる3つの気づきがあったと話す。

「1点目は、今回、企業が自発的に社会を支える活動を行っていたことです。僕は2011年の東日本大震災当時まだ博報堂にいて、被災地の人と一緒にライブをやったり、食事を配ったりしていました。コロナ禍でも困っていた人は大勢いましたが、さまざまな企業がやるべきことを自発的にやっていて、広告屋としては出番が少なかった印象があります」

「2点目は、厳しい状況にありつつも、それをネガティブではなくポジティブに捉えて向き合おうとする企業が多かったこと。我々は広告を売る会社ではなくて、『変わりたい』『チャレンジしたい』という企業に相談される会社です。危機の"機"は機会の"機"でもあります。耐えればなんとかなるだろうという守りの姿勢ではなく、このピンチを乗り切るために新しいことを始めたいと、多くの相談をいただきました」

「3点目は、ヒエラルキーからコミュニティの時代へと移行が進んだことです。これまでの働き方は椅子の奪い合いで、昇進すればするほど椅子の数は少なくなっていきました。しかし、その会社が解散してしまったら、昇進のために費やした努力に意味が無くなってしまいます。『不安定な時代において、ひとつの組織のヒエラルキーを登って出世していくよりも、勤め先以外に複数のコミュニティを作ることが大事』と感じた方が多い印象を受けています」

コミュニティの増やし方は、社会人サークルでも、旧友とのZOOM飲みでも、フットサルクラブでも、商店街の連合でも良いという。「ひとつの会社で偉くなることが重要ではなくなっていると多くの方が感じるなか、組織や企業もまた、コミュニティを作る重要性を敏感に察知している」と三浦氏。

「そういった背景を受けて、企業は副業を推奨しているんです。そして社員は空いた時間で副業をして稼げます。ヒエラルキーからコミュニティへの移行は、社員にとっても企業にとっても重要なキーワードになってくるんじゃないかなと思います」

  • 副業は企業と社員の両方にメリットがあると三浦氏は話す

ただし、本業と同じ仕事を副業にすることに対しては警鐘を鳴らす。

「会社で与えられる仕事の方がレベルが高くて、外の仕事ではレベルの低いことを安価に引き受けることになるので、自分の縮小再生産にしかならないんですよ。副業でそれをやってしまうと価格のバランスが崩れてしまいますし、自分も成長できません。そんな副業をするくらいなら本業に集中してヒエラルキーを登った方が良いと考えています」

『マナー』『思いやり』『個人間の関係』をデザインする

ここからは、三浦氏とGOで働く社員とのコミュニケーションについて伺っていきたい。GOでは、社内コミュニケーションについてどのように考えているのだろうか。

「僕は、ルールはできる限り最低限にして、『マナー』『思いやり』『個人間の関係』をデザインすることが大事だと思っています。例えば『ゴミは捨てましょう』『使ったものは元の場所に戻しましょう』をルールにするのは簡単ですが、ルールで人を縛るのは信頼していない証拠です。経営者にとっては楽かもしれませんが、ルールは麻薬のようなもので、がんじがらめにするとハイパフォーマーが居着かなくなると感じています」

「僕は社員に対して『お前さ~』なんて言うこともありますが、それに対して『私、三浦さんのそういうとこサイテー。マジ嫌いです』なんて返せる関係であれば問題ないと思うんです。昨今、公的な場以外での失言が流出して炎上することがありますが、これは何が問題だったかというと、チームに嫌われたことなのかなと」

三浦氏は、「大切なことは『差別をしちゃいけない』『過激な発言をしちゃいけない』よりもっと手前にあって、チームに嫌われてはいけないということです」と念を押す。

「チームに嫌われているから、内々の発言を外部に漏らされるんです。相手の気持ちを想像して、相手に嫌な思いをさせないこと。リモートワークが普及していくなかで、今まで以上に『思いやり』が大事になっていくでしょう」

とはいえ、ルールを少なくするためには社員を信頼しなければいけないし、社員が経営者を信頼できる環境を作らなければならない。後編では、GOがコミュニケーションを円滑にするために行っている取り組みについて深掘りしていきたい。

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書籍『「何者」かになりたい自分のストーリーを生きる』

革命的クリエイターが、9人の新時代のリーダーたちと、令和を生きる難しさと苦悩、それを乗り越え、成長するヒントを求めた「対話」の時間をまとめた1冊。The Breakthrough Company GO代表取締役、PR・クリエイティブディレクター 三浦崇宏氏著、集英社より上梓されており、価格は税別1,650円。