「囚人のジレンマ」という言葉をご存知ですか? ゲーム理論のひとつであり、社会科学の基本ともいわれます。今回は、囚人のジレンマとはどういうものなのか、代表的なモデルをもとにわかりやすく解説します。
囚人のジレンマとはどういう意味?
「囚人のジレンマ」は、英語で「prisoners' dilemma」と表現します。ゲーム理論におけるゲームのひとつとして知られており、多くの学問でも取り上げられています。
相手と協力する方が協力しないときよりもいい結果になることが頭では分かっていても、協力しない者のほうが利益を得るような状況ではお互いに協力しなくなる、というジレンマを指す言葉です。
また、ゲームを無期限に繰り返すことで協力の可能性が生まれます。そのため本来自己の利益を追求する個人の間で、どれだけ協力が可能となるかという社会科学の基本問題となっています。
数学者のアルバート・タッカーが考案した囚人のジレンマ
「囚人のジレンマ」は、1950年に数学者のアルバート・タッカーが考案し、ランド研究所のメリル・フラッドとメルビン・ドレシャーの行った実験をもとに、アルバート・タッカーがゲームの状況を「まるで囚人の黙秘や自白のようだ」と例えたためこの名がつきました。
個別最適と全体最適のジレンマのナッシュ均衡
個人同士が合理的に選択した結果を「ナッシュ均衡」といいますが、それは社会全体にとって望ましい結果にはならないため、「社会的ジレンマ」といわれることもあります。
「社会的ジレンマ」は、社会のなかで個人が「協力的」であるか「利己的」であるかを選択できる状況にあることをいいます。個人にとって合理的で利己的な選択をした場合でも、社会にとっては非合理的で悪い結果になってしまう状況を表したものです。
そもそもジレンマとは?
自然科学である生物学においても、「囚人のジレンマ」は、協力行動を説明するモデルとして活発に研究されています。
その根幹にあるジレンマとは、相反する2つの選択肢から、どちらかを選ばなければならないが、どちらを選んでも不利益を被るため決め切れないでいる状態のことです。
究極の選択を迫られたときや、なかなか決められないような状況にある際には「ジレンマに陥る」と表現します。
囚人のジレンマはゲーム理論の一種
ゲーム理論とは、社会や自然界において、個体が関わる意思決定の問題や、行動の相互依存的状況を研究する学問のひとつです。
ゲーム理論の対象は、あらゆる戦略的状況であり、ここでいう「戦略的状況」とは、自分の利益が自分の行動のほか、他者の行動にも依存する状況を意味します。
戦略的状況はさまざまな学問分野に見られるため、ゲーム理論は広い範囲の学問にも応用されています。
「囚人のジレンマ」におけるゲームの基本
「囚人のジレンマ」は、共同で犯罪を行ったと思われる2人の囚人AとBを自白させるため、検事が次のような司法取引をもちかけるところから始まります。
なお、A.Bは別室に隔離されており、相談することはできない状況に置かれているものとします。
「(1)2人とも黙秘したら、2人とも懲役1年になる。(2)もし片方だけが自白したら、自白した人はその場で釈放する。一方、黙秘を続けた人は懲役3年になる。(3)ただし、2人とも自白したら、2人とも懲役2年となる」
「このとき、囚人AとBはそれぞれ黙秘すべきかそれとも自白すべきか」というのが問題になります。
2人の囚人にとって、お互いに自白して2年の刑を受けるよりは、互いに黙秘して1年の刑を受ける方が得です。しかし、2人の囚人は、それぞれ自分が釈放されたいという「利益」を追求する限り、「互いに黙秘」ではなく「互いに自白」を選んでしまいます。
そしてお互いに損をする状況に陥ってしまうのです。
身近にある囚人のジレンマの例
現実ではゲームのような囚人である状況はごくまれですが、「囚人のジレンマ」と同じ状況になる場合は多くあります。
企業間の値下げ競争や共有資源の管理、自由貿易や軍縮のための国際協力などもそのひとつで、わたしたちの気付かないところでも「囚人のジレンマ」はおこっているのです。具体的な例を見てみましょう。
A社とB社は同じ市場で同じ製品を販売しています。ある時A社が「これからはB社よりも安く売ろう!」と言い出し、自社製品の値下げを突然決めました。
そうすると、消費者はB社の製品を購入しなくなり、B社はA社に消費者を完全に奪われてしまいます。するとB社はA社よりも低い価格をつけようとするでしょう。
結果として2社は値下げ競争を展開してしまい、お互いの利益をどんどん削っていくことになってしまうのです。
囚人のジレンマを回避するためには
それでは「囚人のジレンマ」の状況を回避するためにはどうしたらいいのでしょうか。
長期的な関係を視点に持つ
「相手を裏切って一度だけの大きな利益を得るよりも、長期間協力し、ある程度の利益を得た方が自分にとって総合的に得をする」という状況を作ります。
これは「一度裏切ってしまい利益を全て失ってしまうより、長い目で見て少しでも利益がある方がよい」と感じてもらうことが重要です。
罰則を設ける
罰が大きくなればなるほど効力は比例していきます。会社の契約やビジネスでの取引は「罰則」を契約として使っていることも多いでしょう。
宣言でゲームを変える
この方法は、いわゆる「ゲームの構造自体」を変えてしまうことをいいます。「あなたが裏切ったら、私も裏切るよ。でも、私は絶対に裏切らない」という内容の宣言をしてしまう方法です。
結果を限定し、選ばせないような状況でありながらも相手に安心感を与えているので、うまく協調をとることができます。
囚人のジレンマは日常生活でも起こる課題
囚人のジレンマとは、お互い協力する方が協力しないときよりもよい結果になることが分かっているのにもかかわらず、協力しない者が利益を得る状況ではお互い協力しなくなるというジレンマのことをいいます。
ゲーム理論の一種で、人間の心理的な部分に作用しており、家庭やビジネスでも「囚人のジレンマ」が当てはまる人もいます。囚人のジレンマを防ぐには、長期的な関係を築くこと、罰則をもうけること、ゲームを変える方法が効果的です。