女優の松たか子が主演し、坂元裕二氏のオリジナル脚本によるカンテレ・フジテレビ系ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(毎週火曜21:00~)。同じ松たか子×坂元裕二タッグで制作された『カルテット』を手がけた佐野亜裕美プロデューサーがTBSからカンテレに移籍して第1弾の作品だが、今作では、テレビの前にいる視聴者が満足できる連続ドラマを作り続けるために、ある決断をしていた――。
■TBS退社後に単身渡米
佐野PはTBSを退社することを決めた後、2020年初めに単身でアメリカに渡っていた。まだ自身の身の置き所が決まっていなかったときだった。語学学校に通う傍ら、海外の映画やドラマ作りを少しでも学ぶため、脚本を学べるオープンカレッジを覗いたり、知人のツテで、Netflixやマーベルスタジオの撮影現場を見学したりしていたという。
「日本の映像業界はこのままではジリ貧になると思っています。国内だけにマーケットを絞らざるを得ないビジネスモデルだからです。例えば、個人的にもよく見る韓国ドラマに、見やすく分かりやすく、かつ上質なドラマが多いと感じるのは、日本よりも何歩も先に行き、マーケットを海外にも広げているからだと思います。今回は短いアメリカ滞在でしたが、海外にも通用するものを作っていきたいという思いが強まるものになりました」(佐野P、以下同)
フリーで活動する選択肢も考えたというが、海外マーケットにも目を向けた連続ドラマ作りに理解を示したカンテレで再スタートを切ることになり、『大豆田とわ子と三人の元夫』が作られたというわけだ。
■制作費に還元する新たな仕組みを目指す
そんな『大豆田とわ子と三人の元夫』は、現状の日本のテレビドラマの標準に合わせにいかない画作りを選んだ。
「僕はただただ、いいものができていくことはとてもうれしい」――坂元氏からそんな言葉ももらい、最終的にGOサインを出す。そんな経緯も経て、今、海外の視聴者から坂元氏のインスタグラムに「とわ子がイケアの家具を組み立てるのが大変だったのに共感した」といったダイレクトメッセージまで届いているという。グローバルに共感を得ていることが伺える話だ。
だからと言って、作りたいものを作るだけのやり方が正解だとは思っていない様子も、佐野Pの言葉の節々から伝わってきた。作品の評価が視聴率という基準のみで判断されがちな現状が変わらない限り、ジレンマを抱えるのは当然だ。その上で腹を括ってもいる。
「私ももうすぐ40歳になります。最低でも65歳までは現場のプロデューサーをやっていたいと思っているので、残りの25年、プロデューサーとして生き残っていくためにやるべきことはひとつ。海外マーケットも見据えてドラマを作ることに舵を切って、その道を極めてまっすぐ頑張っていくしかない」と言い切った。
さらに、海外市場でも勝負するプロデューサーとして、仕事の重要な役割である予算の組み立ても考えている。「リメイクも含めて海外で売れる実績を重ねていけば、そこで得た利益を新作の制作費に上乗せできるような新たな仕組みを作っていくことも目指していきたいと思っています」
佐野Pのチャレンジはまだまだ続く。奇しくも松演じるとわ子も40歳という設定。『大豆田とわ子と三人の元夫』の終盤戦に向けて、とわ子が自分らしい生きる道を決断していく姿と重なるようでもある――。
●佐野亜裕美
1982年生まれ、静岡県出身。東京大学卒業後、06年にTBSテレビ入社。『王様のブランチ』を経て09年にドラマ制作に異動し、『渡る世間は鬼ばかり』のADに。『潜入探偵トカゲ』『刑事のまなざし』『ウロボロス~この愛こそ、正義。』『おかしの家』『99.9~刑事専門弁護士~』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュースし、20年6月にカンテレへ移籍。『大豆田とわ子と三人の元夫』を担当する。