勝敗に直結するかもしれないあまりにも早い突き捨ての成否に大注目
藤井聡太王位への挑戦権を懸けた、第62期王位戦挑戦者決定戦が5月24日に関西将棋会館で行われています。対局者は紅組優勝の豊島将之竜王と、白組優勝の羽生善治九段です。どちらが挑戦者になっても藤井王位とはタイトル戦初対決となります。
10時に対局が開始された挑戦者決定戦は、振り駒の結果羽生九段が先手番になりました。矢倉の駒組みを目指す羽生九段に対し、豊島竜王は後手番で近年流行している、急戦模様の布陣ではなく、矢倉に囲うじっくりとした作戦を採用しました。
その後駒組みが進み、本局は序盤から両者の角が向かい合う相矢倉の戦型になりました。先手としては2通りの攻撃陣形が考えられます。
1つは右銀を▲3七銀と上がり、銀を繰り出していくというもの。5月21日に行われた竜王戦1組出場者決定戦の▲羽生九段-△木村九段戦では、羽生九段はこの▲3七銀型を採用していました。
もう1つは本譜のように▲3七桂と跳ねる作戦です。こちらは角を引いたり、角交換をしてから、▲4六歩~▲4五歩と攻めていくのが一般的です。1筋の位を取った先手としては、棒銀で端を絡めて攻める筋(▲2六銀~▲1五歩△同歩▲同銀など)がなくなったため、▲3七桂型の方が良いという判断でしょう。
まだまだ駒組みを進めるか、仕掛けるなら角交換をするかと思われた39手目、羽生九段は意外な手を着手しました。それは▲2四歩と飛車先の歩を突き捨てるという手。矢倉戦では良く出てくる突き捨てではありますが、ここまで早いタイミングで実行するのは非常に珍しいことです。
確かに角が向かい合っているこのタイミングなら、相手に突き捨てを歩で取らせる手に限定することができます。しかし、まだ突き捨ての具体的な生かし方は見えてこない局面です。
先手は後に一歩を手にすれば、▲2五歩の継ぎ歩攻めをすることができます。しかし、相手に予め継ぎ歩攻めを用心した手厚い陣形を組まれる余地を与えています。さらに先に渡してしまった一歩を使われて端攻めをされるかもしれません。
とにかく、この突き捨ては深い事前研究がなければ絶対に指せない一手であることは間違いありません。そして、この手の成否が本局の結果を左右すると言っても過言ではないでしょう。羽生九段のこれからの突き捨てを生かした指し回し、豊島竜王の突き捨ての咎め方に注目です。