マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国バイデン大統領着任後の動きについて解説していただきます。


今年1月20日に民主党のバイデン氏が米国の大統領に就任し、4月29日が100日目でした。新大統領の最初の100日間は「ハネムーン期間」と呼ばれ、議会が協力的である(野党もそこまで敵対的にならない)ことから、新大統領が選挙公約を実行に移すチャンスであり、またその手腕が初めて試される期間でもあります。

何かとメディアを騒がせ、自らも積極的に情報発信していた前任者と異なり、バイデン大統領は黙々と仕事をこなしているとの印象です。

最優先したコロナ対策

真っ先に手を打ったのがコロナ対策でした。バイデン氏は大統領就任前に約2兆ドルの景気対策を発表。共和党の協力は得られませんでしたが、民主党だけで立法化し、American Rescue Planとして、発表から2カ月余りで実現させました。また、就任時に100日間でワクチン接種1億回を目指すとしましたが、1カ月早く実現し、2億回に修正した目標も余裕を持って達成しました。

トランプ時代からの巻き戻し

バイデン大統領は、トランプ時代に導入された政策を巻き戻すのにも余念がありません。就任当日に地球温暖化対策の世界的枠組みである「パリ協定」への復帰を宣言し、2月下旬に正式に復帰しました。移民流入規制や制限を緩和、共和党が目の敵にしていたオバマケア(ヘルスケア改革)を制約する措置を解除しました。

外交面では人権問題にもフォーカス

外交面でも、トランプ政権が離脱したイラン核合意への復帰を模索。対中国や対ロシアでは、貿易面や政治面(後者による米選挙への干渉)だけでなく、人権侵害に対して強い姿勢で臨む構えです。


経済政策についてバイデン政権と共和党が協議中

インフラ投資を中心とした中長期の経済政策であるAmerican Jobs Plan(総額2.25兆ドル)について、バイデン大統領や大統領側近と、共和党議員との協議が続けられています。バイデン政権が発表したAmerican Jobs Planは総額2.25兆ドルでしたが、現時点では総額1.7兆ドルまで縮小されているようです。

一方、共和党は当初、インフラ投資に絞った5,680億ドルのパッケージを合意可能な対案として提示しました。ただし、足もとでは態度をやや軟化させており、8,000億ドル~9,000億ドル程度までなら交渉する用意がある模様です。

超党派で実現できるか

もっとも、それでも大統領案と共和党案の隔たりは非常に大きく、とりわけ共和党は財源としての法人税増税などに強く反対しています。代わって、共和党は財源として、すでに成立した景気対策の未支出分の流用や、財政支出をコアマネーとした官民パートナーシップなどを提案しているようです。

5月28日にはバイデン大統領が予算教書を発表し、予算案の詳細を提示する予定です。そして、バイデン政権は31日のメモリアルデーに向けて合意を模索する意向です。もっとも、現実的には、超党派で合意できる部分と予算調整法案を用いて民主党だけで成立を目指す部分の見極めがメモリアルデー前後にできるという程度でしょう。

経済政策の緊急性は低下

すでに1.9兆ドルのAmerican Rescue Planが成立して個人給付金などの面で景気をサポートしており、また実際に景気回復基調が強まっています。コロナ対策の行動制限の解除が進むなかで、American Jobs Planや、これから明らかになるミドルクラス支援のAmerican Families Planを早期に実現させる緊急性は低下しているでしょう。

それでも、着々と交渉を進めてそれらを実現させることができるのか、引き続きバイデン大統領の手腕に注目です。