東大専科の授業が本格スタートをして、面白さが深まってきた『ドラゴン桜』(TBS系)。中でも話題なのが、高橋海人さん(King & Prince)の演技である。第4話では高橋さん演じる瀬戸輝が、家庭の事情で東大受験に向けた授業と勉強を中断することに。ただ桜木健二(阿部寛)の計らいによって、勉強は再開。瀬戸くんは吉報を知った瞬間、安堵感からなのか涙が溢れていた。いや演技だから、溢れさせていたのか。

……うっかり、そのシーンで泣いてしまった。

元々、高橋さんの演技だけはずっと注目していたので、このコラムの担当さんに「号泣シーンが本当に良かったので、ここらで高橋さんの役について振り返ってみたい」と執筆を打診。いつもはなかなか首を縦に振らない人が「いいです! やりましょう!!  いつ原稿がいただけますか?」と即答だった。きっと担当さんも『ドラゴン桜』のファンだ。そんな流れから始まった、一人のタレントさんの演技についてつらつらと。

クラスに一人はいそうなダル×チャラ男子高生

高橋さんの演技を巡っていくと思いつくキーワードが3つある。1つが"だるさ"だ。彼の出演作に出会ったのは深夜ドラマ『部活好きじゃなきゃダメですか?』(日本テレビ系 2018年)。

個人的にアイドルであれば「そんなに演技ができなくても……」と思う。そもそも凡人よりも顔のつくりが秀でてこの世に登場してくれたのだから、眼福という意味で感謝状を送りたい。こんな女の下心ありきの考えなので、上記のドラマもデビューしたばかりの新生アイドルくんたちを見ることが目的だった。あとはこの原作が自分の先輩の作っている漫画雑誌であるとか、自分がドラマオタクとか、視聴のきっかけはその程度のもの。

が、その思いを裏切るように高橋さんが演じる西野は良かった。いつも"だるそう"にしていて、同級生のマンガを破いているチャラさもあるのに、運動神経は抜群。もうこの時点でクラスにいたらモテポテンシャルは揃っている。さらに制服の開襟シャツのボタンがやけに多く開いていたのが、"だるさ"を増量させていた。だるい演技は特異的なので難しいし、心に響かせにくいと他の俳優さんから取材で聞いたことがある。でもそのハードルを超えてきた西野役。

翌年放送の『ブラック校則』(日本テレビ系)では、黒髪マッシュルームヘアの月岡中弥役で高校生に。このドラマも深夜放送だったけれど、高橋さんが出るならとレコーダーで予約をした。人前では大人しくしている高校生たちが、納得の行かない校則に立ち向かっていく内容は面白かった。月岡役はちょっと"だるそう"で偏屈っぽい。でも放送回中盤のシーンでニヤリとさせられる。

その時、アラフォーの心は高橋に揺らされた それが田母神先生(成美璃子)への告白シーンだった。

月岡「教師と生徒の恋愛って……どう思う?」 田母神「いいわけないでしょう」 月岡「オレ、先生のこと好きだよ」

確かこんなセリフで田母神先生は教壇に、月岡は生徒席に座っていた。こういうシチュエーションはテレビドラマにおける大醍醐味だと信じて疑わない。完全にニヤリとしてしまった。しかも告白をする高橋さんの演技がひどく自然体だったので、彼を語りたいキーワードに"年上キラー"が加わった。

そして『姉ちゃんの恋人』(関西テレビ・フジテレビ系 2020年)では、姉ちゃんを支える弟・安達和輝役。バイトをしながら両親のいない家族を支える立場でもある、純度の高そうな大学生だった。ここで姉ちゃんの幼なじみである浜野みゆき(奈緒)に恋をして、天真爛漫なまま告白をして、年上女性のハートを奪う。和輝くんは大きな瞳を見開きながら、ストレートに自分の思いをたびたび伝えてくる。そのシーンが放送されるたびに、無邪気という言葉の罪深さを教えてもらった。

そして現在放送中の『ドラゴン桜』へと高橋さんの演技は続く。この作品の瀬戸役でも、両親の残した借金に苦しむ姉ちゃんをまた支えている。初回放送から不良学生と絡んでいて、黒幕を匂わせるシーンもあったけれど、瀬戸くんは東大専科に戻った。

冒頭で書いた号泣シーンを見ていて思ったのは"機微"の表現。3つのキーワードが"だるさ""年上キラー"ときて、"機微"だとなんのオチもないけれど、第4話で見せられた涙にはそんな言葉が潜んでいた。

一見、分かりやすそうに感じられる10代の感情の揺れ。学校という組織の中に収まっていると、一派一括りになってしまう。でも実は10代の感情とはすごく繊細だ。琴線なんてどこに存在するのかわからない。その揺れる感情の隙間を縫ってくるような高橋さんの演技は、本当に良かった。ネットニュースやSNSのトレンドが騒つくのも理解できる。

こうして出演作を並べてみると、デビュー年から毎年コンスタントにドラマ出演を重ねている高橋さん。まだ22歳。敢えて"天賦"と呼びたい演技で、また色々な表情を見せてくれるのだろう。願わくば、『姉ちゃんの恋人』のような、年上彼女の口の端についたクリームを、ぺろっと舐めちゃうあざとさ全開で、年上女性×年下男性の恋愛模様を描いてほしい。まだ社内恋愛とかペットとか、恋愛シチュエーションは数多あるので、ぜひ……。