パナソニック サイクルテックは5月21日、街乗りタイプの電動アシスト自転車「ViVi(ビビ)」の新モデルとして、「ビビ・L・押し歩き(品番:BE-ELLW63)」を発表しました。名称の通り「押し歩き」に特化した機能に注目です。

今回、筆者も実際に「押し歩き」機能を体験しましたが、とにかく便利。BE-ELLW63の詳細と体験レポートをお届けします。BE-ELLW63の発売日は7月6日、メーカー希望小売価格は129,000円です。

  • BE-ELLW63の本体サイズは全長1,865×全幅580mm、タイヤサイズは26インチ、本体カラーはチョコブラウン、変速機は内装3段シフト。ショッピングタイプの街乗り自転車としては標準的なスペックです

  • ビビシリーズは、パナソニックのラインナップでは定番の街乗りタイプ電動アシスト自転車。普及価格帯の製品ですが、大きなカゴや乗り降りしやすい低床アルミフレームなど、使いやすいデザインで人気があります。新モデル「ビビ・L・押し歩き」の「L」は「Light(軽量)」の意味。本体の重さは街乗りタイプとしては比較的軽量な24kgで、駐輪時などの取り扱いがしやすいのもポイントです

電動アシスト自転車の弱点は「自重」

コロナ禍の現在、密な通勤や通学を避けるために自転車での移動を選ぶ人が増えています。パナソニックの電動アシスト自転車も、通勤・通学モデルは前年度比124%、小径・ファッションモデルは前年比127%と伸びています。

電動アシスト自転車は、体力がなくても坂道をラクに登れて便利ですが、車体が重いというデメリットも。パナソニックによると、電動アシスト自転車はモーターやバッテリーを内蔵するために、一般的な自転車よりも7kgほど重くなるそう。この車体の重さがとくに問題となるのが、「自転車から降りて、車体を押し歩き」する場面です。

  • 「押し歩き」機能をオフにして、歩道橋のスロープを押し歩いているところ。両手に自転車の重さがかかるので、姿勢を低くしてなんとか登っています。筆者も試してみましたが、短い距離でもかなりの負担です。都会ではこういった「自転車から降りて押し歩きしなければならないエリア」がいたるところにあります

日本ではなぜ「押し歩き」機能がなかった?

「電動アシスト自転車の押し歩きをなんとかして欲しい」という声は世界中であり、欧州ではすでに押し歩きを補助する機能を持つ電動アシスト自転車が普及しています。日本では法律の問題で、いままでこの機能が実装されることはありませんでした。

日本における電動アシスト自転車とは、運転者がペダルを踏み込むパワーを「増幅」する自転車のこと。一方、押し歩き時はペダルを漕げないため、自転車がいわば自走する必要があります。自走する自転車は「アシスト自転車」ではなく「ペダル付きの電動バイク」に分類されるため、公道を走るにはナンバーの取得が必要なのです。

ところが、2019年12月1日に改正道路交通法が施行され、一定の要件を満たすことによって、押し歩きを補助する自転車も「歩行補助車等」として認められるようになりました。歩行補助車等として認定されれば、ナンバーは必要ありません。

一定の要件とは、
1)移動速度が時速6km以下であること
2)自転車から離れると駆動が停止すること
3)乗車装置(サドル)が使えない、乗れないこと
という3つ。

今回のBE-ELLW63は、ユーザーが自転車に乗ってペダルを漕いでいるときは「電動アシスト自転車」として走行。自転車から降りて押し歩きをするときは、上記の3つの要件を満たすことで「歩行補助車」となる位置付けです。

【動画】スタンドを立てた状態で押し歩き機能を有効にしてみたところ。ペダルを漕いでいない状態で後輪が回転しています

3つの要件を満たすためのさまざまな仕組み

筆者も「押し歩き」機能を体験してみました。押し歩きをするには、最初にサドル後ろにあるレバーを引きながら、サドルをしっかりと前傾させます。これで「押歩き」ボタンのロックが解除。あとは「押歩き」ボタンを押している間だけ、後輪が電動で回ります。

  • サドル後方下のレバーを押しながら、サドルを上方向に傾けます。サドルを前方向へおt極端に傾斜させることで、歩行補助車の要件のひとつ「乗車装置(サドル)が使えない、乗れないこと」を満たします

  • 写真左は傾斜前、右が傾斜させた後のサドル

  • サドルが充分に傾くと安全ロックが解除され、操作パネルの「押歩き」ボタンが赤く点灯。ボタンを押している間だけ後輪が自動で回る(アシスト)する仕組みです。ボタンを放すと後輪の回転が停止するため、歩行補助車の要件のひとつ「自転車から離れると駆動が停止すること」を満たします。「押歩き」ボタンは、ハンドルを握っていても自然と親指が届く位置

筆者も歩道橋の自転車用スロープを使って押し歩きをしましたが、急な登り坂でも驚くほど軽い力で移動できます。自転車を支える程度の力で自転車がスイスイと登っていくので、ちょっと楽しくなりました。

【動画】押し歩き機能を有効にして、歩道橋の急な角度のスロープを登ったところ。カゴには4kgの水も入っていますが、自転車本体や荷物の重さはほとんど手に伝わってきません

BE-ELLW63は登り坂の負荷や人が歩く速度などに合わせてアシストパワーを調整するため、アシストスタート直後や歩くスピードを変えた直後は、アシスト力が一瞬安定しないタイミングもありました。自分が自転車を動かす力とアシストパワーのバランスが合わず、指が「押歩き」ボタンから外れてアシストが切れてしまうことも。とはいえ、このあたりは何度か使っていれば身体が慣れて、うまく対応できるようになると思います。

  • 押し歩く人のスピードを検知する「スピードセンサー」などを搭載し、人の歩く速さに合わせてモーターを制御。「時速6km以下」とはいえ、自転車にグイグイ引っ張られることはありません。あくまで自転車を人力で押すときの補助です

また、細かいところですが見逃せないポイントとして、左側のペダルだけに重りを内蔵していること。押し歩き時は重りの力で左ペダルが下側に固定され、ペダルが不用意にクルクルと回りません。自転車を押して歩いているとペダルが回転してスネにぶつかる……といった、よくある問題を解決してくれます。

  • 左側のペダルに重りが入っており、ペダルに足をかけていない間は、かならず左ペダルが下側にくるように配慮されています

安全面の機能としては、押し歩き時はサドルが極端に前傾していますが、無理に座るとサドルが元の角度に戻って押し歩き機能をカット。ペダルに足を乗せても押し歩き機能が無効となり、後輪が自動で回転している状態では自転車に乗れないように工夫しています。

押し歩き機能は今後のスタンダードになりそうな予感

筆者も毎日の買い物や近所の移動に電動アシスト自転車を活用していますが、自転車走行禁止の公園や商店街のアーケード、立体駐輪場のスロープなど、街では意外と自転車を押し歩きする機会が多いことに気付きます。一般的な街乗り用の電動アシスト自転車は20~30kgと重いため、とにかくこの押し歩きがストレスでした。筆者は15kgのお米を自転車に載せて押し歩きしたとき、自転車の重さに耐えきれず転んでしまったこともあります。

今回、BE-ELLW63の押し歩き機能を体験してみて、重い荷物を載せた状態でも軽い力で押し歩けることには本当に驚きました。これまでの電動アシスト自転車にはなかった機能なので、この便利さを表現するのは難しいのですが、電動アシスト自転車に乗っているとアシスト非搭載の自転車に戻れないのと同じような感覚です。

パナソニックは、歩行補助車として電動アシスト自転車(BE-ELLW63)に押し歩き機能を実装しましたが、使ってみると本当に便利。将来的にはメーカーを問わず「押し歩き機能」が電動アシスト自転車のスタンダードな機能になるかもしれません。

【動画】押し歩き機能を紹介するパナソニックの公式動画。押し歩き機能の有り・無しの違いがわかりやすく伝わります
(音声が流れます。ご注意ください)