「うどん県」といえば、もちろん香川県だ。"讃岐うどん"というワードはもはや日本中で知られており、街で見かける有名うどんチェーンなどは猫も杓子も讃岐、讃岐、讃岐……。

それだけ讃岐うどんが美味いということなのだろうだが、かと言って、他のうどんが讃岐うどんに劣っているかといえば、決してそんなこともない。食の好みは人それぞれだし、讃岐以外のうどんをもっと深堀りすれば、もっと自分好みのうどんが見つかるかもしれない。

筆者は断然、"武蔵野うどん"派である。讃岐うどんも好きだが、武蔵野うどんはとにかく食べごたえがあって美味しく、食欲をしっかりと満たしてくれるのだ。食欲旺盛な若人にこそ、ぜひとも試してもらいたい逸品である。

香川に次いで2位!? 埼玉県は実はうどん大国だった!

香川ばかりが注目されるが、実はうどんが美味しい地域は他にもたくさんある。あまり知られていないが、香川に次ぐうどん生産量の全国第2位は意外にも埼玉県で、県内には加須うどんや熊谷うどんなど、20種類以上ものうどんが存在するという。

埼玉=うどんのイメージをもっと県外にも普及させるべく、埼玉県は県を上げてPR活動に力を入れている。そのおかげで、近年では徐々に知名度も上がりつつあるようだ。

例えば昨年は「マツコの知らない世界」(TBS)が埼玉のうどんを取り上げ、番組内で"埼玉県を日本一のうどん県にする会"の会長がその魅力を語って反響を呼んだ。また、今年1月に放送された「秘密のケンミンSHOW!」(日本テレビ)でも埼玉のうどんが紹介され、埼玉=うどんのイメージを世に知らしめたばかり。

全国区で見ればまだ讃岐ほどメジャーではないが、県民の間では埼玉=うどんという認識も浸透。埼玉の熱心なうどん好きたちは、今も"うどん生産量 日本一"の座を虎視眈々と狙っている。

中でも武蔵野うどんは個性的で伝統的な実力派

さまざまな種類のうどんを抱える埼玉県だが、なかでも"武蔵野うどん"はテレビでもたびたび取り上げられるなど、高い注目度を誇っている。

武蔵野うどんは、東京多摩地域から埼玉西部にかけて広がる武蔵野台地周辺で、古くから食べられてきた郷土料理だ。近くに大きな河川がなく、米作に必要な水源が確保できなかったことから、麦中心の農業地帯として発展し、結果としてうどんが普及したとされている。

その特徴は、太くて食べごたえのある低加水麺と、出汁が効いた甘みのあるつけ汁。特に代表的なメニューが「肉汁うどん」で、つけ汁には豚肉やネギなどの具材がたっぷり入っており、一種のジャンクフード感さえ味わえる。

濃いめの味付けとガツンとした食べごたえがヤミツキになる、珍しいうどん。それが武蔵野うどんなのだ。

肉つけ汁うどんをチェーン展開する「久兵衛屋」で実食!

さて、その本格的な武蔵野うどんを味わえるとして人気なのが、埼玉県を中心にチェーン展開する「久兵衛屋」である。武蔵野うどんの代表的メニュー「肉つけ汁うどん」が味わえるチェーンとしては貴重な存在だ。

これまで筆者も何度か訪れたことがあるが、考えてみれば、つい期間限定メニューばかり頼んでしまっていたような気がする。今回、改めて王道の看板メニューである肉つけ汁うどんを実食してきたので、ここでご紹介したい。

こちらが久兵衛屋の「肉つけ汁うどん」(649円)である。このツヤツヤの太麺……とても美味しそうだ。さっそくいただこう。

まず、うどんの弾力は強く、とても歯ごたえがある。白髪ねぎや油揚げなどの具材も自然と混じっているため、つけ汁の味がしっかりと絡みついてくる。のどごしも良くて、とても美味しい。ちなみに、うどんは久兵衛屋が独自でブレンドした小麦を使用した、打ちたての麺だそうだ。

つけ汁はやや濃いめで甘みがあり、出汁の風味がとても豊か。つけ汁は具だくさんで、肉やネギ、油あげなどがゴロゴロ入っていて食べごたえがある。やや塩っぱめの醤油味がクセになりそうだ。出汁に使用しているのは利尻昆布と5種の魚で、毎日店舗で出汁をとっているらしい。このこだわりようでチェーン展開をするとは、かなりの企業努力が感じられる。

うどん、つけ汁、そして肉。この三位一体のバランスが実に優れている。うどんといえばさっぱり食べられるというイメージもあるが、久兵衛屋の場合は、家系ラーメンや二郎系ラーメンなどに代表される"こってりしたものをガッツリ食べたい欲"もしっかりと満たしてくれる。

それでいて、出汁は基本的に海の幸からとっているので、ガツンとした味わいは楽しめつつも食べ終わりは割とさっぱりしているのだ。久兵衛屋ではうどんの量を選べるが「大盛」「特盛」よりさらに多い「メガ盛」をドカ食いでもしない限り胃もたれもしそうにないので、老若男女を問わずに安心して食べられるだろう。

これは余談になるが、サイドメニューも魅力的で、なんと「天ぷら6種盛り」が429円という太っ腹ぶり。つい我慢できず注文してしまったが、これがまた大正解だった。

大きなエビにイカ、オクラ、ナスなど、どれをとってもクオリティは十分。天ぷらもひとつずつ店舗で衣をつけて揚げているようで、言わずもがな、うどんとの相性もばっちり。肉つけ汁うどんの並盛と合計して1000円ちょっとだから、かなりコストパフォーマンスは高い。

個性的ながら伝統的な郷土料理でもある武蔵野うどん。讃岐うどん一強の時代に割って入り、天下を二分する……のはもう少し先かもしれないが、うどんにも地域ごとに特徴があり、それぞれまったく違った個性があることを知れば、これまで以上にうどんが楽しめるようになりそうだ。