コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場するなか、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すればよいだろうか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。

本稿では、元日本マイクロソフト 業務執行役員であり、現在は圓窓の代表取締役として活躍する澤円氏にインタビューを行った。プレゼンテーションのスペシャリストとして「マイクロソフト伝説マネジャーの世界NO.1プレゼン術」なども執筆しており、その人気は高い。これからのビジネスシーンで大切になることは何か、同氏の考えを聞いていこう。

■澤氏が「コロナ禍は25年ぶりのリセットボタン」と語る理由とは? 前編はこちら

  • 圓窓 代表取締役CEO 澤円氏 (c) 在本彌生 (Yayoi Arimoto)

ビジネスを行う上でもっとも大事なこと

「ビジネス全体を粗く俯瞰して見たときにもっとも大事なのは、"すべてのビジネスは社会貢献"という点です」

コロナ禍を経て、ビジネスシーンは大きく揺れ動いている。多くの企業やビジネスパーソンは、新たな時代を生きていくための方法を探っていることだろう。だが澤氏は「方法論よりも本質をしっかりと見直してほしい」と話す。

「自分の所属している企業がどのような形で社会貢献するために存在しているのか。これを説明できる状態になっていなければいけません。『あなたの会社はなんのために存在しているんですか?』と聞かれて、言い淀んでいるようではダメです。これは会社のビジョンでちゃんと語られているはずですから、まずはそれを理解しておきましょう」

プレーヤーとして心がけたいこと

その上で、ビジネスパーソンが1人のプレーヤーとして心がけたほうが良いことを、澤氏は次のように伝える。

「プレーヤーは『自分のコントロールできる領域において、どのようにしてパフォーマンスを発揮できるか』ということについて考える必要があります。『私の仕事はこれであり、このようにして達成度を測ることができる』という物差しを持ちましょう。これを理解していないと『頑張ってるんです!』というよくわからない説明をしてしまうことになります。もちろん、売り上げという物差しがある営業などはわかりやすいですが、その結論に至るまでのプロセスも大事です」

澤氏はその具体例として「何月までにいくらの売り上げを達成するために、私はこの5日間で3回お客様に電話をし、そのうち2回は決裁権限を持つ人とか会話ができ、そしてポジティブな反応を得られた」という一文を挙げる。たしかに達成度が非常にわかりやすい。

「説明というのはこういうことです。プロセスも含めて、測れるもので結果を述べる。経理も人事も全部そうです。どのような時間を使い、どのような効果を発揮したのかを説明できる状態になりましょう。これがプレーヤーの立場にとって大事なことです」

マネージャーが心がけたいこと

さらに澤氏は、企業とプレーヤーの中間であるマネージャーの心がけについて語る。

「マネージャーの仕事は、プレーヤーが上記のように働ける場を作ることです。個々の人たちがパフォーマンスを発揮する働き方に集中できるよう、邪魔なものを取り除いておかなくてはなりません。仕事の結果を測れる物差しを定義しておくことこそ、マネージャーの役割なんです。しかし、ジョブ・ディスクリプション(職務内容を詳しく記述した文書)が存在していない日本の企業があまりにも多すぎます」

「日本では何をもって仕事をしたと見なすか、マネージャーもプレーヤーもわかっていない状態が多い」と澤氏は嘆く。オンラインで仕事をしているいまだからこそ、企業とマネージャーは仕事の結果を測れる物差しを作らなくてはならない。そして、物差しが存在しない会社に勤める若手に向けて、次のようにアドバイスする。

「『自分の会社にはそんな物差しが存在しない』と感じる若手の方は、自分でたたき台を作ってみてください。『私の仕事ぶりはこのように評価してもらえるとうれしいのですが、受け入れてもらえますか?』と提示したら、マネージャーは"YES"か"NO"を返さなくてはなりません。そして、もし"NO"と返ってきたら『では、あなたの考える物差しを数字で表せるようにしてください。そうでないと、頑張りようがありません』と詰め寄ってほしいんです」

兵士にとって最もキツい訓練は、ゴール地点も終了時間も知らされずに「走れ!」という命令だけで走らされることだという。これはスピードもペース配分も目的地もわからないからで、体力よりも心が大きく消耗するのだそうだ。結果の物差しが存在しない会社は、まさに従業員にこれを強いている状態といえる。

「日本で長時間労働が蔓延る原因はここにあります。物差しがわからないから、『とりあえず上司の前で長時間働くところを見せよう』というマインドになってしまうのです」

  • 澤氏は、結果を測れる物差しがないことが長時間労働の原因と分析する  (c)在本彌生 (Yayoi Arimoto)

ベストなパフォーマンスを出すためにしたいこと

多くのビジネスパーソンは、変化した働き方のなかでどのようにパフォーマンスを発揮していけば良いか悩み、さらにコミュニケーションスキルやマネジメントスキルについても考えを巡らせているだろう。これに対し澤氏は「大事なのはマインドセット、心の持ちようです」と述べた。

「ここまでの話にも通じますが、『自分のコントロールできる領域はどこなのか』をきちんと定義し、コントロールできる部分に集中してアクションを取りましょう。この状態において、プレーヤーにとって大事なことは『自分がベストなパフォーマンスを出すためにはどうしたら良いのかを考える』、マネージャーにとっては『自分のチームがベストなパフォーマンスを出すためにはどうすれば良いのかをデザインする』ことです」

このベストなパフォーマンスのために、やる気やモチベーションを上げよう考える人は多いだろう。だが澤氏は「やる気やモチベーションは仕事と関係ありません」とバッサリ切り捨てる。

「『やる気があれば仕事の結果が出る』という相関関係は、実はまったくありません。大事なのは、能力を発揮できる場所に身を置いているかどうかです。いかにやる気があふれたピッチャーでも、4番打者に指名したら結果を出せるわけがないんです。プレーヤーは、自分が何が得意かを把握し、その強みを活かせるポジションに着けるよう言語化することが大切です。そしてマネージャーは、部下が強みを活かせるポジションに付けるよう摺り合わせをしなくてはなりません。こういった話がコミュニケーションスキル、マネジメントスキルにつながっていくわけです」

若手ビジネスパーソンに贈るアリストテレスの三原則

このコロナ禍で変化した社会で一からキャリアを築いていかなければならない若いビジネスパーソン。澤氏はそんな若手に向けて、古代ギリシャの哲学者・アリストテレスが語った「人を説得するための三原則」をもとにしたメッセージを贈る。

「まずは『ロゴス(論理)』。ロジックがゼロで良いわけではありませんが、ロジックが正しいから誰もが動くと考えるのは間違いだということです。正しいことは人によって全然定義が違うからです。若い人たちには、『何が正しいのかというロジックの部分だけに目を向けなくてもいい』と伝えたいと思います」

「続いて『エトス(倫理)』。倫理的に正しいというのは、道徳的に人の道を外れていないということです。『売り上げが足りないからゼロ一個足したれ!』なんていうのはダメですよね。『嘘やごまかしをせずに、できなかったらできないと言えばいいし、うまくいかなかったら助けてといえばいい』、そして『困っている人がいたら助けましょう』という話です」

「そして『パトス(情熱)』。情熱はすごく大事です。『打ち込みたいことを言葉にしてアウトプットしていきましょう』という話ですね。情熱を持つためには、まず『私はどうありたいのか』を自分に問いかける必要があります。会社から与えられたポジションに就くのは良いのですが、『そのなかでどうあれば、自分のありたいままでいられるか』を考えてほしいですね。そうすればハッピーになれますし、結果にもつながると思います」

"ソ"のあたりで挨拶を

さらに「コツという言葉は好きではないのですが……」と前置きしつつも、若手に対して具体的なアクションをアドバイスする。

「ドレミファソラシド、の"ソ"のあたりで挨拶をすると心がけるだけで、運は結構巡ってきます。試しに自分のなかで"ソ"をイメージして、実際に声に出してみてください」と澤氏。

「思いのほか音程が高いですよね? それが元気の良い挨拶のトーンです。これが"ファ"くらいだとちょっと暗くて、"ラ"以上だと明るくなりすぎです。"ソ"くらいの高さで挨拶をすれば自分を鼓舞できるし、相手も良い気分になります。若手が元気に『おはようございます!』『おつかれさまです!』と挨拶すれば、周りに元気を与えられるんです。そして失敗したときも同じように『ごめんなさい!』と謝罪すれば、勢いで相手は折れるはず。オンラインでは聞き取りやすさにもつながりますので、ぜひ試してほしいと思います」

■澤氏が「コロナ禍は25年ぶりのリセットボタン」と語る理由とは? 前編はこちら