アップルの液晶一体型デスクトップPC「iMac」がフルモデルチェンジしました。明るい7色のカラーをまとった薄型デザインが目を引きますが、MacBook Airなどで高い評価を得たアップル独自のM1チップや大きなディスプレイがもたらす快適な使い勝手、ZoomなどのWeb会議で自分を健康的に映し出せるカメラの搭載など、自宅での仕事や趣味がはかどる改良が随所に施されています。日本では、持ち歩きを前提としない家庭での据え置き利用でもノートPCを選ぶ傾向がありますが、その流れを変える可能性のある製品だと感じました。
圧倒的なスリムボディー、側面や背面からの姿にほれぼれ
iMacを手にして最初に心が躍ったのが、パッケージを開封した時に現れる仕掛けでした。パッケージを床に寝かせた状態で上蓋を開けると、段ボールだけでできた緩衝材が目に入り、記載された矢印にしたがって側面の段ボールを左右に押し開くとiMac本体がサッと取り出せるギミックになっていました。さらに、iMac全体を覆う不織布のカバーを取り去ると、画面保護シートには「hello.」の文字が現れ、「新しいiMacを買ったんだ!」と思わず気持ちが華やぎました。
デスクに設置したiMacは、予想以上にスリムでした。特に気に入ったのが、前面よりも濃い色で彩られた側面と背面からの眺め。背面は中央部が不格好に膨らむことなく、吸気口などの目障りな造形もなく、どこまでもフラットで薄く仕上げられており、「自宅にぜひ置きたい」と感じさせる仕上がりです。
デスクにそれぞれ向かい合ってパソコンで作業する際、向かい合う人にはパソコンの背面が視界に入りますが、薄汚れたディスプレイの背面パネルやゴチャゴチャとしたケーブルがずっと見えるのはげんなりするもの。新しいiMacは、iMacを使っている人には見えない鮮やかで美しい背面パネルが目に入るので、思わず華やかな気分になります。家庭はもちろん、オフィスに導入するのもよいと感じました。
ディスプレイの調整機構はチルト機構のみで、高さの調整機構を持たないのは従来通りです。ディスプレイは手前方向にもわずかにチルトするので、天井の照明が明るい場合も気になる映り込みを抑えられます。本体が軽く、iMac自体を左右に振って見やすい角度に調整するのは簡単です。
アップルらしい細やかさが現れているのが、付属のMagic KeyboardやMagic Mouse、Magic Trackpad、Lightiningケーブル、電源ケーブルなどが本体と同じカラーで揃えられていること(Magic Trackpadはオプション)。今回試用したピンクモデルは、いずれもスタンド部と同じ淡いピンクで統一され、気分が華やぎます。Lightningケーブルなどは外装が編み込み式になり、耐久性が大幅に向上しました。
大画面はやはり快適、前面カメラの高画質にも注目
4480×2520ドットの表示に対応した24インチの4.5K Retinaディスプレイは、ふだんMacBook AirやMacBook Proなど13インチクラスのディスプレイを使い慣れていると、大きさと画面の広さに驚きます。複数のウインドウを開いての作業が快適にできるMacならではの長所が生かせるのはもちろん、ZoomなどのWeb会議ソフトを用いた授業や講義に参加する際もスライドなどの資料をしっかりと確認できます。広色域仕様なので、デジカメ写真の現像やレタッチも不満なくできます。
新たに搭載したM1チップのパフォーマンスは、すでにMacBook AirやMacBook Pro、Mac miniで高く評価されている通りで、さまざまなソフトが快適に利用できました。内部には冷却ファンを搭載していますが、RAW現像など負荷の高い処理を連続で実行しても、耳障りなファンの風切り音はまったく聞こえませんでした。
装備で注目したいのが、アップルが「Mac史上最高のカメラ」とうたう前面のFaceTime HDカメラの改良です。従来よりも大きなセンサーを搭載したほか、M1チップが搭載するISPの高度な処理でノイズ低減やホワイトバランス調整などを実行し、光が少ない状況でもノイズを抑えてきれいに映るようにしています。つまり、iPhoneのカメラと同様の複雑な画像処理で高画質化を図っているわけです。
一連の処理では、人物の顔を検出する機能が組み込まれており、人物を好ましい印象に仕上げることに重点が置かれているとみられます。実際に、薄暗い状況や異なる光源が混ざる状況など、多くのWebカメラが苦手とする意地悪なシーンで映りをチェックしてみましたが、どのような状況でも人物の肌の色を健康的に仕上げつつ、精細かつコントラスト高く映し出してくれました。Web会議の際も、相手に好ましい印象を与えられる点で好ましいと感じます。
内蔵マイクも、スタジオ品質の3マイク式に改良されました。上部に2つ、背面に1つのマイクを内蔵し、背面のマイクは周囲の騒音を検出して低減するために使われます。実際に試してみましたが、iMacの前に座った人の声がよりクリアに感じました。前述のFaceTime HDカメラと合わせ、今の時代に求められる改良として評価できます。
キーボードは、新たに右上にTouch IDを搭載したMagic Keyboardに一新し、面倒なパスワード入力の必要なくログインできるようになりました(下位モデルの付属キーボードはTouch IDなし)。プロフィールを作っておけば、1台のiMacを家族で共用するのもTouch IDの指紋認証でスマートにできます。
注意したいのが、接続端子がThunderbolt 3(USB Type-C)端子のみになり、従来のiMacにあった一般的なUSB端子やSDカードスロットは用意されないこと。従来モデルからの買い替えで使い慣れた周辺機器を引き続き利用したい場合は、さまざまな端子を増設できるUSB Type-Cハブを導入するのがよいでしょう。Thunderbolt 3端子が比較的高い位置にあるため、ハブ側のUSB Type-Cケーブルは15cm以上あるものがベターといえます。
価格は若干高めだが、持ち運ぶ必要がないなら断然オススメ
新しいiMacで唯一気になるのが価格です。もっとも安いモデルは154,800円で購入できますが、ストレージが256GBと最小限にとどまるのが欠点。512GBへの変更も+22,000円とちょっとお高め。115,280円からの低価格で購入できるMacBook Airと比べると、価格面でのインパクトは弱いと感じます。
とはいえ、MacBookシリーズにはない大画面がもたらす使い勝手のよさや、人に見せたくなる美しいスリムデザイン、テレワーク時代を見据えたFaceTime HDカメラやマイクの改良など、魅力的なポイントは多く存在します。M1チップにネイティブで対応するユニバーサルアプリもどんどん増えていくのは間違いなく、将来性も文句ありません。
日本では、パソコンを持ち運んで使う必要がないのに「省スペースだしなんとなくいいかな」と盲目的にノート型を選ぶ傾向があります。しかし、使い勝手は圧倒的にiMacが優れます。「家じゅうどこでも使える」役割はiPadやiPhoneに任せ、パソコンは大画面のメリットを引き出せるiMacを選んでみるのもよいでしょう。