毎日たくさんのものを食べ、たくさんのものに触れながら生活を送るわたしたちは、どうしても不必要なものを体のなかに取り込んでしまいます。なかには健康によくない影響を与える毒素もあり、それらがいつしか体を蝕んでいくことも—。
管理栄養士で分子栄養学を専門とする篠塚明日香さんは、「毒素は代謝に悪影響を与えるもの。太りやすくなったり、肌荒れがひどくなったりするのは、その排出がうまくいっていない可能性がある」と指摘します。そんな篠塚さんに、毒素の排出を促す食生活のヒントを聞きました。
■毒素がもたらす体への悪影響
体内にためこんでいる毒素を外に出すことを「デトックス」と表現しますが、その概念は古くから東洋医学の世界にもあり、春に行うものとされています。
その背景には、冬と比べて春は体の代謝が活発になることや、春に収穫できる野菜に毒素の排出に効果的なものが多いことなどがあるようです。かつての冬の暮らしは現代よりも寒く厳しかったでしょうし、季節を問わずいろいろな野菜が出回っていませんでしたから、そういう意識が強かったのかもしれませんね。
現代に暮らすわたしたちとってのデトックスは、どの季節でも取り組めるものですが、先人にならって穏やかな気候である春を「体にたまった毒素」を出す季節と考えてみるものいいと思います。
「毒素」と一言で括るとなんとなく漠然としていますが、健康を考えたときにまず取り除きたいのは、水銀やカドミウムなどの有害ミネラルとも呼ばれる重金属類。それから、農薬などに含まれる化学物質です。
そうしたものが体内にあると聞くと、少し怖い感じもしますが、この現代社会で生きるうえで体内に入るのをシャットアウトすることは難しいのです。体内の毒素を体外に出す役割も担っている毛髪の検査を行うと、水銀やカドミウムなどが必ず検出されます。
毒素が体内に入る際の主な経路となっている食品は、魚介類のような自然介の食品を除き、国などが定めた基準値のもとで管理され、体に害のないとされる量にコントロールされています。それでも、うまく排出していけないと体内に蓄積してしまうこともあるというわけです。
毒素は食品を経由して体内に取り込まれることが多いのですが、水銀やアルミニウムなどは、ワクチンの防腐剤としても使われていて、投与をきっかけに体に入ってくることもあります。
また、虫歯予防の歯をコーティングする薬などに入っているフッ素も、やはり塗布することで体内に取り込まれます。フッ素はフライパンの焦げ付き防止加工にも使われているので、調理時に体に入る可能性も。細かく気にし過ぎるのもよくありませんが、どういう場面で毒素を取り込んでしまうリスクがあるのかを知っておくだけでも意味があるでしょう。
基準を設けてしっかりと管理されている毒素は、体内に入ってきたとしても微量ですから、それで健康が劇的に悪化することはそうそうありません。しかし、体質的に解毒力が弱い場合や、蓄積された状態が長期にわたって続くことで、ゆっくりと時間をかけて悪い影響をもたらします。
毒素は全身の代謝に影響を与えることが多く、太りやすくなったり、肌荒れやニキビが治らなくなったりするトラブルを起こすことがあるようです。毒素がそうしたトラブルを起こすメカニズムはいろいろあるのですが、フッ素を例にとると、細胞内でエネルギーをつくっている小器官のミトコンドリアに影響を与え、それが代謝不良につながると考えられてます。
■毒素の「解毒」や「排出」に効果のある野菜
さて、体のなかに蓄積していく毒素に対し、食を通してどんな対策ができるのでしょうか。わたしがおすすめしたいのは、アブラナ科とユリ科の野菜を積極的に摂ることです。アブラナ科の野菜にはキャベツ、大根、ブロッコリー、クレソン、小松菜などが含まれます。ユリ科の野菜には、たまねぎ、にんにく、らっきょうなどがあります。
アブラナ科の野菜にはスルフォラファンやイソチオシアネート、ユリ科の野菜には硫化アリルといった成分が含まれていて、これらが解毒の主役となる抗酸化物質を増やしたり、毒素と結合して体の外に排出したりする働きを担います。
なお、多忙な人の場合だとサプリメントを使って野菜に含まれるビタミンやミネラルを補うことも多いと思います。でも、アブラナ科とユリ科の野菜が持っている解毒を促進したり毒素を排出したりする効果は、サプリメントだけでは代替できません。積極的にデトックスをしたい人は、実際に野菜もしっかり食べるようにしてください。
<新玉ねぎのもずく酢>(ふたり分)
(材料)
・もずく(味なし) 100g
・新玉ねぎ 1/4個
・ミニトマト 2~3個
(調味液)
・酢 大さじ2
・醤油 大さじ2
・だし汁 大さじ1(白だしでも可)
つくり方
1玉ねぎは薄くスライスし、ミニトマトは半分にカットする
2材料を盛り付け、混ぜ合わせた調味液をかけて完成
玉ねぎの解毒効果に加え、もずくが腸内環境を整えてくれます。
■便秘解消こそ最強のデトックスになる!
デトックスにおいて大事なもうひとつのアプローチが、しっかりと排便することです。先に紹介した、アブラナ科やユリ科の野菜に含まれる成分を毒素と結合させて排出させるというデトックスにおいても、最終的には便として体外に出します。
ですから、重度の便秘で長い時間便が腸内にある状態が続くと、一度便になった毒素がもう一度体内に戻ってしまうことがあるわけです。便通をよくして毒素が体内に戻る時間を与えず体外に出していくことは、すべてのデトックスの基本となります。
便秘の解消策は、なによりも腸内環境をよくすることに尽きます。積極的に食べてほしいのは、コンニャク、山芋、オクラ、押し麦、もち麦、もずく、めかぶといったネバネバ食材。これらの食べ物には水溶性食物繊維が含まれて、腸内環境を整えてくれる腸内細菌の餌になるだけでなく、その粘り気で腸内のいろいろなものを吸着する効果があることから、毒素の吸着、便としての排出も期待できます。
近年よく聞くようになった「リーキーガット」と呼ばれる状態にも注意したいところです。リーキーガットは腸の細胞が緩み、そのあいだから腸内の物質が漏れる症状です。これが起きていると、便に含まれる毒素が再び体内に入り込む割合が増えてしまうのです。
リーキーガットは小麦の摂り過ぎや腸内環境の悪化が原因で起こるといわれていますので、毒素の排出を阻むものとして知っておきましょう。
毒素がもたらす体調不調は、その多くが慢性的で明確なものではないため、意識してデトックスに取り組むきっかけが摑みにくいところがあります。しかし、健康診断の結果では指摘がないのに、なんとなく体調が悪いという人はわたしのクライアントにも増えています。そんな人こそ、デトックスに取り組んでみるのは一案だと思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/秋山健一郎 写真/櫻井健司