日本語には勘違いしやすい表現も多く、間違った意味を正しいと思い込んでしまうことがあります。「あくどい」も勘違いしやすい言葉のひとつです。
この記事ではあくどいの正しい意味と使い方、また間違いやすい表現について詳しくご紹介します。
あくどいの正しい意味や使い方
あくどいの正しい意味について、「ことばの総泉挙/ デジタル大辞泉」では何と51%の人が不正解 (2021年4月時点)という結果が。多くの人が勘違いしているあくどいの正しい意味と用法についてみていきましょう。
「あくどい」は「悪どい」ではない!
あくどいは、「程度を超えてどぎつい、やり方がいきすぎてたちが悪い」「色や味がしつこい」という意味で、ものごとが度を超えて不愉快な場合に使います。
悪い状態を意味する言葉なため、卑怯なことを意味する言葉と誤解しがちです。またパソコンやスマホなどで「あくどい」と入力すると「悪どい」と変換されることがありますが、これは間違いです。
あくどいの「あく」は食べものの「灰汁」
あくどいの「あく」は、「悪」ではなく、食品の渋みやえぐみなどのもとになる灰汁(あく)からきています。不快なことを意味する言葉として使われるうちに「度を超して品が悪い」「たちが悪い」という意味が加わったとされています。
「どい」はそれだけで自立して使えない
あくどいの「どい」は、それだけで独立した意味はありません。例えば「きわどい」は「際疾い」、「するどい」は「鋭い」と書き、いずれも「どい」だけで使うことはありません。
基本的にあくどいは「灰汁(あく) どい」からきていますが、いき過ぎを意味する「くどい」に接頭語の「あ」をつけたものであるとする説もあります。
あくどいの例文
あくどいは、次のように使います。
- 色があくどい (色がどぎつい)
- 化粧があくどい (化粧がケバケバしい)
- あくどい商売 (たちが悪い商売)
- あくどい服装 (ケバケバしい服装)
- その提案内容は少しあくどい (提案内容が行き過ぎている)
あくどいの類語
あくどいと同義の言葉にはどのようなものがあるのでしょうか。類語を見ると、あくどいの「あく」が、「悪」でないことが理解しやすいでしょう。
【服装や外見など】
品のない、けばけばしい、どぎつい、派手など
【行動など】
狡猾、悪質、 よこしま、老獪、腹黒いなど
あくどいを英語で言うと?
あくどいは目的語によってその意味に幅があるため、複数の英語表現があります。
Lurid、gaudy、flashy、too much、unscrupulous 、vicious、dishonest
- the lurid cover of a book (あくどい本の表紙)
- a gaudy decoration (あくどい飾り)
- His fashion is too flashy (彼の服装はあくどい)
- That woman was wearing too much makeup (あの女性は化粧がケバケバしい)
- He is famous for being unscrupulous business (彼は度を超した商売で悪名高い)
合わせて覚えたい! 間違いやすい表現
あくどい同様、意味を間違えやすい表現はほかにも色々とあります。あくどいと合わせて覚えておきましょう。
「役不足」は「力不足」ではない!
ビジネス会話にも頻出する「役不足」は、意味を間違えやすい表現のひとつです。 役不足は「役」が「不足」していること、つまり「能力に対して役目が軽すぎる= 簡単過ぎる任務」であることを意味します。
役不足は本来の意味に対し、「能力が足りない」という逆の意味で捉えられることも多い表現ですが、能力が足りないという意味で使う場合は役不足ではなく、「力不足」になります。
「煮詰まる」は「追い込まれた状況」ではない!
「アイディアが煮詰まる」など、ビジネスシーンでもよく使われる「煮詰まる」は、「行き詰まっている」「追い込まれている」という意味で使っている人も多いようですが、それは間違いです。
「煮詰まる」とは、「議論や意見が出尽くして結論の出る状態になる」ことを指し、結論が出る直前に用いられる表現であることを覚えておきましょう。
「失笑する」は「あきれて笑う」ではない!
「失笑する」を「あきれて笑う」という誤ったニュアンスで使う人が見受けられますが、本来の意味は「思わず笑いだす」「おかしさのあまり噴き出す」という意味です。例えば「見当違いな意見に失笑する」は、見当違いな意見にあきれて笑うのではなく、思わず吹き出してしまうことをいいます。
そのため「失笑する」は笑いが出ない状況では使われません。「失笑」の「失」は「失う」という意味ではなく、「失言」「失禁」などと同様に、抑え込んでおくべきものを抑えきれずに外へ出してしまうという意味です。
なお文化庁の平成23年国語に関する世論調査によると、何と6割以上の人が「失笑する」を「笑いも出ないくらいあきれる」の意味と誤認識していたという結果が出ています。
「檄をとばす」は「頑張れ! 」ではない
スポーツの試合などでは、「監督が檄をとばす」という表現を見たり聞いたりすることがあります。「激励すること」と捉えている人も多い「檄をとばす」ですが、本来の意味は「自分の主張や考えを広く人々に知らしめて同意を求めること」です。
「檄」とは、もともと古代中国の召集または説諭のための文書のことで、現代ではそれが転じて「自分の主張を述べて同意を求め,行動への決起を促す文書」を指しています。
的は「得る」ものではなく「射る」もの
「的を射(い)る」は、矢を的にうまく当てる様子から「うまく要点をつかむ」という意味で使われますが、この「的を射る」と間違えやすいのが「的を得る」です。この言い方は誤りなので、「的を射る」と覚えておきましょう。
「浮き足立つ」はウキウキした気分という意味は含まない
「浮き足立つ」は気持ちが浮ついてウキウキした様子と勘違いされることがありますが、落ち着かない様子、不安や恐怖から逃げ腰になる様子を意味する言葉です。ビジネスシーンでは「提案が受け入れられるかわからず浮き足立つ」のように使います。
浮き足立つは「つま先立ち」が語源となっており、つま先立ちで落ち着かない様子をさして使われるようになりました。 文化庁の平成30年国語に関する世論調査によると、「浮き足立つ」の意味をきちんと理解できた人は、わずか26.1%という結果が出ています。
間違いやすい言葉の意味をしっかりと覚えよう
あくどいとは「やり方が行きすぎてたちが悪い」「色などがどぎつい」という意味で、「悪どい」ではありません。ただし誤用が多い表現は、時代と共にその使われ方や誤った意味で定着することもあるので、基本をしっかりおさえつつ、変化に対応していきましょう。
参考文献
文化庁「文化庁月報 平成24年2月号(No.521)」
文化庁「文化庁月報 平成24年1月号(No.520)」
文化庁「文化庁月報 平成25年3月号(No.534)」
文化庁「文化庁月報 平成23年9月号(No.516)」
文化庁「令和元年度「国語に関する世論調査」の結果の概要」