出身や生まれを意味する言葉「出自」。類義語の「生まれ」や「出所(でどころ)」などと比べると、あまり口語的な表現ではありません。しかし近年は報道などで「出自を知る権利」が話題になるなど、目にする機会も増えてきました。また、IT関連の「データの出自」などの使われ方や、「資料の出自」などの使用例もあります。本記事では、出自の類義語や英語表現も紹介します。

  • 出自の読み方・意味

    出自という言葉には「出所」「生まれ」という意味があります

出自とは

最初に出自という言葉の読み方と基本的な意味を押さえておきましょう。

出自の読み方

「しゅつじ」と読みます。

出自の意味

一般的な意味として、以下の意味があります。

しゅつ-じ【出自】
(1)でどころ。うまれ。
(2)出生と同時に血縁に基づいて制度的に認知・規定される系譜上の帰属。
(『広辞苑 第七版』) 

(1)の「でどころ」と「うまれ」は以下のような違いがあります。

「でどころ」は「出所」と書き、ものごとが出てきたところを言います。例えば「その金の出所をさぐる」「出所がはっきりしない噂話は本気にしては駄目だ」のように使います。

人に対していう時は「生まれ」を使います。例えば「自分は北国の生まれだから暑いのは苦手だ」「あなたのお生まれはどこですか?」のような言い方があります。

このように出自という言葉は、人にもものごとにも使える言葉です。

  • (ものに対して使う場合)その儀式は仏教を出自としている
  • (人に対して使う場合)ケネディの出自をたどればアイルランドに行きつく

(2)は家系や血統、家柄などの関係性を厳密に言ったものです。出自は家系や血統、家柄の意味である場合もあります。

  • 高貴な出自を持つ(高貴な家柄である)

人類学の文脈で使われる場合は、祖先から父系・母系をたどって受け継がれていく系譜の型を指します。

  • 古い日本の家制度は父系出自を親族と伝統としていた

法的な意味では、「血縁に基づいて精度的に認知・規定される系譜上の帰属」という意味を持ちます。

  • 生殖補助医療によって生まれた子どもに、自分の出自を知る権利があるかどうかが問題になっている

出自の類義語と関連語

出自の類義語には以下の言葉があります。

生まれ

「生まれ」という言葉には「生まれた土地」や「生まれた家柄」という意味があります。この意味で使う場合は、出自と置き換えることができます。ただし「生まれ」が口語的な表現であるのに対し、出自は書き言葉的な表現になります。

  • 北関東の生まれだ⇒北関東の出自である

出身

「出身」は「生まれた土地」や、所属していた団体を指す言葉です。出自は生まれた土地という意味の「出身」と置き換えることができます。「民間出身」「慶応大学出身」のように、所属団体については出自に置き換える表現は、今日ではあまり目にすることはありません。

  • 出身は福岡である⇒出自は福岡である

出(で)

「出(で)」という言葉にはさまざまな意味がありますが、その中に「出所」「出身」の意味があります。その意味で使われる「出」は出自と置き換えることができます。

  • 貴族の出⇒貴族の出自

素性(すじょう)

素性という言葉は、血筋や家柄、生まれや育ちを指す言葉です。出自と置き換えることができます。

  • 素性がはっきりしない⇒出自がはっきりしない

家柄

家柄という言葉は、ある人が生まれた家の地位や格式を指す言葉です。出自と置き換えることができます。

  • 家柄を鼻にかける⇒出自を鼻にかける

門地(もんち)

門地とは、家柄や血筋を指す言葉です。出自と置き換えることができます。

  • 社会的地位や門地によって差別されることのない⇒社会的地位や出自によって差別されることのない

御里(おさと)

御里とは「御里はどちらですか」と相手の出身を問う敬語的表現のほかに、素性のよしあしをいうときに使う場合があります。「お里が知れる」とは、生まれや育ちが良くないのがわかる、という意味です。この意味で出自と置き換えることができます。侮蔑的・差別的な意味を持つ場合があるので、注意が必要な表現です。

  • 出自の読み方・意味

    出自という言葉には家柄や出身の意味も含まれます

出自の使い方

出自という言葉の使い方とそれぞれの意味を見ていきましょう。

日常での使い方

出自という言葉は口語的に使われることは少なく、書き言葉として使われることが中心です。生まれや出所、由来といった意味で使います。

  • その祭りは神楽の出自を持つ

階級社会を描いた作品や文献での使い方

生まれの階級が問題になるような文脈で使われる表現です。低い身分出身であることを意味します。

  • 出自が問題となり、親戚から結婚を反対された

ビジネスシーンでの使い方

ビジネス関連やIT関連では「出所」という意味で使われる表現です。

  • 出自の異なるデータを相互にリンクする

法的・報道などでの使い方

現代で出自という言葉を最も目にする機会の多い用法が「出自を知る権利」です。この言葉は、非配偶者間人工授精(AID)によって生まれた子どもが、自分の遺伝上の親やルーツを知る権利のことを言います。

生殖補助医療技術の進歩にともない、人工授精によって生まれた子どもが増えるにつれ、スイスやスウェーデン、イギリス、オーストラリアの一部の州などでは「出自を知る権利」が法律で定められるようになりました。日本でもAIDによって生まれた人は推定1万人に上ると見られ、法整備が求められています。

  • 海外では出自を知る権利が法制度として確立されている国もある

人類学で使われる出自

人類学では、人が生まれると同時に組み込まれる、祖先を共通とする集団のことを「〇〇出自」と呼びます。「父系出自」「母系出自」などがその代表です。

  • 父系出自の系統図では、女性の子どもたちは除外される
  • 出自の使い方

    生殖医療の進歩によって出自を知る権利がクローズアップされています

出自の英語表現

出自は以下の単語で英語でも表現することができます。

birth

birthは「誕生」のほかに、「生まれ」の意味もあります。

  • She is of noble birth (彼女は貴族の出自である)

origin

originは「起源」という意味の英単語ですが、出自として使う場合もあります。

  • We visited people from different ethnic origins (私たちはさまざまな民族的出自を持つ人々の下を訪れた)

descent

descentは、物理的に「下へ降りること」という意味もありますが、家系図を「下へたどること」という比ゆ的な使い方として「家系・血統」という意味で使われる場合もあります。

  • This family is traced their descent to the royal family (その一家の出自をたどると王家に行きつく)

「出自を知る権利」を英語で

「出自を知る権利」はさまざまな言い方があります。

  • the right to know one’s roots
  • the right to know one’s origins
  • the right to know one’s genetic origins (遺伝的出自)
  • the right to know one’s biological origins (生物学的出自)

出自の読み方・使い方を間違えないようにしよう

「出身」や「生まれ」の意味で出自という言葉を使うケースは、口語的な表現ではないこともあいまって、今日では少なくなっています。

反面、「自分がどのようにして生まれたのか」「自分はどのようなルーツを持って生まれてきたのか」を知る権利として、出自を知る権利という言葉を目にする機会が増えています。生殖技術の進歩やDNA解析技術の進歩によって、出自という言葉に含まれる内容が変わってきたことがわかります。

一方、ものの出所(でどころ)という意味で使われる出自は、ビジネスの文脈でも使われます。出自は人ばかりではなく、データや情報、事物にも使われることを覚えておいてください。