近年、従業員満足度の向上を語る上で、ウェルビーイング(Well-being)という言葉が注目されています。ウェルビーイングとは「個人またはグループが、身体的、精神的、経済的、社会的に良好な状態なこと」を意味し、国連の「持続可能な開発項目(SDGs)」でも重要な項目として取り上げられています。本来ウェルビーイングとは個人的なものです。なぜ、今企業が注目しているのでしょうか?
2020年に実施された「デロイト グローバル ヒューマン キャピタル トレンド」の調査では、約9,000人の調査回答者のうち80%が「ウェルビーイング」を自分の組織の成功にとって重要または非常に重要であると認識し、重要度の高いトレンドとして上位にランクインしています。
「常時接続状態」は健康を損なう
新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの人が仕事と生活がより密接した関係にあることを実感しました。在宅勤務を経験した人は特に、生活と仕事を切り分けることが困難でした。テレワークが広がる現在、仕事とプライベートにおいてどうバランスをとるかより、仕事を生活にどう組み込んでいくかが課題になってきています。
従業員は家のパソコンでも常に作業ができる状態で、外出中でもスマートフォンでさまざまな作業ができるようになっています。それはもちろん、メリットも多くありますが、「常につながっている状態」でもあり、自分でも気づかないうちに働きすぎになっていることがあります。
2017年にフランスで施行された法律に、就業時間外に労働者がメールなどでの連絡に応答することを求められる範囲を制限する「切断する権利(right to disconnect)」という概念が盛り込まれています。それは「常時接続状態」は、従業員の健康を損なう可能性があるからです。同様の理由から、ウェルビーイングの一部として、デジタルウェルネス(職場や私生活でのテクノロジーとの意図的で健全な関係の追求)が重要になってきています。
体調が悪ければ、良い仕事はできない
今や、緊急事態宣言にかかわらず、私たちは出社前や入店前など、至るところで検温することが習慣になりました。体調が悪いと感じなくても、咳などの風邪症状のある人は在宅で仕事をしたり、自分は元気でも家族の体調が悪ければ出社を控えたりと、さまざまな形で自分や家族の健康状態を会社に伝える機会が多くなり、それぞれが「予防」を徹底しています。
こうして体調管理は既に習慣化しています。煩わしく感じている人もいるかもしれませんが、コロナ終息後も、企業が従業員の体調を「見守る」ことは従業員のウェルビーイングを守る上で、重要になってきます。
パルス・サーベイ(従業員へのアンケート)などを定期的に行うことで、従業員エクスペリエンス(EX)へのフィードバックや健康状態の変化に早く気づき対応することが可能になり、その結果、従業員とより良い関係を気づくことが実現されます。
これは、従業員の燃え尽き症候群などのメンタルヘルスの「予防」策になります。しかし、パルス・サーベイ自体は従業員エクスペリエンス(EX)を損なうような煩わしいものであってはいけません。簡潔に回答できる環境と、正直に答えられる文化づくりが必要です。
デジタルスペースにおけるウェルビーイング
デロイト グローバル ヒューマン キャピタル トレンドが行った調査では、テレワークを持続可能にする最も重要な要素として「デジタルコラボレーションプラットフォームの導入」という結果が出ています。物理的に離れていても効率よくコラボレーションできる環境が必要とされているのは明らかです。
しかし、デジタルから離れる時間を確立するには、ただコラボレーションを円滑にし、生産性を向上させるだけでは足りません。従業員のウェルビーイングを向上させるためには、以下の働く環境づくりに考慮する必要があります。
- 優先順位をつけ、気が散らないように集中することを可能にするツールやテクニックをユーザーに提供する
- ストレスを解消するために休憩を取るように促す
- 進歩や達成感を認識させる
- 組織、同僚、リーダーとのつながりを深める
従業員が仕事に満足度を覚えるのは、目的意識を持って業務を行い、達成感を感じる時です。満足している従業員は、生産性の高い従業員でもあります。ある調査によると、満足度の高い従業員は生産性が20%高く、離職する可能性が低いという結果が出ています。
従業員のウェルビーイングへの取り組み、そしてデジタルウェルネスを支援することは、ビジネス戦略に必要不可欠なのです。