「押っ取り刀で駆けつけました」という言葉を聞いたとき、あなたはその人に対してどのようなイメージを抱くでしょうか。
人柄やしぐさなどが、落ち着いている様を表す「おっとり」という響きを含んでいるため、「のんびりしている人」といったイメージを持ってしまうかもしれません。ただ、本来の押っ取り刀の意味はそういったおおらかさとはかけ離れています。
本記事では押っ取り刀の由来や正しい使い方、反対語などについて詳しくご紹介します。
押っ取り刀の意味
押っ取り刀は「急いで駆けつけるさま」を表す言葉です。「おっ」は「押し」が変化したもので、「無理に~する」や「強いて~する」などの意味があります。「他人に押しつける」や「なんとか押し切る」などの表現を使った経験はあるでしょう。
「おっ」を使うと「勢いよく~する」という意味にもなります。「おったまげる」などは現在でも使われている言葉です。
「押っ取り刀」は「押す」「取り」「刀」の3つから成り立っているという説や、「押し取るという動詞が音便化して押っ取るになった」という説などもありますが、いずれにしても「急いでいる状況」を表すことに変わりはありません。
押っ取り刀は間違った解釈をしやすい
押っ取り刀は「おっとり」という響きから「ゆったり」「おおらか」の意味と誤解されやすいです。
「おっとり」は、「おっとりした性格の人」や「おっとりとした動作」などのように使い、細かいことにこだわらない様子や、気持ちに余裕があることを表します。「急いで、慌てて」などの意味がある押っ取り刀とは意味が全く異なるので、正しく使わないと会話が成立しなくなるかもしれません。
「おっとり」の後に「刀」が続くので、「武士が刀を腰に差してゆっくりと歩いている様子」のイメージから「悠々と歩く」という意味にも間違われます。誤用を避けるためにも「押っ取り刀」と漢字で覚えておくようにしたいところです。
押っ取り刀の由来
押っ取り刀は、武士や侍が急いで出かけなければいけない事態が発生したときに「刀を腰に差す間もなく手に持ったまま向かうさま」が由来になっています。勢いよく刀を「押っ取って」家を飛び出していく様子がそのまま「急いで、慌てて駆けつける」という意味になったのです。
武士や侍がいた時代は、座敷で対面するときには小刀(しょうとう)を脇差(わきざし)にし、太刀(たち)は鞘に収めたまま右膝の脇に添えて置くという決まりがありました。この状態で緊急事態が発生すると太刀を左の腰に差す間がないため、鞘のまま右手で「押っ取って」駆けつけたというわけです。
押っ取り刀の使い方と例文
押っ取り刀の使い方と例文をご紹介します。
「事故の知らせを聞いたので、押っ取り刀で駆けつけた」
緊急事態などが発生して慌てて駆けつけたときの例文です。押っ取り刀だけでも「慌てて急行する」という意味はありますが、「~で駆けつける」と続けることで緊迫した様子を伝えられます。
「事件の一報を聞いた刑事たちは、押っ取り刀で飛び出した」
大急ぎでその場から駆け出す様子を表した例文です。「押っ取り刀で飛び込む」や「押っ取り刀で駆け込む」などの表現は一般的ではないため、「押っ取り刀」には「急いでその場を離れる」という意味合いが強く含まれていると考えられます。
押っ取り刀の類語
押っ取り刀の類語をご紹介します。
■「急いで」
■「慌てて」
緊急事態に駆けつける様子を表すときには、「急いで」や「慌てて」を用いるのが普通でしょう。「慌てて外に飛び出した」などの言い方は、世代を問わず日常的に使っているのではないでしょうか。
■取る物も取り敢えず
大慌てで駆けつける様子を表す慣用句です。「持つべき物も持たずに急いで駆けつけるさま」が由来となっているため、「押っ取り刀」とほぼ同じ意味で使えます。
このほかにも、「焦って」「ドタバタと」などが「押っ取り刀」の類語になるでしょう。
押っ取り刀の対義語
押っ取り刀に明確な対義語はありませんが、逆の意味で考えると「用意周到」などが該当します。
用意周到は「抜かりなく物事の用意がととのっている様子」を表すので、緊急事態が発生しても慌てることなく、駆けつけられるはずです。そのため、「取るべきものを取らず慌てる」を表す「押っ取り刀」の対義語と解釈できます。
押っ取り刀はプラスイメージのある言葉
押っ取り刀は、「急いで駆けつけるさま」を意味する言葉です。「のんびり」や「ゆったり」などの意味と誤解されやすいので、ビジネスシーンではとくに注意して使いましょう。取引先の緊急事態などにはおっとり刀で駆け付けることで、誠実なイメージを抱いてもらえるかもしれません。