Instagramを通したポジティブな影響

「インスタ映え?」iPhoneを構え写真を撮っていると、すかさずそう聞かれることが増えた。例えば、スーツを着たサラリーマンがお店の外観を撮影していても、小さな子供と散歩している親が撮影していても、同行者にインスタ映えか否かを聞かれることはほぼないだろう。このような言葉を投げかけられるのは、Instagramのメインユーザーである10代、20代の若者だ。

主語を大きく言うと、10代、20代の若者はSNSしかやらない、それゆえにSNSで得たライトな情報しか持たないと、良い見方をされていないことの方が多い。実際それは正しい意見ではある。でも思い返してみれば、上の世代から見たら若者はいつだってそういう存在だ。

実際SNSは使い方を誤り、掲載されている情報を信頼しすぎてしまえば、悪い影響を受け取ってしまいやすいツールではある。けれど私たちはそうしたネガティブな側面には目を向けすぎず、ポジティブに使う方法をすでに知っている。そのひとつが、存在さえ知らなかった服との出会いだ。

百貨店、ショッピングセンターでの出会いから

服との出会い方は、時代と共に移り変わってきた。

日本で本格的な洋服ブームが訪れたのは、1920〜1930年代。日本初の百貨店と言われる三越が呉服商から百貨店へと転換した時代である。その後、松坂屋、白木屋、大丸と続々と呉服商が百貨店化した。その後、高度経済成長期に入った1960年代には、百貨店で既成服を買うことが時代の最先端であり、百貨店が服との出会いの場となっていた。どのブランドの服を着るかが重要だったのだ。

1990年代後半からは、百貨店ブランドを着ることの価値が見直されていくことになる。ブランド信仰が一部に残りつつも、どう着こなすのか、そこに独自のセンスを見出して楽しむ時代に突入した。これは同時に、消費者が服のデザインに幅を感じられなくなっていることも意味している。

  • 百貨店には誰もが名前を知っているハイブランドが立ち並ぶ。自分もしくは友人、家族へのプレゼントを買う時、私たちは百貨店に足を運ぶ

百貨店、ショッピングセンターには、その時に流行しているデザインの服が並ぶ。どの店舗もそうだ。服の同質化により、百貨店やショッピングセンターに足を運ぶ機会が減り、私たちは古着屋が立ち並ぶ街に行くようになり、Instagramで個性的なデザインの服を探すようになった。

Instagramを通した服との出会い方

Instagramを通した服との出会い方は、いくつかある。1つ目は知り合いや、フォローしている芸能人の投稿で知るパターン。

  • ファッションモデルとして活動していなくても、おしゃれな芸能人は数多くいる。最近は私服がおしゃれな芸人が注目されている

知り合いの場合、今まではリアルなコミュニケーションを通してどこで買ったのかを共有していたが、「その服どこの?」を毎回やるわけにもいかないので、なんとなく気になっていた服の情報をInstagram越しで知れるのは便利だ。芸能人の場合、本職でモデルをしている人ではなく、例えば芸人であったり、俳優であったり、とにかくおしゃれな人であればフォローは厭わない。あくまでも大切なのは、自分の好みやセンスと近しいかどうかだ。

2つ目は、閲覧履歴や行動から好みそうな投稿をレコメンドされた中から出会えるパターン。

  • 「ショップタブ」や「検索タブ」で好みの商品がレコメンドされる。今すぐ購入にはいたらなくても、保存しておけるのが便利だ

この機能の良い部分は、普段の検索行動やいいねの変化に対して表示される内容が即座に反映されるところだ。夏が来る前にTシャツを買っておきたいと思う人は、Tシャツに関する投稿が並ぶ。存在さえ知らなくて検索することすらできない服と、簡単に出会える。目的なく歩いていた道で突然好みのお店の出会ってしまった時のようにな嬉しさがある。

時には失敗もある。愛せる一着に出会うため

こうしてInstagram上で出会った服の中には、安かろう悪かろうな服も正直たくさんある。ファストファッションの情報を発信することでフォロワーを増やすアカウントも多いため、トレンドごとに買い換える消費スタイルに流されることもある。けれどそうしたスタイルは長くは続かない。

次から次へと買い換えるスタイルを経験した後に訪れる虚無感と顔を合わせる時がいずれ来るのだ。買った時、身に付けた時には心の底から素敵だと思えていたものの、素敵だと思うことすら消費し、楽しんでいる自分がいることに気付く。

そうなると、多くの情報を取り入れること=消費を楽しんでいるわけではなくなる。この先も少なからず変わっていく自分のことも考えながら、長く愛せる一着を探すタームに移行していく。消費し楽しむことを経験したからこそ、長く着られる服のありがたみと、選ぶことの楽しさを知る。

ショッピングセンターにはないものを探している

なぜInstagramやSNSを通した服との出会いが重宝されているのか。その理由は瞬間的に売れる商品の大量生産により、ショッピングセンターや百貨店にはブランド名を変えただけの同質デザインの服が並び続けることに、楽しさを感じられなくなったからだ。1980年代まで百貨店に足繁く通っていた世代がブランドそのものに愛着を持っているようには、今の10代、20代はブランドにのめり込めない。好きになれるようなブランドや服を取り扱うお店は百貨店には並ばず、SNSでふと出会うしか手段がない。でも私たちは、自分が好きだと思える服とブランドがあることを心のどこかで知っている。それに出会うための手段のひとつとして、Instagramをポジティブ使っている。