「探検とは、選択肢のひとつではなく、必要不可欠なもの」
「歴史上最も孤独な男」、「最初の人間アダム以来、これほどの孤独を味わった者はいない」と呼ばれたことについて、コリンズ氏自身は「そんなことないですよ」と否定している。
たとえば、2019年に行われたアポロ11ミッションの50周年記念式典において「ある夜に、サモア人を小さなカヌーに乗せて、太平洋の真ん中に連れて行ったのですが、彼は自分がどこに向かっているのか、どうやってそこに行けばいいのか、まったくわからなかったのです。星が見えていて、それが唯一の友達なのに、誰とも何も話さない。彼こそ本当の孤独なんですよ」とコメントしている。
「それに比べたら、アポロの司令船は安全・安心で、快適な場所でした。温かいコーヒーもあったし、音楽も聞けたし、窓の外の景色も楽しめましたしね」。
彼はまた、アポロ11のミッション後、数え切れないほどの人から「月に降りられなかったことを後悔していませんか?」と聞かれたという。しかし、彼はいつも「まったく後悔してませんよ」と返していた。
「アポロ11ミッションに参加し、3つしかない座席の1つに座れたことは、本当に光栄なことだと思っています。宇宙飛行士の仲間の中には、その座席を手に入れるためになんでもしようとした人もいましたからね。その1つに座ることができて本当に満足しています」。
そして「私が座ったのは一番いい席だったか? それは『いいえ』です。しかし、私はあの席で十分満足していました。不満も恨みもありません。とても幸せでした」と振り返っている。
ちなみに、アポロ11の乗組員を列挙するとき、一般的には月に降り立ったアームストロング氏、オルドリン氏を先に書き、コリンズ氏が最後とされる場合が多い。しかし、実際には船長、司令船パイロット、月着陸船パイロットという順でランクがあり、したがってコリンズ氏を2番目とするのが正しく、私たちの直感にやや反するようではあるが、「一番いい席ではなかったが十分満足」といえるものだったのは間違いない。
コリンズ氏はまた、アポロ8の乗組員から外れた当時、大いに落胆したという。
「100年後の人類が歴史を振り返ったとき、『母星である地球を最初に離れた人』と『近くにある衛星に降り立った人』とでは、前者のほうが重要でしょう」(コリンズ氏)。彼が月に降り立てなくとも不満を抱かなかったのには、こうした考えもあったのだろう。
さらに彼は、アポロ11のミッション・パッチのデザインでも貢献した。デザインを考えているとき、バックアップ・クルーのジム・ラヴェル氏から「アメリカン・イーグル(アメリカ合衆国の国鳥であり、国章にも描かれているハクトウワシ)を入れたらどうだろう?」と提案を受け、「そいつはいい! イーグル(月着陸船の名前)が着陸するのだから、これ以上ふさわしいものはないね!」と快諾。そして、近くにあったティッシュペーパーにワシと月面を描き、それがパッチの原型となった。
ちなみに、もしコリンズ氏がアポロ11での飛行後も宇宙飛行士を続けていれば、アポロ14のバックアップ・クルーに、またアポロ17の船長になる可能性があった。
これについて、1974年にコリンズ氏は、「1969年6月の時点で、アポロ計画が17まで続くとはとても思えなかった。そして、宇宙飛行士を辞めるという決断をしたことを後悔したことはない」と振り返っている。もっとも、「アポロ17でジーン・サーナンが月を歩いている姿は、ちょっとばかし興味深かったね」とも、ウィットに富んだ表現で、ほんの少し残念に思っていたことを語っている。
彼はのちに、「探検とは、選択肢のひとつではなく、必要不可欠なものなのです」と語り、そして宇宙で過ごした経験から「私たちは、我々地球人がどのような文明を創り、銀河系の他の地域に進出したかどうかについて、記録に残すべきです」という言葉も残している。
「真のパイオニア、生涯にわたる探検家」
コリンズ氏の家族は声明の中で「マイクはつねに優雅さと謙虚さをもって人生の挑戦に立ち向かい、最後の挑戦となった今回も同じように立ち向かいました。彼がいなくなってとても寂しく思います。しかし私たちは、マイクが自分の人生を生きられたことをどれほど幸運だと感じているかも知っています」と述べている。
「私たちは、その人生を悼むのではなく、祝福してほしいという彼の願いを尊重します。どうか私たちと一緒に、彼が宇宙から地球を振り返ったり、釣り船のデッキから穏やかな海を眺めたりして得られた、彼の鋭いウィット、静かな目的意識、そして賢明な視点を、懐かしく、そして楽しく思い出してください」。
コリンズ氏の逝去を受け、NASAのスティーヴ・ジャージック長官代理は「今日、私たちは、真のパイオニアであり、生涯にわたる探検の提唱者を失いました」とコメントした。
「マイケルは宇宙開発に積極的な推進者であり続けました。NASAは、熟練したパイロットと宇宙飛行士であり、そして人類の可能性の限界を押し広げようとするすべての人々の友人であった彼を失ったことに、深い哀悼の意を表します」。
そして、「彼の仕事のすべては遺産として、そしてアメリカの宇宙への第一歩を踏み出したリーダーの一人として、存在し続けるでしょう。そして、私たちがより遠い地平線に向かって冒険するとき、彼の精神はつねに共にあり続けるのです」と述べた。
参考文献
・Statements on Passing of Michael Collins | NASA
・Michael Collins | NASA
・Michael Collins, Apollo 11 astronaut who orbited moon, dies at 90 | collectSPACE
・The Making of the Apollo 11 Mission Patch | NASA
・Michael Collins | NASA