以前から徐々に進んでいた企業の働き方改革は、今回のコロナ禍で変革と言うべきレベルに加速した。特に、テレワークが政府の要請もあって急速に導入する企業が増え、オフィスの在り方も問われるようになった。

果たして本当のところはどうなのか。1年間、働き方の変革に向き合ってきたコクヨとヤフーのトップ対談から見えてきたものとは?

「働くのミライ会議 KOKUYO WX(WorkTransformation) カンファレンス 2021」での、コクヨ代表取締役社長 黒田英邦氏と、ヤフー代表取締役社長CEO 川邊健太郎氏による会談を紹介する。

  • コクヨ代表取締役社長 黒田英邦氏(左)と、ヤフー代表取締役社長CEO 川邊健太郎氏(右)

各メディアから注目された2社の取り組み

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の加速やコロナ禍で、急速に働き方改革を進める企業は少なくない。なかでも、トップが対談したコクヨとヤフーの取り組みは、各種メディアにも取り上げられているので、ご存知の方もいるだろう。

まずは、それぞれのトップから自社の取り組みに関する簡単な紹介があった。

「オフィスを中心にしたビジネスを展開しているコクヨにとって、テレワークの普及は看過できない問題でした。コクヨをどうするか考えたとき、自社で新しい働き方の実験ができる場として品川オフィスを大規模リニューアルすることにしました」。(黒田氏)

「ヤフーでは、2012年から『どこでもオフィス』というスローガンのもと月3回のテレワークを推進してきましたが、実際は活用する社員がまったく増えませんでした。そこで、今回のコロナ禍を機に変革を加速。『ヤフーはインターネットに引っ越します。』という宣言を出し、テレワークの無制限化やフレックスタイム勤務におけるコアタイム廃止等を行いました」。(川邊氏)

コクヨはビジネスモデルに対する危機感から、ヤフーはコロナ禍を機会として取り組んだようだ。

  • 品川オフィスを大規模リニューアルした、と話す黒田氏

目的に応じて仕事場を選択できる環境が重要

対談では、それぞれの取り組みに対するより詳細な紹介や現状報告についても話し合われた。例えば、ヤフーの宣言は「社員が仕事をする共通の空間をオンラインにする」という意味だという。

「私は別にオフィス不要論者ではありません。ポイントは、一番パフォーマンスの上がる場所で仕事をすること。オフィスであっても在宅であっても構いません。オンライン上ですべての仕事ができるようになれば、勤務場所を自由に選べます」。(川邊氏)

実際、ヤフーではテレワークに関する社内アンケートを実施したところ、95%の社員が在宅勤務で業務に従事し、92.6%の社員がリモート環境でもパフォーマンスへの影響がなかった、もしくは向上したと回答している。ただ、「いつも同じ空間で仕事をするのはつらい」といった意見もあったという。

  • ヤフー社内での「テレワーク」に関するアンケート

一方、コクヨの大規模リニューアルは、ニューノーマル時代における新しい働き方を実験すためのものだ。

「オフィスで顔を合わせていれば、ランチに一緒に行って、何気ない会話から新しいアイデアがひらめくこともあります。ところが、テレワークでは無理です。求められるオフィスの形は変化していきますが、この実証実験を通して必ずコクヨの出番を創り出せると思っています」。(黒田氏)

定型的な仕事はテレワークでもパフォーマンスを上げることができるが、イノベーティブな仕事は人の集まるオフィスのほうが向いているということだろう。この点については、川邊氏も理解を示す。

「最大多数のパフォーマンスが上がる場所はオフィスだと思います。在宅だと狭いし、子どもの問題もあります。目的に応じて仕事の場を変えられる環境にすることが重要でしょう」。

コロナ禍を機会に多様性が認められる社会へ

二人の話は、新しい働き方である副業にも及んだ。特に、ヤフーではユニークな試みを始めている。

「テレワークになったことで1日の業務可能量が増え、副業を認める企業も多くなりました。そこで、社外から副業したい人を募集したところ、4,500名以上の応募をいただきました。実際に、『ギグパートナー』として100名余りを採用し、オープンイノベーションにつながる実績を上げています」。(川邊氏)

  • 社外から副業人材100名を採用した、と話す川邊氏

一方、コクヨでも社内副業を認める制度を導入したという。

「副業は新しい仕事にトライできるチャンスです。それは社外でなくてもいいわけです。当社では、社内で手伝ってほしい仕事に関する募集をかけ、業務量の20%を上限に社内で副業ができる制度を設けました」。(黒田氏)

テレワークの普及により、新しい働き方が生まれているようだ。最後に経営トップ二人の印象に残ったメッセージを紹介したい。

「日本社会にあった(ワークスタイルにおける)同調圧力の面から考えると、コロナ禍は不幸中の幸いかもしれません。働き方や、なりたい自分の多様性が認められる時代になりつつあります。この多様性からイノベーションが生まれるのだと思います」。(川邊氏)

「時代とともに、社会もお客様も法律も変わっていきます。これらの変化に負けないためには、自分自身も変化していく必要があります。多様性が認められる社会になるのだから、果敢にチャレンジしてほしい」。(黒田氏)

確かに従来の日本社会は、『右へ倣え』の社会だった。しかし、それは自ら考える必要のない、ある意味ラクな社会でもあった。ところが、多様性が認められるようになると、そうはいかない。我々ビジネスパーソンも覚悟をもって、時代の変化に対応していくが必要がありそうだ。