「もりそば」と「ざるそば」。いずれもおそば屋さんでよく見掛けるメニューですが、具体的にどのような違いがあるのか、正確に知っている人は少ないようです。本記事では、そばの歴史を振り返りながら、もりそばとざるそばの違い、見分け方について紹介します。せいろそばや、おいしい食べ方についてもまとめました。
もりそばとざるそばの違いとは
もりそばとざるそばの違いで最もわかりやすいのは、そばの上に海苔(のり)がかかっているかどうかです。一般的には、何もかかっていないのがもりそばで、海苔がかかっているのがざるそばです。店舗によってはそば自体の品質や器の形状、つゆの味などで区別しているところもあるようです。
もりそばとざるそばの歴史
現在は大きな違いのないもりそばとざるそばですが、歴史をたどるとその成り立ちに違いがあります。そばの歴史を振り返りながら、もりそばとざるそばの違いを説明します。
そばは中国から伝わった
そばが日本に伝わったのは、奈良時代よりも前だと言われています。中国大陸から伝来してきたといわれますが、古くは雑穀として粥(かゆ)にしたり、そば粉を練ったものをゆでた「そばがき」として食べたりしていました。主食として栽培されるのではなく、非常時に備えてわずかに栽培されている雑穀だったようです。
もりそばの歴史は、かけそばと区別することから始まった
もりそばは「ぶっかけそば」、つまり「かけそば」と区別するために作られたといわれています。1660年代(徳川第4代将軍治世)、江戸にそば屋さんが登場した頃は「そば切り」に汁をつけて食べるつけそばが主流でした。
しかし1690年代には、そば切りに汁をかけて食べるぶっかけそばを出す店が登場。そこで、ぶっかけそばと従来のつけそばを区別するため「もりそば」と呼ばれるようになりました。そばを高く盛りつけたことからも「盛りそば」と表現されたようです。1770年代の句集にもりそばを詠んだ句が登場しています。
ざるそばの歴史の始まりは江戸時代と明治時代にあり
「ざるそば」という呼び名は深川洲崎にあった「伊勢屋」というお店が発祥とされており、1750年代には江戸の名物そばとして書物に紹介されています。水が切れるよう、竹のざるにのせて供されたことから、ざるそばと名付けられました。
海苔がかかったそばをざるそばと呼ぶようになったのは、1860年代後半、明治以降といわれます。もりそばより高級感のあるものとして区別するためです。その他にも、つけつゆにみりんを用いてコクのある濃いものにするなど、さまざまな工夫がなされていたようです。
もりそばとざるそばの見分け方
もりそばとざるそばの見分け方を紹介します。
海苔(のり)の有無で見分ける
もりそばとざるそばの違いで最もわかりやすいのが、海苔の有無です。もりそばには何もかかっていませんが、ざるそばには海苔がのっています。明治以降、もりそばとざるそばを区別するため、ざるそばの上に当時は高級だった海苔(のり)をのせるようになりました。
現代もそば屋さんの多くは、海苔があるかどうかでもりそばとざるそばを区別しているようです。
つゆの違いで見分ける
また、当時はざるそばのために、出汁(だし)にみりんを入れたコクが深いつけつゆ「ざる汁」が作られていました。現在は専用のざる汁を出す店は少なくなっており、もりそばと変わらない場合も多いようですが、一部の店ではつゆの違いでもりそばとざるそばを見分けられます。
ではせいろそばとは何か
江戸時代末期にそばを値上げする代わりに量を減らすため、見た目が変わらないよう上げ底ができるせいろを用いてそばを提供したものが「せいろそば」と呼ばれるようになったという説があります。
現在もせいろそばは基本的に、もりそば、ざるそばと同じもので、器の違いで区別していることが多いようです。
もりそばやざるそばのおすすめの食べ方
もりそばやざるそばはどのように食べるといいのでしょうか。もりそばやざるそばのおすすめの食べ方を紹介します。
まずそばだけを食べる
最初のひと口目は何もつけず、そばの風味や食感を味わうのが粋な食べ方です。そばのどごしやそば本来の味を楽しみましょう。鼻にぬける香りを堪能できます。
つゆはつけすぎない
つゆをたくさんつけると、味のバランスが崩れてしまいます。そばの3分の1程度をつゆにひたして食べるのがベストだと言われています。すするときは、途中でかみ切らないようにしましょう。
薬味はつゆに入れずに食べる
そばの食べ方にこだわりがある人は、薬味の使い方にもこだわります。例えば、ワサビをつゆに入れないでそのままそばにのせて食べたり、初めは何も入れず途中から薬味を入れたりするなど、さまざまな食べ方ができます。自分にあった食べ方を探してみるのもいいでしょう。
そば湯を飲む
そば湯を飲む風習は、信州から江戸に広まったと言われます。白く濁ったそばのゆで汁には、栄養が多く含まれています。その栄養を無駄にしないようにとそば湯を飲むようになりました。そばを食べたあとは、そば湯を飲んでそばの栄養をとりましょう。
一見同じに思えるもりそばとざるそばには違いがあった
時代にともなって変化し、その違いが少なくなってきたもりそばとざるそば。今は同じように思われていますが、歴史を振り返ると大きな違いがありました。二つのメニューの歴史や違いを理解しておけば、そば好きな上司との雑談の際などに、一目置かれるようになるかもしれません。