生き物の形や行動には、重要な機能が隠されています。今日まで生き延びたのには理由があるのです。何億年もの時間をかけて進化してきた生き物の形のうち、特に重要な「口」に焦点を当て、親子、仲間と楽しめる生き物小ネタを紹介します。

  • 画像はすべて『口を開けたらすごいんです! いきもの口図鑑』(インプレス)より提供

肉を食べないウシの犬歯はどうなってる?

突然ですが、クイズです。最初のテーマは歯!

生き物の歯と聞くと、オオカミやライオンの歯を想像するのでは。オオカミなどの鋭く長く、よく目立つ歯を犬歯(けんし)と呼びます。それでは、肉を食べない草食動物のウシの犬歯は、どうなっているでしょう?

(1)トラのように鋭く大きな犬歯
(2)ウシに犬歯はない
(3)草をすりつぶすのに向く臼の形
(4)草をかみ切るのに便利なシャベルの形
(5)真ん中に穴が空いたドーナツ形

正解は、(4)。ウシの犬歯はシャベルのような形で、草をかみ切る役割を持ちます。

どれが犬歯かわかりますか?

下顎の一番外側に生えているのが、犬歯です。上顎で前歯に当たる切歯・犬歯はなく、歯床板(ししょうばん)という硬い組織があります。長い舌で草を巻き取って口の中に入れ、歯と歯床板でかみ切ります。

ネコの臼歯は「臼」の形じゃない!?

続いて第2問です。テーマは、ものをすりつぶす臼歯(きゅうし)。肉食動物のネコの臼歯はどんな形でしょうか?

(1)やっぱり臼の形
(2)ネコに臼歯はない
(3)薄く尖ってギザギザがある
(4)犬歯と同じ円錐形

正解は(3)。ネコは臼歯をもっていますが、ものをすりつぶす機能はありません。「臼歯」という名前がついているのに、臼歯は臼の形ではないのです。

ネコが口の奥の方で、ものをかもうとしているのを見たことがありませんか? 飼いネコも手加減はしますが、奥の臼歯でかまれると非常に痛いものです。臼歯は肉を切る役割をするため、薄く尖ってギザギザがあります。「すりつぶす機能がなくて大丈夫?」と思うかもしれませんが、肉は消化しやすく、すりつぶす必要はありません。

人に話したくなる「口と進化のおもしろ小話」

ヒトのように上下に動くものだけが口ではありません。昆虫、エビやカニなどの甲殻類は、口が横に開きます。それから、顎がない生き物もいます。その名も「無顎類(むがくるい)」というグループで、円形の吸盤状の口を持っています。ヤツメウナギなどがそれです。

また、口の機能も食べることだけにとどまりません。ヒトのように器用な手をもたない動物は、ものや子どもを運んだり、巣を作ったり、毛繕いをするために口を使います。さらに、武器、異性へのアピール材料、鳴き声でのコミュニケーションなど、用途は多種多様。

ヒトの口にも特殊な機能があります。くちびるが赤い生き物って、ヒト以外にあまりいませんよね。ヒトに最も近いといわれるチンパンジーも、くちびるは赤くありません。ヒトのくちびるが赤いのは、コミュニケーションのためと考えられています。話すときに、赤い唇が動くのがよく目立ちます。笑ったり怒ったりのように表情も現れ、魅力にもつながっています。

一番すごい口はこれだ! と言えない理由は?

最後のクイズは、「これまでに紹介した口の中で、最も優れているものは?」。

答えはそう、「今日まで絶滅することなく生き延びてきたという点で、どれも優れている」です。肉、魚、果物、蜜……と、すべての食べ物をうまく利用できる生き物はいません。「比べられない」も正解です。生き物の世界は、口というパーツ一つとっても多様性に満ち、私たちが学ぶべき点も多いのです。

親子のコミュニケーションツールとして、また、スピーチのネタとして、とっておきの「生き物の口」の小話はいかがですか?

執筆協力:岩間翠(いわま・みどり)

1990年長野県生まれ。北海道大学大学院生命科学院修了。Webデザイナー・ライター・イラストレーターとして活動中。2021年、『口を開けたらすごいんです! いきもの口図鑑』(長谷川眞理子監修)を上梓。身近な生き物から、なかなか目にすることのない生き物まで全52種の生き物の口をイラストを交え紹介した。