感染症の世界的大流行は、働き方にも大きな影響を及ぼし、多くの職種においてテレワークが一気に普及することとなりました。そうした状況となってから、はや一年が経過しています。今後、状況が緩和した後にも、テレワークは相当程度残ることが予想されています。
そのような中にあって、職場のあり方も大きく変わり、特に、リーダーのあり方が問われる状況にあります。当然ながら、これまでとは違ったリーダーシップの発揮の仕方が求められているのです。
ダメな上司は、さらに輪をかけてダメに
元々ダメなリーダーは、そのダメな点が一層際立つ状況となっています。一方で、これまで優秀であったリーダーも、同じようなやり方では通用しなくなり、その強みであった点が一転、弱みに転じてしまうという事態も起こっています。
ダメなリーダーのケースから見ていきましょう。優れたリーダーというのは、メンバー一人ひとりをよく理解し、コミュニケーションの取り方を変えたり、適した仕事を割り当てたりすることができます。一方で、ダメなリーダーは、誰に対しても通り一遍の対応をしてしまいます。結果として、ついてこられなくなるメンバーが出てしまうことになります。
そのようなリーダーは、コロナ前からすでに、近年のダイバーシティの進展に伴って、リーダーとしての役割を果たしていくことが困難な状況にありました。個々の適性や資質がさまざまであることを前提としたマネジメントができないからです。
人材マネジメントの方向が、一人ひとりに合わせた「個別管理」の方向に向かっているにもかかわらず、リーダーシップの発揮の仕方が旧態依然としており、不適合を起こしていたのです。
とはいえ、日本企業においては、ダイバーシティということで考慮すべき要素としては、これまでは、性別と年齢くらいでした。しかし、テレワークが前提になると、住環境や家庭環境という新たな要素が入り込んできます。これまでは職場という同じハコの中で仕事をしていましたから、仕事をする環境という点において多様性は存在しませんでした。しかし、テレワークの普及により、働く環境さえも人それぞれとなりました。これはいわば、「新たなるダイバーシティの誕生」ともいえます。
自宅において、集中して仕事をしたり、オンライン・ミーティングをするのに適した個室が確保できたりするかどうかの違いがまず大きい。その他、家族構成もさまざまであり、育児や介護の有無の違いもあるでしょう。
テレワークでの生産性を問う調査※では、生産性が向上したとする回答と、低下したという回答とに二極化する傾向が見られますが、環境が人それぞれなのですから、いわば当然の結果といえるでしょう。
※出典:「テレワークと会社に対する満足度調査」NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション 2020年11月10日調査等より
こうした点も含めて、マネジメントはより一層複雑さを増しました。コロナ後の世界においては、リモートとリアルの一定割合でのハイブリッドな働き方となっていく可能性が高く、それへ向けて、組織のリーダーたちはマネジメント能力を磨いておく必要があります。ダメな上司の場合、クリアすべきハードルは途端に高くなったといえるでしょう。
優秀だった上司の強みも一転、弱みに
次に、テレワーク普及以前に優秀であったリーダーでさえも、立場が危うくなっているという点について見ていきたいと思います。
日本企業において、優れた上司といった場合、どのような上司像を思い浮かべるでしょうか。おそらくは、部下に寄り添い、相談に乗り、頻繁に声掛けをする、そんな上司ではないでしょうか。確かに、部下の側としても、しっかり見てくれているという安心感と程よい緊張感があり、また親近感も持て、ありがたい存在に違いありません。
実はこうしたマネジメントスタイルは日本企業特有のものではなく、MBWA(Management By Walking Around)といわれ、海外でも優れたマネジメント手法として認知されてきたものです。職場内をウロウロと歩き回るスタイルのマネジメントです。
しかし、こうした点を強みとしてきた上司ほど、テレワークという環境になると、コミュニケーションの取り方への悩みは深くなる傾向にあります。これまで優れた強みであった点が一転、弱みとなってしまうという転換が起きているのです。理由はもちろん、その手法が使えない環境となったからです。
人材マネジメントが個別管理の方向へ向かい、各メンバーの状況を把握することが重要とはいえ、直に把握することができない状況に。これまでの強み「寄り添う」がいっさい生かせない環境となったのです。
部下の側としても、頼りにし、親近感を持っていた上司に対して、「ちょっといいですか?」と気楽な相談を持ち掛けることが容易ではなくなりました。オンライン・ミーティングでは、時間が設定され、アジェンダが決まっています。そのような中で、「ちょっといいですか?」は言いづらい。 “ミーティングするほどでもない”相談ごとがなくなる傾向にあります。
それをしようとすれば、ちょっとした相談事が「会議設定」という大げさな手続きを踏まなければならないこととなってしまうのです。
上司に必要な新しいマネジメント手法
では、上司としてはどうすればよいのでしょうか。ひと言でいえば、最近盛んに言及されるようになってきた、「ジョブ型」の働き方に合ったマネジメント手法を身に付ける必要があります。これまで、職場で日々顔を合わせる中で、曖昧さを残しながらもなんとか進んでいた業務が、役割分担や優先順位、成果物を明確に決めなければいけない状況となったのです。
日本企業においては、こうしたマネジメントに不慣れなリーダーが多いに違いありません。しかし、ダイバーシティの進展やテレワークの普及により、待ったなしの状況となっています。
より複雑化した環境下において、メンバー一人ひとりの状況を把握し、不安や不満を解消し、生産性高く働くことができるよう、サポートしていくことが、これからの時代のリーダーには要請されているのです。
執筆者プロフィール:相原孝夫(あいはら・たかお)
人事・組織コンサルタント。株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長。早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン株式会社代表取締役副社長を経て現職。人材の評価・選抜・育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。