近年のスーツ離れにコロナ禍が追い打ちをかけ、ますます苦戦が強いられる紳士服業界。そんな状況下で、AOKIが今年発売した「アクティブワークスーツ」は異例とも言えるペースで販売数を伸ばしている。
セットアップで5000円台という驚きの価格設定でありながら、スーツ専門店としてのこだわりは随所に落とし込まれており、その確かな中身を伴ったコストパフォーマンスは業界内でも頭一つ抜けていると評価する声も多い。
この近年稀にみる大ヒット作はどのようにして誕生したのか、AOKIの広報室室長・飽田翔太さんにその舞台裏をうかがった。
企画から販売までわずか3ヶ月! 大ヒット商品誕生の舞台裏
――アクティブワークスーツとは何か、改めてご説明をお願いします。
アクティブワークスーツは、「スーツをもっと自由に、もっとアクティブに」というコンセプトで開発した新商品です。普段、あまりスーツをお召しにならないお客様にも、気軽に、カジュアルにスーツを楽しんでもらいたい。そんな思いで作りました。
――いつ頃から企画されていたのでしょう?
構想自体は1~2年くらい前からあったんです。「低価格・高機能」なスーツのニーズは年々高まっていましたし、AOKIでもそういう商品を提供したいという思いは前々からありました。
そんなときにコロナ禍が広まり、生活様式は一変しました。我々としても幅広いライフシーンに応じてスーツを着ていただけるよう、急ピッチで昨年12月くらいから本格的な企画作りをスタートさせ、今年2月に発売を開始いたしました。
――企画から販売まで約3ヶ月ですか。かなり早い展開ですね。
そうですね。通常のスーツの場合だと、企画から発売まで半年から1年くらいはかかります。
――なぜこんなに短期間で発売まで漕ぎ着けられたのでしょう?
今回、アクティブワークスーツがこれだけ早く発売できたのも、「コロナ禍で生まれた新たなニーズにいち早くお応えする」という経験が活きたのだと思っています。
実は、昨年の3月あたりにマスク不足が問題になりましたが、AOKIにもお客様から「マスクを作ってほしい」という声が多数寄せられたんです。これを受け、我々もマスクの開発を急ぎ、昨年の5月上旬から販売を開始しました。マスクは大変ご好評いただき、これまで1000万枚ほど売れています。
――マスクは開発から発売まで2ヶ月足らずだった、と。
その後は、「在宅ワーク中に何を着たらいいかわからない」というお声もいただきまして、今度は“パジャマスーツ”を開発しました。これは昨年7月くらいに企画を立て始め、11月に発売、当初売上計画の約2倍と好調に推移しております。
今回、アクティブワークスーツがこれだけ早く発売できたのも、「コロナ禍で生まれた新たなニーズにいち早く応える」という経験が活きたのだと思っています。
――つまり、アクティブワークスーツは変化するニーズに即応した“新生活様式シリーズ”の第3弾的な位置付けなんですね。しかし、この人気っぷりは予想されていましたか?
おかげさまで、想像を超えるご予約を頂戴しています。通常のスーツの場合、半年間で平均すると一品番あたり3000着ほどご購入いただいていますが、アクティブワークスーツは3か月で10000着もお買い求めいただいています。もちろん、通常のスーツよりも安価なので一概に比較はできません。しかし、予想以上にご好評いただいていることは確かです。
――まだ店頭では買えないんですよね?
初回生産分は2月1日にオンラインショップで先行予約販売を開始して、2週間ですべて完売しました。このとき、店頭に並べる予定だった分もすべてオンラインだけで売り切れとなりました。その後の第2弾、第3弾も大変ご好評をいただき完売し、今は第4弾が販売中ですが、まだオンラインショップのみの展開となっています。
アクティブワークスーツは今までのスーツと何が違うのか?
――販売回を重ねるごとに、生地なども変わっているんですか?
型紙はほとんど変わっていません。しかし、生地などはお客様の声を踏まえて改良を加えています。
例えば第4弾は、従来品と比べてストレッチ性が約20%アップしています。最近は自転車通勤の人も増えていますし、リモートワークで着座するシーンも多くなっていますが、伸縮性が高ければ、衣服圧が低く、体へのストレスが軽減できるため、楽に着ていただけます。
また、春夏の時期に涼しくお召しいただけるよう、軽量化も施しています。
――もともと「洗濯できるスーツ」はあったと思いますが、従来の商品と比べ、どこが新しいのでしょう?
洗い方は従来の洗えるスーツと同様にネットへ入れて、洗濯機で洗い、形を整えて干すだけです。ただし、アクティブワークスーツはポリエステル100%で耐久性も高いため、ハードに洗ってもシワや色あせが気になりにくく、扱いやすいことが特長です。
――扱いが楽というのはいいですね。それにしても、5000~6000円というコスパはどうやって実現できたのでしょう?
まず、副資材は必要なものだけに絞り込みました。ジャケットのインナーポケットを右側だけにしていたり、袖口のボタンも通常は3~4つですが、2つにしています。裏地も肩周りには付けていませんし、パンツ丈も最初から裾上げした状態なので、余剰分の生地をロスすることもありません。
一方で、スーツ専門店の技術を活かした“立体縫製”で作っているので、着用時は立体的なシルエットが美しく、長時間の着用でも疲れにくくなっています。糸の始末・ほつれ防止のため、スーツの仕立てに使われる「パイピング」をほどこしており、パンツのポケットも頑丈な“D管留め”になっています。
スーツ専門店としての物づくりへのこだわりは、アクティブワークスーツでも存分に活かしています。
――そのうえで機能性も高いわけですよね。
そうですね。例えば、ウエスト部分は伸縮仕様になっていますし、ヒモも付いているので、ベルトなしでラフに履いていただけます。ヒモは内側に隠すこともできるので、ベルトを付けたいときも邪魔になりません。このあたりは通常のスーツにはない機能ですね。
――ちなみに、サイズ感の設定はどうされたんですか?
通常のテーラードスーツはサイズが幅広く設定されていて、平均して10~15種類はあると思います。これをお客様の体型に合わせてフィッティングしていくわけですが、アクティブワークスーツはあえてS、M、L、LLの4サイズに絞ることで、オンラインでもセレクトやすいようにしました。
――でも、身長は大まかに分けられても体型は人それぞれで違いますよね?
そのとおりです。だからこそ各サイズをどのようななスペックで仕上げるかは、非常に難しい部分でもありました。そのあたりは、年間約100万着のスーツを販売してきた経験と、蓄積してきたデータを活かしながら、できるだけ幅広いお客様に着ていただけるようスペックにこだわって作りました。
伝統を大切にしながら、時代の変化にも応えていく覚悟
――購入者さんから好評の声は届いていますか?
「アクティブワークスーツはいろんなシーンで着られるから便利だよ」といったお声をいただいています。働き方が多様性していますが、アクティブワークスーツなら幅広いシーンに合わせられるので。他にも「色や柄、バリエーションを増やしてほしい」という意見も頂戴しているので、これからの企画に活かしたいと思います。
――最後に、今後の展開について教えてください。
アクティブワークスーツは、まさに新しい働き方やライフシーンの変化に合わせて作り出した“ニュースーツ”のような位置付けです。
時代が変わったとはいえ、テーラードスーツをバシッと着て商談やプレゼンに臨むといったスタイルはこの先も続いていくでしょうし、パーソナルオーダーで自分だけの一着を作りたいというご要望も残るでしょう。200年続くスーツの歴史が突然なくなることもないと思います。それでも、完全にコロナ禍以前に戻るのは難しいと考えています。
そういった状況もふまえ、今後もお客様の変化していくご要望を汲み取りながら、ライフシーンがより快適になるような商品をご提供していきたいですね。