カシオ計算機が4月7日に発表した最新の電子キーボード「Casiotone(カシオトーン)CT-S1」、発表会場では多く語られなかった「機能や性能の詳細」「どんな層をターゲットにしているのか」「ステイホームにあわせて開発したのか」といった話を、カシオの担当者に聞いてきました。

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    カシオの電子キーボード『Casiotone CT-S1』について取材してきました。CT-S1鍵盤数は61。本体サイズはW930×D258×H83mm、重さは約4.5kg。本体カラーはホワイト、ブラック、レッドの3色です

Casiotone CT-S1の概要

Casiotone CT-S1(以下、CT-S1)は、今から約40年前に発売された1号機「Casiotone 201」(1980年発売)の名称を現代に受け継ぐ電子キーボードです。部屋のインテリアと調和するデザインは、ホワイト、ブラック、レッドの3色で展開します。余談ですがCasiotone 201は、2020年に国立科学博物館の未来技術遺産に登録されました。

電子キーボードのデザインとしては珍しく、スピーカーネットの材質にファブリック素材を使用しています。この外観ゆえ、製品のたたずまいにはどこか親しみやすさを感じます。

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    布地のファブリック素材を大胆に配したデザイン

肝心の音源については、カシオ独自のAiX音源を搭載。選べる音色は全部で61種類。カシオ歴代のキーボードやシンセサイザー製品の音源を収録した「CASIO CLASSIC TONES」(12音色)や、カシオの最高峰・最先端の技術によって生まれた音色「ADVANCED TONES」(10音色)も利用できます。CASIO CLASSIC TONESのなかには、「CT E.PIANO:カシオ電子楽器の原点となるサウンド」として初代機Casiotone 201の音色も含まれています。

歯切れよく元気な音のDYNAMIC PIANO、しっとり大人の雰囲気のCLASSIC GRAND、ローズ・スーツケース(エレクトリックピアノの名機)を再現したPHASER E.PIANOなど、いずれも個性的な音色が厳選されています。また、左手の和音だけにストリングスを重ねながら、右手でピアノの旋律を弾くといった演奏も可能です(PIANO PAD)。CASIO CLASSIC TONES、ADVANCED TONESの全音色はカシオのホームページで視聴できるので、ぜひ聞いてみてください。

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    どんな音が鳴るのか、カシオのホームページでチェック

本体の底面には、膝の上で弾くときに安定できるように、ストラップを取り付けるためのピンが付いています。電源は付属のACアダプターか、単3形乾電池×6本(約3時間駆動)でも動く仕様です。発売日は4月23日、推定市場価格は30,250円前後です。

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    底面の2カ所にストラップ用のピン

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    単3形乾電池×6本でも動作

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    大きさ感はこんなイメージ

どんな機能が?ターゲット層は?

ここで改めて、カシオ計算機 楽器・教育マーケティング部の仁井田隆氏に、ざっくばらんに話を聞きました。

―― 発表会では「オシャレ」「音が良い」「気軽に使える」ということは強調されましたが、製品の機能詳細について多くは語られませんでした。

仁井田氏:今回の発表会は、あえてそのような見せ方にしました。CT-S1の操作部分も必要最小限のボタンだけにして、説明書がなくても弾き始められるようにしています。

その背景には「伝えたいことをシンプルな形で伝えたい」という思いがありました。これまでのカシオだったら、最初から機能盛り盛りで説明していたでしょう。でも、そうすると気軽にピアノを弾きたいと思っている人に対して、「そんなに多機能なピアノは使いこなせない」と思わせてしまうんですよね。

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    CT-S1(レッド)は、ビビッドな赤が目をひくモデル

仁井田氏:このような電子キーボードを手にした人は、はじめのうちは収録した音色を弾き比べることを楽しんでくれますが、気に入った音色を見つけたら、あまり変えなくなることが多いんです。そこで、シンプルで使いやすいことを広く紹介して、でも知れば知るほどマニアックな使い方もできる……というメッセージを込めました。

―― そう言われると逆に、搭載されている機能が気になってきますね。CT-S1には、どのような技術が使われていますか。

仁井田氏:CT-S1には、カシオの持っている鍵盤楽器の音づくりの技術を集約しました。基本的なところでは、打鍵の強さによって音質を変えています。キーボードを押したときの強度で音量・音質の両方が変わるんです。たとえば、強く弾くと倍音が響いて心地良い、そんな細かい調整をしています。

デジタルピアノのフラッグシップである「CELVIANO Grand Hybrid」で培った技術も応用しました。あとはバスレフスピーカーもこだわって作っているので、「コンパクトでも低音に迫力があってしっかり聴こえる」と言われますね。ピアノ弾きが満足できるキーボードに仕上がりました。

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    Casiotoneの製品サイトから

―― ユーザー層としては、どのようなところを想定、狙っているんでしょうか。

仁井田氏:あくまでもメインはカジュアルユーザーです。日本人には、ピアノは「ハノン」や「ツェルニー」(*)を使って、しっかりとした教育のもとで技術を身に付けていくものだという印象がありますよね。

でも、もっと気軽に楽しんでも良いと思うんです。こんな提案をするのはカシオくらいじゃないですか(笑)。『エリーゼのために』は弾けなくてもいいからビリー・ジョエルが弾きたい、という人もたくさんいるでしょう。CT-S1のような電子キーボードなら、そんな目標に向かってピアノをスタートできます。

*「ハノン」「ツェルニー」:ピアノの代表的な練習曲集

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    CT-S1(ブラック)は落ち着いたトーン。1本の赤いラインが入ることで、G-SHOCKのブランドカラーも想起させる?

仁井田氏:これまで2万円台の電子キーボードには、61鍵の『Casiotone CT-S200』(2019年発売)がありました。その上位クラスとなると、88鍵の電子ピアノ『Privia PX-S1000』(2019年発売)が5万円台です。そこで3万円台で高品質な製品を出したい、という思いがずっとあったんです。その価格帯に、ようやく質の高いCT-S1を提供できました。

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    背面にはUSB TO HOST端子、USB TO DEVICE端子、電源端子、ヘッドホン・アウトプット端子、オーディオ入力端子、ペダル端子を配置

―― CT-S1の開発ペースは、コロナ禍のステイホーム需要に影響された部分はありますか?

仁井田氏:いえ、開発は数年前からスタートしていました。結果的に、新しい生活様式に対応するようなCT-S1をこの時代に提供できた、ということです。外出の自粛で在宅時間が増えました。CT-S1は、何か趣味を始めたいと考えている方々にもオススメしたい製品です。楽器屋さんに行ったけれど、ボタンがたくさん付いているピアノや電子キーボードは難しそうでためらってしまった、もっと簡単に弾けるものが欲しい……、そんな方々にCT-S1を検討していただけたら幸せです。

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    弾かないときは立て掛けておくことも

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    オプションのBluetoothアダプター「WU-BT10」(6,930円)をCT-S1に装着すると、CT-S1とスマホをペアリングして、スマホの音楽をCT-S1でワイヤレス再生できます。また、MIDI対応機器とワイヤレス通信して、CT-S1をMIDIキーボードとして使うことも

カシオが持っている技術を注ぎ込みつつも、多機能を目立たせずに、弾きやすいシンプルな設計。見た目がかわいいのに、中身は充実した機能。多くを語らないメーカーのメッセージも含めて、面白い製品が出てきたなと感じました。また、俳優のMEGUMIさん、上杉柊平さん、ポップスピアニストのハラミちゃん、キーボーディストのKan Sanoさんら豪華ゲストが参加した発表会のレポート記事もあわせてご覧ください。