日本では新型コロナによる社会活動の抑制が続き、経済活動だけでなく教育面でも多くの課題に直面しています。少子化に関しても、2020年1月~12月の国内の出生者数が87万2,683人と過去最低を記録し、その流れはとどまるところを知りません。
そのような中で新年度が始まった4月、政府は「子ども庁」の創設を目指す意向を発表し、株式市場でも話題となりました。
今回は子ども庁を始めとした、投資における国策との向き合い方について見ていきましょう。
「子ども庁」創設で政府は何を目指しているのか
突如話題となった子ども庁ですが、どのような意図があって政府は創設を目指しているのでしょうか。簡単に整理しましょう。
現行の子育てあるいは教育を管轄している行政機関には、文部科学省、厚生労働省、内閣府があります。そのため例えば子育て施設一つとっても、幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省、認定こども園は内閣府と担当する機関がバラバラ。相談機関や支援策も担当機関が分散しており、類似の事業にも関わらず一元的に政策を行いづらい点が課題となっていました。
そこで、この縦割り組織状態を改善し、財政面の効率化を図ろうと「子ども庁」の創設を目指すことになったのです。待機児童や子どもの貧困など、現在手が行き届いていない広範な課題に対しての政策が期待されています。
「子ども庁」関連で上昇した銘柄は?
では、子ども庁関連でどのような銘柄に注目が集まったのでしょうか。保育所や幼稚園などにまつわるビジネスを展開する企業だけでなく、女性支援や保育施設への人材紹介を行う企業など、さまざまな銘柄が物色されました。いくつか見ていきましょう。
まずは『幼児活動研究会』(2152)です。全国の幼稚園・保育園で幼児体育指導を行うほか、園の経営コンサルも行う同社は子育て支援関連として急騰。4月1日に1,004円だった株価が4月6日に一時2,004円をつけるなど約2倍まで上昇しました。
新型コロナのあおりも受け、直近発表された21年3月期第3四半期累計(4-12月)の経常利益は前年同期比49.5%減と業績面では厳しい状況ではあるものの、子ども庁の創設により幅広い恩恵が期待される事業を展開していることから物色されました。
また3月25日に新規上場したばかりの『ベビーカレンダー』(7363)も出産・育児向けの情報メディアを手掛けていることから、関連銘柄として注目されました。業績面では2020年12月時点で月間PV数1億回以上を誇るメディア事業がコロナ禍でも成長を続け、2021年12月期の営業利益も2.1倍の成長を見込むなど高い成長が期待される企業です。
加えて、新規上場の銘柄は前につけた高値がなく、売るタイミングを見計らっている投資家も少ないないため、株価が上昇しやすい傾向があります。そのような状況も後押しとなり、株価は一時13,000円台をつけましたが、現在は10,000円近辺で推移しています。
そのほかにも『JPホールディングス』(2749)、『ポピンズホールディングス』(7358)、『SERIOホールディングス』(6567)など、子育て支援に関連する企業が軒並み急騰しました。
とはいえ、子ども庁の具体的な活動は早くとも国会で法案が提出される予定の2022年度以降であり、現段階で関連する企業の業績に直接結びつくかどうかは未知数です。
一方で今回のように、具体的にどのようなインパクトがあるかは不明であるがポジティブなニュースは期待が先行し、現状の業績等とは関係なく大きな株価の上昇につながることも少なくありません。それと同時に行き過ぎた株価はいずれ元に戻るため、今回も急激な上昇を見せたあと、各銘柄売りに押されています。
このように、何かのニュースをきっかけに株価が大きく上昇する材料株の投資は刺激的で楽しい部分はありますが、その材料がどのような効果をもたらすかは慎重に見極めて投資するとよいでしょう。
国策にはチャンスが眠っている!?
先に挙げた子ども庁だけではなく、教育関連では目下「GIGAスクール構想」が進行しており、教育面のDX化が急速に進む機運が高まっています。
「GIGAスクール構想とは、教育におけるICTを基盤とした先端技術の活用を進め、全国の学校現場で個別最適化された創造性を育む教育の実現を目指す構想で、2021年は「GIGAスクール元年」になるとも言われています。
ICT環境の整備のため小中学校の生徒向けに一人一台端末が配布される用に準備が進められ、納期の遅れなどから予定より遅れている模様ではあるものの、今年度の早い段階で端末の整備は完了する予定となっています。
今後も教育のICT化が本格化するにつれて、学校の通信ネットワークやオンライン教育のためのデジタル教材などには積極的に投資が行われることが予想されるため、関連する企業には引き続き注目が集まりそうです。
今回とりあげた子育て・教育関連だけでなく、最近では環境問題対策として二酸化炭素の排出量を減らす取り組みが加速しているほか、女性の活躍推進や企業統治の改善などの課題と合わせて「ESG投資」への注目度も高まっています。
「国策に売りなし」という言葉が投資の世界ではありますが、国策と言われる国がかかわる事業には大きな資金投入が予想されることから、投資テーマとして中長期的に扱われる傾向があります。
今年は秋までに衆議院総選挙が行われることが確定しているため、政治周りのニュースが活発化する可能性が高いです。
政治・経済のニュースをウォッチして投資にも活かすという、知識をつけながら投資活動にも結び付ける一石二鳥の手法で投資に取り組んでみてはいかがでしょうか?
Finatextグループ アナリスト 菅原良介
1997年生まれ、Z世代のアナリスト。早稲田大学 政治経済学部 経済学科に在学中は「株式投資サークルForward」の代表を務め、大学生対抗IRプレゼンコンテストで準優勝を獲得。2年間の長期インターンを経て、2020年Finatextに入社。現在はFinatextグループで展開される投資・証券サービスのディレクターを担当。コミュニティ型株取引アプリSTREAM内で開催されるイベントのモデレーターも務める。