誤用されやすい表現の中に、「他山の石」という故事成語があります。単なる石を指し示す言葉ではなく、仕事や人生の教訓になるような意味がありますが、誤って覚えている人も多いです。間違った使い方をすることで、他の人に対して失礼に当たってしまうこともありますので、社会人なら正しい使い方をぜひ覚えておきたいですよね。
この記事では、「他山の石」の正しい意味や使い方、どう誤用されやすいのかなどを紹介していきます。言葉遣いや語彙力に自信がない人に役立つ内容です。ビジネスシーンにふさわしい言葉遣いを身につけるため、ぜひ知っておきましょう。
「他山の石」とは
「他山の石」とは、「たざんのいし」と読み、自分の行いの参考になる他人の誤った言動を意味することわざです。
「他山の石」の意味
「他山の石」は他人の失敗やよくない行動を指して使う言葉ですので、いい意味としては使われません。「他山の石」が自分の今後の行動の参考にはなりますが、他人のよくない言動を指しており、悪いたとえとして使われる言葉です。
「他山の石」の由来
「他山の石」の語源となる言い回しは、中国最古の詩集「詩経」という古典にある「他山之石、以て玉を攻むべし(おさむべし)」というフレーズだと言われています。
「よその山から出た粗悪な石でも自分の石を磨くのに役立つ」という意味が派生して、「他人の悪い言動も自分の人格を磨くのに役立つ」という意味として使われるようになりました。
「他山の石」の誤解されやすい意味
「他山の石」は「他人のいい言動が自分のお手本になる」という、誤った意味として解釈されることが多いです。実際、平成25年度に文化庁が行った「国語に関する世論調査」の結果では、約3割の人が正しい意味だと理解していましたが、2割強の人は誤った意味で理解していました。
間違いやすい言葉ですので、由来を理解したうえで、正しい意味を認識しましょう。
「他山の石」の使い方・例文
「他山の石」は反省して役立てたい場合に使われますので、ビジネスで使えるシーンは多いです。具体的な使用例を見ていきましょう。
例文1
- 先日A社が行った謝罪会見は世論からの批判の的となり、多くの会社にとっての他山の石になるだろう。
何らかの不祥事があった場合、その後の対応を間違えてしまうと火に油を注ぐこととなり、さらに騒動となってしまうこともあります。記者会見もそのひとつで、謝罪方法や質問への回答、指名する記者の選び方、今後の対応方針など、さまざまな要因でさらに批判を集めることも多いです。
自分の会社が同じ轍を踏まないよう、過去に炎上してしまった記者会見から学ぶ場合に、「他山の石」という言葉が使われます。
例文2
- 彼の失敗を他山の石としてみんなで精進しよう。
どんなに頑張っていても、ミスをしてしまうことやうまくいかないことは誰しもあるもの。肝心な場面でうまくいかなかった場合、叱責するだけでは今後につながりません。「他山の石」を使った言い回しで教訓とすることで、チーム全体の今後の成長につながりやすくなります。
例文3
- Bさんの失言を他山の石として、皆適切な言動を取れるよう心がけよう。
不用意な発言が原因で取引先を怒らせてしまったり、他の人に不快な思いをさせてしまったりすることがあります。他の人が失言をした場合、上記のような言い回しをして、みんなで教訓とするのが望ましいです。
「他山の石」を使う場合の注意点
「他山の石」はビジネスシーンでも使いやすいことわざのひとつですが、使う相手や意味などに注意が必要です。そこで、「他山の石」を使う際の注意点をご紹介します。
「他山の石」は上司に対して使うと失礼
「他山の石」は社内で今後につながる反省点を見いだす場合などに、よく使われる言い回しです。しかし、上司の失敗に対して「他山の石」を使うと、上司の失敗を引き合いに出すこととなってしまい、失礼ですので避けましょう。
「他山の石」を手本にたとえるのはNG
<例文>
- Aさんの行いを他山の石にします。
「他山の石」の意味を誤解していると、「見習う」というつもりで使ってしまうことがあります。「他山の石」を褒めるつもりで使うと、上記の例文は「Aさんの行いを見習います」という意味です。しかし、正確には「Aさんのミスを教訓にします」という意味であり、相手に対して不愉快な思いをさせてしまいますので注意しましょう。
「他山の石」は誤用しやすい点に注意する
「他山の石」は、「対岸の火事」とも混同されて誤用されやすいため、意味をよく理解しておきましょう。「対岸の火事」とは、「自分には関係がなく、苦痛や災難を及ぼさない様子」をあらわす言葉です。他の人や会社のできごとをたとえる言い回しのひとつですが、「他山の石」とは意味がまったく異なります。
教訓になる「他山の石」と、関係ないことである「対岸の火事」との違いを、よく理解して使い分けましょう。
「他山の石」の類語表現
ビジネスシーンなどで使いやすい「他山の石」には、似たような類語もいくつかあります。類語として代表的なことわざや四字熟語などを見ていきましょう。
人のふり見て我がふり直せ
「人のふり見て我がふり直せ」とは、「他人の行動から感じるところがあれば、自分の身をふり返って改めなさい」という意味のことわざです。「他山の石」とまったく同じ意味で使えるうえ、言葉通りの意味であることから、よく使われています。
反面教師
「反面教師」とは、他人の言動を悪い見本として、反省や戒めの材料とする意味をもつ、四字熟語。中国の政治家の言葉が由来です。わかりやすく一般に浸透している言い回しで、広く使われています。
人を以て鑑と為す
「人を以て鑑と為す」とは、「他人の行動を見て、自らの行動を正そうとする」ことをたとえたことわざです。「他山の石」よりは少し広義ではありますが、同じ意味でも使える類義語のひとつです。
「他山の石」の対義語
「他山の石」の対義語の代表例を紹介します。
爪の垢を煎じて飲む
「爪の垢を煎じて飲む」とは、「優秀な人の爪の垢を煎じて飲み、その人にあやかろう」という、たとえばなしです。人の悪い振る舞いを教訓にするという「他山の石」とは対極の意味をもつ対義語となります。
薫陶を受ける
「薫陶」とは、「優れた徳によって人を感化し、教育すること」です。すなわち「薫陶を受ける」とは、「優れた徳による教育を受けること」をあらわします。「他山の石」とは反対の意味をもつ対義語です。
朱に交われば赤くなる
「朱に交われば赤くなる」とは、「人は交際する仲間によって感化され、善にも悪にもなる」という意味のことわざです。「他人の失敗を教訓にしよう」という「他山の石」とは逆の意味をもちます。
「他山の石」の英語表現
「他山の石」と全く同じ意味の英語表現はありませんが、「他人の失敗を自分の学びにしよう」というニュアンスは以下のような英文で表現できます。
Let her failure be a lesson to you.
(彼女の失敗を他山の石としなさい)Learn from others' mistakes.
(他人に失敗から学びなさい)
「他山の石」の意味を知って、使うときは誤用に注意しよう
「他山の石」は、本来は「他の人の失敗やよくない言動を教訓にする」ことを意味する言葉です。しかし、「他人の成功を見習って頑張る」こととして誤用してしまうことがあります。本来の意味を知っている人に対して使ってしまうと失礼に当たってしまうので、正しい意味を理解して使用しましょう。