マーケティングに活用される行動心理学のひとつに「アンカリング効果」があります。アンカリング効果は、価格の表示や店舗のディスプレイなど、さまざまな場面での活用が可能です。
この記事では、マーケティングや広報・企画など、ビジネスにおいて覚えておきたいテクニック「アンカリング効果」の意味や活用法などについて紹介します。
アンカリング効果とは
アンカリング効果とは、先に与えられた数字や情報(アンカー)によって、その後の判断や行動に影響が及ぼされるという現象を表す心理学用語です。具体的には、判断がアンカーに近くなる傾向があります。
アンカリング効果は、人間が先に知っている情報を基準として、その後の判断を歪めてしまうという心理的な行動です。そのため、日常で無意識に使っていることが多く、マーケティングに活用されたりもします。
アンカリング効果の語源
アンカリング効果の語源は、英語のAnchoringに由来します。Anchoringの意味は、錨を使って船をつなぎとめることです。
アンカリング効果は、心理学者であり行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーの認知バイアスについての共同研究の中で見出され、英語では、Anchoring Effectと表記されます。
マーケティングにおけるアンカリング効果の活用法
アンカリング効果は、実際のマーケティングの場ではどのように活用されているのでしょうか。ここからは、マーケティングでアンカリング効果を活用する方法についてケース別に紹介します。
情報提供サイトの場合
インターネット等の情報提供サイトでは、アンカリング効果を高めるために「先着順」「早い者勝ち」「〇月限定」といった表現が良く使われます。また、元々の値段(アンカー)と、上記のようなプロモーションによる値引き後の値段を表記する場合もあります。
これらは、「元々の値段が高いのだから、値引き後の値段がお得である」と、消費者に思わせるようなアンカリング効果を狙っているのです。
チラシ・POPの場合
チラシやPOPなどには、「メーカー小売希望価格」と「当店通常価格」や、「当店通常価格」と「〇〇セール中につき最終価格」といったように、二重に価格が表示されていることがあります。
これらの二重価格表示は、元々の値段がアンカーとなって、その後に表示された値段がお得に感じられるというアンカリング効果を活用した表記方法です。
店頭表示やネットショップの場合
店頭表示やネットショップなど、実際にその店舗やネットショップを訪問してくれた顧客に対して特別感のある表記をすることで、アンカリング効果が期待できる方法です。
例えば、「当店通常価格」と「本日限りの店頭価格」が二重表記されている場合、実際にお店に来た方に対して「こんなにお得に買えるのか」と感じさせられます。
アンカリング効果を活用するときの注意点
アンカリング効果を活用しすぎたマーケティングには注意が必要です。なかでも、二重価格表示については、消費者庁より景品表示法上でガイドラインが公表されていますので、不当な表示にならないように配慮する必要があります。
また、アンカリング効果を活用したマーケティングを長期間にわたり行う場合も注意が必要です。例えば、同一商品に対して、付加サービス等の有料化と無料化を長期間にわたって繰り返した場合、消費者にとっては無料であることが当然になってしまいます。その結果、無料であることが基準となり、より条件の良いものが出てくるかもしれないなどと考え、購入にいたらなくなってしまうでしょう。
その他のアンカリング効果の事例
人間の行動心理のひとつであるアンカリング効果は、さまざまな場面で活用されています。ここからは、マーケティング以外でアンカリング効果が使われている事例を紹介します。
営業におけるアンカリング効果
営業においては、自分の強みを最初に印象付けることで、商品説明を聞いてもらいやすくするといったアンカリング効果の活用方法があります。
例えば、「この分野・商品には詳しい」という印象を、顧客に対して最初に印象付けることで、のちにその顧客がその分野や商品について検討する際に、相談の依頼が来る可能性があります。
その他にも、顧客に見積書を提出する機会にアンカリング効果を活用することも可能です。例えば、見積書の中に「特別値引き」という項目を設け、合計金額からあえて値引きした金額を表示し、お得感を演出することなどが該当します。
株式投資におけるアンカリング効果
株式投資を行う際に、銘柄の過去の情報を調べてから購入する方は多いです。「過去〇年で△%上昇した」「上場〇カ月で△円上昇した」という情報をもとに、購入する場合などがそれに当たります。
証券用語で、「過去に1,000円だったのだから、今500円であるがいずれ上がるはずだ」と判断することを「高値覚え」といい、逆に下落したときの印象が強いあまり、銘柄を買えない心理になることを「安値覚え」といいます。
過去の情報は、その銘柄の今後を保証するものではありません。過去の情報によって、その銘柄が今後も上昇・下落すると判断しがちになるのは、アンカリング効果が影響しているといえます。
アンカリング効果をビジネスシーンで活用しよう
アンカリング効果は、先に与えられた数字や情報が、その後の判断や行動に影響を及ぼすという心理現象のひとつであることがわかりました。これを上手く使えば、消費者行動に影響を与えられるだけでなく、商談などビジネスを成功へ導くことも可能です。
アンカリング効果について正しく理解し、実際にビジネスシーンで活用してみましょう。